「バイオ燃料ブームが引き起こす危機」
2つの記事を紹介します。
最初は、農業情報研究所(WAPIC)から、
地球政策研究所のレスター・ブラウン所長が、穀物を原料とするバイオ燃料ブームは食料価格を上昇させ、穀物を輸入する低所得国に飢餓を広げ、政治的不安定を生み出す、この不安定は世界の経済発展を途絶させると警告している。バイオ燃料ブームが食料危機と穀物輸入国の政治的不安定を生む レスター・ブラウン
2つめの記事は、『環境問題』を考えるhttp://env01.cool.ne.jp/index02.htm から石油代替エネルギー供給技術の実効性、バイオマスに関しての記事です。




 地球政策研究所のレスター・ブラウン所長が、穀物を原料とするバイオ燃料ブームは食料価格を上昇させ、穀物を輸入する低所得国に飢餓を広げ、政治的不安定を生み出す、この不安定は世界の経済発展を途絶させると警告している。今月13日、次のような分析と警告を発した。

 Lester R. Brown,Supermarkets and Service Stations Now Competing for Grain、06.7.13
 http://www.earth-policy.org/Updates/2006/Update55.htm

 米国農務省(USDA)は、世界の穀物利用が2006年の2000万トン増加すると予想した。そのうち1400万トンは米国の車のための燃料の生産に使われ、世界の増加する食料需要を満たすために残されるのは600万トンにすぎない。

 農業界では自動車燃料志向は飽くことを知らない。25ガロンのSUV燃料タンクをエタノールで満たすために必要な穀物は年に一人の人間を養う。年間を通して2週間ごとにタンクを満タンにするための穀物は26人を養うことになる。

 投資家は収益性の高いバイオ燃料の時流に飛び乗っており、毎日、世界のどこかで新たなエタノール蒸留所かバイオジーゼル精製所の建設が発表されている。米国のエタノール蒸留所で使用されるコーンの量は、2001年には1800万トンだったが2006年には5500万トンになると推定され、5年間で3倍に殖える勢いだ。

 米国のいくつかのコーンベルトの州では、エタノール蒸留所がコーン供給を乗っ取っている。アイオワでは、55のエタノール工場が操業しているか、建設を計画されている。アイオワ州立大学のエコノミスト・ボブ・ウィスナーは、これらすべての工場が建設されれば、アイオワで生産するコーンのすべてを使うことになりそうだと見ている。トップ10コーン生産州のサウスダコタでは、既にエタノール工場が収穫されるコーンの半分を飲み込んでいる。

 このような多数の蒸留所の建設で、家畜・家禽生産者は肉・乳・卵を生産するために十分なコーンがなくなると恐れている。また、米国は世界の輸出コーンの70%を供給しているから、コーン輸入国もその供給が途絶えることを恐れている。

 小麦、コーン、米、大豆、砂糖キビを含む我々が食べるほとんどすべてのものが自動車燃料に転換できるから、食料経済とエネルギー経済の間の境目が消えつつある。歴史的には、これら農産商品をスーパーの棚のための製品に転換させた食品加工業者と家畜生産者が唯一のバイヤーだった。今や他のグループ、エタノール蒸留所かバイオジーゼル精製所のために購入するグループが現れた。

 石油価格の高騰で、農産商品を自動車燃料に転換することがますます儲かるようになっている。実際、石油価格が食料商品の価格の支えになっている。食品としての価格が燃料としての価格を下回るときには、市場はいつでも燃料に転換するだろう。

 作物ベースの燃料生産は、現在、ブラジル、米国、西欧に集中している。米国とブラジルはそれぞれ、2005年に40億ガロン(160億リットル)のエタノールを生産した。ブラジルは砂糖キビを原料として使用するが、米国は大部分はコーンを使用する。今年エタノールになる米国の5500万トンのコーンは国の収穫の6分の1近くを占めるが、自動車燃料の3%を供給するにすぎない。

