そして血の降る夜 前編 | なんでも食べ太郎

そして血の降る夜 前編


※お断り※


もしかしたら、この記事を読み、不快に思う方もいるかもしれませんが、

私は私の主義主張を持って、敢えてこの件を記事として記したいと思います。

もちろん食に関する事なので当ブログで扱う事としました。

この件を大勢の人に知ってもらい、考えてもらう事は、

食べ物について書いている当ブログ「なんでも食べ太郎」の筆者として

意義がある事だと考え、私は敢えて書く事を決意しました。


また、ブログという文章としてのツールを利用しているからには、

この件が読者の皆様の物を読むという欲求に耐え得るだけの内容だと確信して

記事にしています。それだけ非常に興味深い、面白いケースであり、

皆様方が読後に色々と考える事が出来る内容だと私は思っています。


また、この記事は特定の人を誹謗中傷する目的で書いている訳ではありませんし、

誰かを貶める事を目的としている訳でも、誰かを傷つける為に書いている訳でもありません。

当然、そう言った表現はしていないつもりです。

しかしまだ見落とし、盲点等あればそこはご指摘頂き、

そういった箇所があれば素直に加筆修正削除するつもりでいます。


そして本文は小説風の文体を取っていますが、

それは「なんでも食べ太郎」なりの遊び心であり、

皆様に読んで頂き易くする為の工夫でもあります。

ふざけている訳ではないという事をご理解下さい。


当然ながら、今回は普段の、のほほん路線とは多少趣きが異なります。

バイオレンス等含みますので、

当ブログ「なんでも食べ太郎」にそういった要素を求めていない方は

読まない事をお薦めします。お子様にもお薦めしません。




それでは、いつの日だったか、私が体験した驚愕の出来事。

唐突ではありますが、今回はその出来事を

ほぼノンフィクションでお届けしたいと思います。

飲食店、ひいては接客業の何たるかという根源を模索する問題作。




「 そして血の降る夜 」 - 前編 -


その日、私は、とあるバーへと入った。


とある街の、とあるビルに

そのバーはひっそりと居を構えている。


噂によると、そのバーには芸能人もお忍びで訪れるらしい…。


一体どんなバーなのだろうか?
私はまだ見ぬそのお店へ抱かれた興味を抑え切れずに

ビルの戸をくぐり、階段を昇ると、2階にあるそのお店の扉を開けた。



カウンターの中には、ひげ面で強面な

それでいてお姉的なマスターが佇んでいた。


嫌いな雰囲気ではない。


一癖も二癖もありそうなマスターと仲良くなって語らうのも、

実は飲食店の密かな醍醐味である。



席につき、お酒を注がれたグラスを持ち、店内をゆっくりと見回す。


そこには何人かの先客が静かにグラスを傾けていた。


芸能人がお忍びで通うにしては

いたって普通のバーといった雰囲気だった。





小心者の私は、単価が分からない店なので、

最初の1杯をちびり、ちびりと呑んでいた。




どれ位の時間が経っただろうか…。




その時は唐突にやって来た。




マスターが流す懐メロに合わせ、座って呑んでいたお客さんたちが、

一人、また一人と…立ち上がり、曲に合わせて唄い、踊り始めた。



そんな中、ふらりと一組のカップルがやって来た。

おそらく一見さんだろうか。

店内の様子に驚きつつも引き返すに引き返せなく席についたという感じだった…


聞くと彼は有名大学の学生だった。確かに理知的な顔をしている。


一時間ほど経った頃、店内の熱気にあてられたのか、

そのカップルも立ち上がり、踊り始めた。


一気に店内のボルテージは高まる。

そしてそれに呼応するかの様に真面目そうな彼氏が、ペロリとお尻を出した。



盛り上がる一同。

私も思わず爆笑してしまった。


そして気付くと、私以外の客は全員、立ち上がり、躍り狂っていた。

完全に私が生きてきたフィールドとは違う光景に

違和感を覚えつつも私は感心した事があった。


それは誰も私に同調を迫らない事だった。

こういう席ではよくある事だが、無理強いをされては私も白けてしまう。


ノリが悪いという意見もあるかもしれないが、

私はカッコつけている訳でもなく、気取っている訳でもなく、

心底別に躍りたくはないのだ。


その私の気持ちを汲み取ってくれたからだろう。


他のお客さん達は誰も私に、立ち上がる事も躍る事もも強要しなかった。

私はその大人な優しさに感心し精一杯応えようと、

ガラにもなく曲に合わせて手拍子を叩き、

皆が楽しんでいる様をニコニコと見守った。


そこはかつて体験した事の無い異空間ではあったが、

それはそれで楽しい時間だった。




それから一体どれほどの時間が流れ過ぎたのか定かではない。


皆の熱気は強力な磁場を生み、

店内の閉鎖空間は異次元へとワープアウトしたかの様だった。


そして普段そこに存在し得ない筈の私がそこに存在する事は、

必要以上に体力の消耗を要する。


ふと携帯を見ると午前二時を回っていた。

普段とは違う水場にいる事で、私もさすがに疲れ果てていた。


この空間に名残惜しさを感じながらも、私はチェックしてもらう事にした。


会計は1杯で三千円だった。


高けぇ。


正直そう思った。


内訳は分からないが、ドリンク千円にチャージが二千円といったところか…。


女の子がつく訳でもなく、マスターが一人でやっている形態のバーで、

かつてチャージでそれほど取られた事はなかったが、

それは私がたまたまそんな店に行った事が無いだけで、

