「見本」と画像処理 | 柏駅から70チェーン

「見本」と画像処理

たまには乗車券蒐集ネタを。

以前から気になっているんですが、切符系サイトやウェブログでは、どうして「見本」とか「みほん」とか「SAMPLE」といった文字を画像に書き加えるんでしょうか。これって、偽造とまでは言いませんが、少なくともマテリアルの性格を変えかねない行為、もしくはごまかしかねない行為ではないかと思うのですが。

郵趣家であればご存知かと思いますけれど、切手の世界では見本そのものも蒐集研究の対象となります。一口にみほん字入りの切手といってもその性格は様々で、真贋判定のサンプルとして各国郵政に配布されたものもあれば、贈呈用として作られたものもあります。長期にわたって作られた普通切手であれば、製造面の変化を追うにあたって、見本字入りの切手を手に入れる必要も出てきます。それだけ、集める意味を持つアイテムなのです。

事情は本来なら乗車券類でも同じでしょう。贈呈用もあれば、券式や印刷効果を部内で検討するために作られたものもあります。また古い券の中には、旅行を終えた乗客から乗車券の交付を希望された際のものと思われる、よく知られている無効印に代わって捺されたらしい「見本」の印も見受けられます。

ありていに申して、乗車券類の蒐集は一般に郵趣ほどの深みも広がりもありません。いや、深みはあるんですが、一部に留まってその情報などが収集家全体に広がるような手段を持たない。珍しい駅名が入っているというだけで持てはやされるという側面は相変わらずですし、券面の捺印を余計なものとして排する傾向もまだあるようです。要するに、見た目に珍奇なものが大きく喜ばれるという面が未だに強く、使用面や製造面の研究はまだまだです。ネット上で「見本」字を無造作に画像に書き加える行為が蔓延したのも、結局はジャンル全体にわたって蒐集の深まりがなく、見本券に対する認識が極めて浅いがゆえに起きた現象なのでしょう。

コレクションアイテムとして、見本券と実際に使用された券は、あくまで区別されなければなりません。もし偽造や画像の第三者使用を警戒するのであれば、赤の斜線を加えれば済むこと。見本字を加えるという紛らわしい画像処理の蔓延は、見本券の存在を収集家がこぞって軽んじているから起きている現象であるとしか思えません。

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