 世界最大の砂糖生産・輸出国であるブラジルは、今や砂糖収穫の半分を燃料エタノールに転換している。世界の砂糖収穫の10%がエタノールになることで、砂糖価格は2倍に高騰した。安い砂糖は歴史になるだろう。

 ヨーロッパでは、重点はバイオジーゼルに置かれている。昨年、EUは16億ガロンのバイオ燃料を生産した。そのうち、8億5800万ガロンは、大部分はドイツとフランスの植物油から生産されるバイオジーゼルで、7億1800万ガロンがエタノール、その大部分はフランス、スペイン、ドイツの穀物から蒸留されている。補助されたバイオジーゼルとの競争で苦闘するマーガリン製造者は欧州議会に助けを求めている。

 アジアでは中国とインドがエタノール蒸留所を建設中である。中国は2005年、穀物ー大部分はコーンー200万トンほどをエタノールに転換したが、一部は小麦、米もエタノールに転換している。インドでは、エタノールは砂糖キビから生産される。タイはキャサバからのエタノールに集中、マレーシアとインドネシアは新たなパームオイル・プランテーションと新たなバイオジーゼル精製所に大量の投資を行っている。マレーシアは昨年、32のバイオジーゼル精製所を承認した。しかし、最近承認を停止、パームオイル供給の妥当性を評価を評価している。

 作物ベースの燃料生産の収益性が巨大な投資を生み出してきた。2010年までは1ガロン当たり51セントのエタノール補助金が約束され、1バレル当たり70ドルの石油価格の米国では、コーンからの燃料アルコール蒸留は、来るべき何年かの間、巨大な利益を約束する。

 2005年5月、米国エタノール蒸留所は100に達した。これらのうちの7つは拡張中である。ほかに34が建設中で、計画段階にあるものもある。作物ベースの燃料の需要の急増は、世界の穀物在庫が34年来の低レベルの状態にあり、養うべき人が毎年7600万人増えているときに起きた。

 石油価格高騰に対応しての米国のバイオ燃料生産投資はコントロールを離脱して急上昇、牛肉、豚肉、鶏肉、乳、卵の生産から穀物を取り上げようとしている。また、最も深刻なのは、操業中、建設中、計画段階の巨大な数の蒸留所が、人間の直接消費のたに利用できる穀物を減らす脅威をもたらしていることだ。世界の8億の自動車保有者と食料消費者の間の衝突の段階に立ち至っている。飽くことなき車志向を考えれば、穀物価格上昇は不可避だ。問題は、食料価格が何時上昇するのか、どれほど上昇するのかということだけだ。実際、最近数ヵ月、小麦とコーンの価格が20%上昇した。

 多くは収入の半分以上を食料に支払う世界の20億の最も貧しい人々にとって、穀物価格の上昇は、たちまち生命への脅威となり得る。食料価格が飢餓を広げ、インドネシア、エジプト、ナイジェリア、メキシコなどの穀物を輸入する低所得国で政治的不安定を生み出すリスクが高まっている。この不安定は、次には世界の経済進歩を途絶させる恐れがある。もし穀物に対するエタノール蒸留需要が爆発的増加を続け、穀物価格を危険なレベルにまで高まれば、米国政府は大量の自動車愛好家と食料消費者の間の食料をめぐる世界的紛争に介入しなければならないことになるだろう。

 食料ベースの燃料利用に代替する方法はある。エタノールからの自動車燃料供給で得られる3%の利得は、自動車の燃費基準を20%引き上げることでも実現できる。公的輸送への投資は車依存を全体的に減らす。

 他の燃料の選択肢もある。人々の食料の代替品はないが、車については、ガソリン-電気ハイブリッド車へのシフト、米国、中国、ヨーロッパ諸国のような風に恵まれた国では風力エネルギーなど、代替燃料源が存在する。

