サイエンス最前線:研究者たちの素顔/9 新型インフルエンザ /茨城
◇変異前の抑え込みが重要「対策軽視すれば予防医学は崩壊する」--動物衛生研究所・西藤(さいとう)岳彦さん(46)
鳥同士で感染し、大半を死に至らせることもある高病原性鳥インフルエンザウイルス。人間同士で容易に感染する新型インフルエンザウイルスに変異し、世界中に広がることが懸念されている。「新型インフルエンザなど新興感染症の流行は、人間と自然界との境を、人間の都合で乗り越えた時に起きる」。つくば市の動物衛生研究所人獣感染症研究チーム主任研究員の西藤さんは指摘する。
タイの国立家畜衛生研究所と共同の海外拠点「人獣感染症共同研究センター」のセンター長として、高病原性鳥インフルエンザウイルスの遺伝子解析に取り組む。流行の実態を把握するとともに、日本への侵入や流行を防ぐ研究をしている。
「人と話すのが苦手で獣医を目指したのに、話をしないと研究が進まない」と苦笑いする。北海道大獣医学部で微生物を研究。大学の恩師の推薦で米国の聖ユダ小児研究病院に留学し、インフルエンザ研究の権威ウェブスター博士のもとで研究を始めて以来、20年近くインフルエンザの研究を続けている。
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センターがあるタイでは、水田にアヒルを飼い、稲作が終わると落ち穂を食べさせて遊牧のように移動させる。これが高病原性鳥インフルエンザをタイ国内に広めた原因の一つとみている。
感染した鳥の遺伝子を解析し、以前に発見されたウイルスと同じ遺伝子型なら、かつて発生したウイルス絶滅に失敗して広がってしまったと考えられる。日本では、宮崎や秋田などでウイルスが確認されたが、二つの地点の型は別のものだったため、抑え込みに成功していることが分かった。
高病原性鳥インフルエンザが発生した国や地域の多くは近年、国内消費や輸出などで養鶏の生産が何倍にも増えたところだという。以前は感染があっても他の地域に広まることは少なかったが、人間が感染した鳥と接触する機会が増え、新型インフルエンザが発生しやすい環境が作り出されている。
大流行した場合、国は国民3200万人が感染し、最悪64万人の死亡を予測する。97年に香港で初めて人への感染が確認されて以来、世界で404人(2日現在、WHO調べ)の感染と254人の死亡が報告されている。
「香港での人間への感染は完全に抑え込んだ。あれから10年余の時間稼ぎができ、ワクチン開発も進んだ。この10年は予防医学の成功の積み重ねだと思う」と話す。一方で「大流行が起きていないからと対策を軽視したとき、予防医学の根本が崩れる」と危機感も抱いている。【石塚孝志】(次回は26日掲載の予定)
毎日新聞 2009年2月11日 地方版