和野から市街地まではかっぱロードで一本。以前は曲がりくねった旧道をのんびり帰ったものだが、時代は変わった。

まだ日が暮れるまでには時間があるので、途中で未舗装の裏道に入って寄り道。

其処には、遥か昔に時間が止まったかのような風景が残っている。

やがて、小学校の裏手に差し掛かった。

校庭の桜並木は今まさに満開を迎えるところで、まだ冬が支配する遠野の最果てから戻って来て一気に季節が先へ進んだ気がした。

薄曇りの遠野の空に、淡いピンク色の花が滲んで溶けて行くようだ。

美しい桜の表情の裏側には、常に儚さを感じる。春の太陽と同じで、一瞬だけ輝いてやがて消えて行く。

桜は校庭を取り囲むように立ち並んでいる。

遠野に桜の名所は数あれど、このように市街地に程近い場所でこれ程見事な桜に出会えるとは思ってもいなかった。少しの間だけ神様が与えてくださった幸せな時間だ。

よく見ると、もう花の間に葉が交っている木がある。街の春は、俺が想像していたよりも足が速いようだ。

この調子だと、すぐに桜の季節は終わって田圃に水が入るだろう。やがて青い稲がすくすくと育ち、強い日差しが遠野盆地を照らすようになる。季節の巡りは人間が思っているよりもずっと目まぐるしく、それはときに余りにも無情だ。

季節の変わり目は何処か寂しく感じる。しかし目の前には、もう次の季節が待ち構えている。

春の名残を惜しんでいる時間はあまりないのだ。

遠野放浪記 2014.04.28.-16 人の世界の春