 関連情報
 食料作物原料のバイオ燃料 温暖化抑制への寄与は少さく、食料不足も招くー米国の研究,06.7.12


『環境問題』を考えるhttp://env01.cool.ne.jp/index02.htm から石油代替エネルギー供給技術の実効性、
2-5 バイオマス

2-5-1 バイオマス利用の歴史的教訓

 バイオマスとは、生物起源の物質の総称である。動植物の体組織、それに動物の糞もバイオマスである。歴史的にみると、工業化以前の主要なエネルギー源は、ほとんど全てバイオマスであったと考えられる。日本の木炭は、非常に優れたバイオマス燃料である。
 非常に長い歴史を持つバイオマス燃料であるが、これは既に触れたように主として工業化以前に、炊飯や採光などに用いられていた。
 産業革命後、ヨーロッパにおいてバイオマスを工業用燃料として組織的に利用した一時期があった。産業革命後の鉄鋼生産において、木炭は優れた還元剤として、高品質の鋼を得るために大量に利用され、ヨーロッパの広大な森林を食い潰したことは周知の事実である。
 環境問題として、現在最も憂慮すべき問題の一つは、生態系の回復速度を超える森林消失であり、あるいは農地の消失である。つまり、バイオマスの再生産性の低下であり、絶対量の減少である。
 このような状況下において、エネルギー効率を云々する以前に、石油代替エネルギーとしてバイオマスあるいは、燃料用バイオマスを栽培するために農地を、組織的かつ大量に利用することは、まったく愚かな発想と言うほかない。

2-5-2 炭素循環

 地球上の炭素循環の概略を次の図に示す。





 上図に赤色で示されている通り、年間の炭化水素燃料(化石燃料)の燃焼による二酸化炭素に含まれる炭素量は約6Gt(=ギガトン= 1,000,000,000トン)程度といわれる。これに対して、バイオマスと考えられる地上生物に含まれる炭素量(ストック)は約550Gt、生物死骸に含まれる炭素量(フロー)は年間約60Gtである。つまり、平均的に炭素量として年間約60Gtの地上生物が新たに生まれ、それに見合うだけ死んでいることになる。
 この60Gtの炭素に対応する生体物質=バイオマスのうち、多くは食糧になり、また植物を育てるための土壌を形成することになる。もしここから工業的なエネルギーを得るために、炭素量にしてGtオーダーでバイオマスを利用することになれば、かつての木炭製鉄の例を引くまでもなく、生態系の物質循環は急速に衰えることは明らかである。
 生態系の物質循環に基づく定常性を維持しつつ、これを乱さない範囲で行われるバイオマスの燃料としての利用まで否定する必要はないであろうが、莫大な石油消費に支えられた現在のエネルギー供給システムの代替として、組織的かつ大規模な利用は直接的な環境破壊であり、行ってはならない。

 バイオマスの燃料としての利用において、バイオマスの燃焼によって発生する二酸化炭素は、再び光合成生物によって固定されるので、大気中二酸化炭素量が増えることはない、という説明がされることがあるが、これは正しくない。
 光合成によって生物体に固定された炭素は、一旦地表へ堆積して土壌を形成し、その後徐々に風化作用によって分解されて二酸化炭素として大気へ戻って行く。
 バイオマスを燃料として消費することは、生態系の物質循環を衰えさせるばかりでなく、バイオマスの燃焼を起源とする二酸化炭素は、地表に土壌として堆積することなく、速やかに大気中に放出されるため、堆積と風化のバランスを乱す。大気中への二酸化炭素の放出という意味では、石油の燃焼と同じである。

2-5-3 結論

 バイオマス利用の基本は、生態系の物質循環を豊かにするものでなくてはならない。バイオマスの燃料としての使用は、生態系の物質循環への適切な還元方法のない廃棄物の処理法として、最小限に止めるべきであり、石油代替を目的とした大規模かつ組織的な使用はしてはならない。


晴耕雨読
http://sun.ap.teacup.com/souun/118.html