世の中が不景気になってくると「節約」がブームになります。書店には節約のノウハウを記した“節約本”の類があふれますし、ファイナンシャルプランナーの人たちの中にも「節約」指南が得意な人たちもたくさんいます。

「家計の節約」と「会社の経費節減」が似ているワケ

実際に節約本などを見ると、“電気はこまめに消す”だの、“風呂の残り湯の利用法”だのといった、実に細かいことがたくさん書かれていて驚きます。サラリーマンだった私から見ると、これってどことなく何かと似ているような気がします。そう、景気が悪くなってきたときの会社の経費節減と全く同じです。

業績が悪くなってくると真っ先に削られるのが3Kと言われる「交通費」「交際費」「広告宣伝費」です。いずれも目に見えるものでとてもわかりやすいからです。「タクシーは使うな!」、「飲み会は禁止!」、「広告はなし!」、いずれもとてもわかりやすいものばかりです。

しかしながら、企業が本格的にコストを下げるための構造改革をしようと思うと、その方法はたった二つしかありません。一つは製造業の場合、「製造原価を下げること」、そしてもう一つは「業務プロセスの効率化」です。人員削減なども、こうした施策の結果として出てくる方法論の一つに過ぎません。

ところがこの二つを実行するためには時間もかかりますし、自社だけではなく、取引先との交渉なども必要になってきますから、すぐに実行することはできません。そこでわかりやすい3Kが登場してくるのです。

さらにもっとばかばかしいのは、「コピーで裏紙を使え」とか、挙句は「トイレットペーパーを二重から一重にしろ」といった類の指示です。こんなことでたいして経費削減の効果が上がるとはとても思えません。しかしながら社員の気持ちを引き締めたり、危機感を植え付けたりするという意味においては一定の効果は見込まれます。

家計においてもこれは同じで、前述の電気の消灯とか風呂の湯の再利用などは、実行することで「自分はこんなに頑張ってるんだ」という意識を高める心理的効果はあります。しかし、実際に経済的な面で判断すると、それほど効果は高くありません。

なぜ節約ではおカネを増やすことはできないのか

節約するということ自体、別に悪いことではないのですが、節約では決しておカネを貯めたり増やしたりすることはできないというのが私の考えです。

おカネを増やすためには、具体的に目に見える形でキャッシュフローが生まれ、それを別の方法で貯蓄なり投資なりをしていかなければなりません。

つまり具体的な金額目標を設定して、節約したものを金銭に換算していかなければ、何もなりません。

ところが節約は往々にして、それをすること自体が目的化してしまっていることが多いために、そこから具体的なキャッシュフローが生まれてこなければ何も意味はありません。

さらに節約するというのは“必要なものでも買わない”、“欲しいものでも我慢する”というニュアンスがあります。すなわち結構、心の苦しみや不満を伴うのです。ストイックに節約するのは一時的には心理的効果があったとしても、決して長続きはしないだろうと思います。

私は本当におカネを増やすのであれば、「節約」よりも「無駄をなくす」ことの方がはるかに重要だと考えています。

二つの「人生の無駄」をやめてしまえ!

では具体的にどうすれば無駄をなくせるかということですが、私は人生における最大の無駄は「保険の入り過ぎ」と「不必要なローンの利用」だと思います。

入りすぎている保険を見直したり、ローンの借り換えや繰り上げ返済をすることによって、無駄な金利を減らしたりするほうが、すぐに何万円もの効果が表れるのです。

ですから、お風呂のお湯を再利用することなどよりも、無駄な保険やローンをやめて、その分を貯蓄や投資に回して長期に積立てていく方が、はるかに効果は高く、おカネは増えます。

ではなぜ、そういった無駄を見直すということをしっかりやらないかと言えば、それは「よくわからない」し、「面倒だから」です。人は何ごとにおいても“感覚的”に判断しがちで、論理的に考えたり、数字を検証したりするということが苦手なのです。結果として、あまり深く考えずにわかりやすい“節約”をしようとします。

よく真っ先に節約すべきやり玉に挙げられるのが「亭主の小遣い」というケースも多いようですが、通常、一家の主人というのは我が家に最大のキャッシュフローをもたらしてくれる存在であるはずです。そういう存在のモチベーションを下げるようなことは、どう考えても上策とは言えないでしょう。

なんでもかんでも節約という感覚にとらわれることなく、具体的な効果測定を検討しながら実行していくことが大切なのではないでしょうか。