ビジコン発表の合間に、ネットエイジ西川社長・グリー田中社長・ドリコム内藤社長がキャリアについて語る企画があった。


一人は学生起業家。一人は大企業→ベンチャー勤務→起業家。一人は大企業→大企業→ベンチャーキャピタル。こんなに豪華な顔ぶれがキャリアについて語る場はなかなか無いのではないんだろうか。自分の発表なんかどうでもよくなった。観覧自由だったので、もしも同じ時間帯に、普通の社員の話を聞きにセミナーへ行っている就活生がいたとしたら、それは人生の損失だっただろう。というのは大げさなんだけれど、良い鼎談だった。


インターネットについての議論も興味深かった。


ネットエイジの西川社長はインターネットの新しい流れをキャッチアップしきれていない印象を受けた。予測市場のことを知らなかった。驚いた。インターネット事業で投資事業をしておいて、予測市場のことを知らないっていうのは、インターネットの新しい流れを捉えきれていないということだろう。


彼はWeb1.0だ。とかくだらないことを言うつもりはないけれども、たとえ、ネットVCの社長であっても、インターネットについての認識にはギャップがあって、そのギャップをついた事業プランというのは受け入れられやすいのかもしれない。認識ギャップを引き起こす新しい潮流を常に探し続ければ、それは事業プランにつながる。認識ギャップが大きくなりすぎて、「よく分かんないけどすごそう。」となると、バブルになっちゃうんじゃないだろうか。お金があまっているか、あまっていないかという問題もあるけれど。


より個人的には、何だかわからない苛立ちがあった。ネットVCというのは、ネット上の新しいものを常に探し続けている人たちというイメージがあって、そんな人たちのトップが、1年以上も前にも前に話題になって、日経新聞にまで載った予測市場で感心しているのはどうだろかと思った。僕はインターネット系のVCに憧れているだけになおさら苛立ちがつのった。


新しいものキャッチアップするっていうのはどっかでやはり限界がきてしまうんだろうか。いやすぎる。


以前、「『走りながら考えます』は何も考えていないのと一緒」と言っていたドリコム内藤社長と「走りながら考えます」といっている田中社長。インターネット企業の経営について、どんな議論が聞けるのか興味があった。けれど、内藤社長が司会役だったためか、議論せず終了。


グリー田中社長は「楽天もライブドアも最初からああいうふうに大きくなろうと思って起業したわけじゃない」と言って、中・長期的な経営戦略、起業にあたっての経営戦略の必要性を否定する。


たしかに、インターネットがどうなっていくのか誰にも分からなかった90年代後半には、走りながら考えるという戦略が正しかったのかもしれない。どうなるか分からないけれど、とにかくがむしゃらに頑張っている企業が大きくなっていったのかもしれない。


ただ、走りながら考える戦略が有効なのは、90年代後半のインターネットがまさにそうだったように、世の中を大本から変えてしまうような技術が登場して、将来どうなるか分からない市場においてだけではないだろうか。そもそも考えるための材料が存在しないから、実際にやってみてから考えざるを得ない。


しかし、インターネットは普及から10年が経ち、インターネットの市場は「将来どうなるか分からない。どんな事業ができるか分からない市場」から「なんとなく将来が見える市場」になりつつある。また、ネット上で活発に発信される情報そのものが、インターネットの予言書となりつつある。それに、インターネットの預言者、ビジョナリーたちほど積極的なネット配信をしている。考えるための材料はいくらでもある。


こうした背景で、「何だかよく分からないけど、やってみてから考えます。当社はスピード重視です。」という戦略の有効性は薄れてきている、というか無責任なように思う。


一方で、製品・サービス戦略として「作りながら考える」という戦略があり、特にWebサービスの世界で有効だ。けれど、経営戦略とはまったく別のはなしだ。


また、「走りながら考える」というロジックは、「志やビジョンすらも走りながら考えればよい」と、起業にあたっての志やビジョンの必要性を否定しているようなニュアンスに聞こえてしまう。そのような意味合いで言っているわけではないと思うが、起業家目指していますみたいな学生の前で話をすると、そのように受容されてしまう可能性がある。「とにかくやってみろ。やってみながら考えろ」と。


実現したいことを実現する手段であるはずの起業が目的になってしまっては良くない。企業は社会のために存在しているから、社会に提供できる価値が無くてはならない。「自己実現のために起業します」みたいな起業は正直どうでもいい。


経営戦略として「走りながら考える」は無責任である。製品・サービス戦略として「走りながら考える」のは重要。起業家の卵は「走りながら考える」とか言っちゃいけない。それは思考停止だ。