芸能人がお忍びで来る様なお店の相場は、そんなものなのかもしれない。


そう思い、精算を済ませ、帰ろうとした刹那、マスターが私にこう言い放った。



「お前、躍りも踊らないし、全然駄目だな。何なんだお前?」



正確な言い回しは覚えていないが、言っている主旨は概ねそうゆう事だった。


私はこれまで色々なお店を呑み歩いて来た。

そしてその中には少なからず、強面のマスターや毒舌の店主というのは存在する。

だがそういった毒気というものは大概、お客に対する親しみや愛情、

または照れなんかを内包しているものだ。


しかしそのマスターの言葉には、そんなものは微塵も感じられなかった。

むしろ私がこれまで生きてきて培った直感は、

その言葉に潜む、マスターの私に対する敵意を感じ取った。


私は普段、目上の人は立てる様にしている。

呑み仲間の方達も年上の方ばかりなので、そこには一番気を付けている。

そしてそのマスターも私より一回り以上も上だ。


だが、いくら目上とは言え、そこまで言われて、

ただ黙って帰るのは私の自尊心が許さなかった。


ここは自分の主張はマスターに伝えて帰ろう、そう思い、



「自分は今までこうゆう生き方をしてきたし、

これからもこの生き方を変えるつもりはありません。」



と言った。


次の瞬間、驚愕すべき事が起こった。

そしてそれは私の直感が正しかった事を意味していた。



何とマスターは


「言ったなお前!」


と言い、カウンターの向こうから手を伸ばして私の髪の毛をむんずと掴んだのだ。


回りのお客さん達も驚き、静まり返った。

当の私もこの有り得ない状況に驚きを隠せなかった。


だが、それも束の間、抑え切れない憤怒がゴボゴボと音を立て、沸き上がって来た。



「おい、今、何した?客に対して何した!?」



私がそう言うと、マスターは更にそれに乗ってきた。



「やってやろうじゃねーか!」



そう叫び、カウンターから躍り出て来ようとした。

常連さんらしき若者が、それを必死に制する。


だが、普段は温厚で通っている私も(たぶん)、

もはやこの状況では声を荒げるしかないではないか。



「金払った客に対して何した!?ふざけてんじゃねーぞ!おい!金返せ!この野郎!」



「おー!返してやるよ!これで気が済んだか!」



マスターは私が払ったお金を放り投げてきた。


その時、トイレに行っていた女性のお客さんが戻って来た。


それまで楽しそうに皆と踊っていた筈のマスターの怒りに、

ニコニコ大人しく呑んでいた筈の私の豹変振りに、

そしてそれまでは楽しいパラダイスだった筈の店内が

急転直下で修羅場と化していた事に、さぞ驚かれた事だろう。


私は彼女のその表情にハッと我に返った。


だが私は筋の通っていない話が大嫌いなのだ。

筋の通らない事はしない様に生きて来たし、認める事は出来ない。


余談だが、だから私は怪奇現象や心霊現象は好きではあるが

創造物として好きなだけであって、筋が通らない、説明がつかない事が

現実にある事は認めないし、


最後には謎が溶け、話の筋が通り、全てに説明がつく推理小説が大好きだ。


話が横にズレたが、斯様に私は何事に於いても、

筋が通っていない事、説明がつかない事は嫌なのだ。


つまり客に対して暴力を奮うという筋の通らない話は断じて認められないのだ。


だが、この場には女性もいる事だし、声を荒げるのは止めようと思い、

私はトーンダウンしてマスターに問うた。



「お金を払ったお客の髪の毛を掴むなんて、飲食店の店主としてどうなんですか?」



マスターが答えるには、

それは私とマスターの世代が違うから分からないだけで、

昔の飲食店では客を殴る店主なんていくらでもいたそうだ。


そう言われても私はその時代には生きていないから分からないし、

事実そうだったとしても今はその時代ではないのだ。

何より私はそんな説明では納得がいかない。


その後も私とマスターの言い合いはしばらく続いた。

しかし平行線を辿る一方で、何ら話は進まなかった。



やがてマスターは何を思ったのか、傍らにあったボトルを掴むと、

おもむろに壁に投げつけ始めた。


ボトルはガシャンガシャンと音を立てて次々と砕け散って行く…。



「何すか、それ?俺に対する当て付けですか?」



そう聞くと、マスターは自分に腹が立つからやってるだけで、

どうせ後で自分で片付けるんだから関係無いだろという意の事を言った。



ボトルを投げ続けるマスター、


それを止めようとする常連さん達、


店内に響く女性の悲鳴…。



もう埒が明かない、



そう思った私はマスターが放り投げたままになっていた札をひったくると店を出た。

(ここで、こんな金くれてやるよ!とやれば、カッコいい訳だが、

明日からまた日常が始まる訳で食費もかかれば雑費もかかる。現実は厳しいのだ。)



私はビルの階段を降りて行く。


収まりかけていた感情が、ぼこり、ぼこりと再び沸き上がって来る。

私はくるりと踵を返し、階段の上を見上げ、店に戻ろうとした。


しかし、店内には他のお客さんが、しかも女性もいる。

逡巡しながらも私はそのビルを出た。




だが、

だが…


だがしかし、

だがしかし…!



何か釈然としない、納得がいかない、腹の虫が収まらない。


どうしても納得する事ができない私は振り返り、店の看板に一瞥をくれると、


再びビルのドアを開け、バーへと続く階段を昇り始めた。



to be continued