2010年 4月26日(月) 信濃毎日新聞
誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」を、60歳以上の43%が身近に感じている-。高齢者を対象にした内閣府の調査で分かった。
共同体の崩壊が指摘されるいま、どう人と人とが結びついていけるのか。考えさせられる数値である。
調査では、単身世帯の65%、夫婦2人の世帯でも44%が、孤独死は身近と答えている。結婚しない、子どもを持たないという若い世代も少なくない。孤独死は、高齢者に限った問題ではない。
問題に向き合う手がかりを、どこに求めたらいいだろう。ヒントになる取り組みがある。
フランスのパリで10年ほど前、80代の女性の孤独死をきっかけに「隣人祭り」が生まれている。同じ地域で暮らす人たちが、食べ物や飲み物を持ち寄り、自由に語り合うパーティーだ。
パリの区役所助役の男性が、近所のきずなを深めようと提案した。水漏れや騒音といった地域の問題を解決する行動にもつながっている。この祭りは、日本を含む世界各地に広がっている。
千葉県松戸市の常盤平団地では、自治会などが「孤独死ゼロ作戦」に取り組む。一人暮らしの高齢者を対象に、緊急時の連絡先を把握したり、憩いの場を設けたりしている。東京都には、近所付き合いが薄れがちなマンションで、管理組合がゲームなどを楽しむ交流会を開いている例がある。
長野県でも、松本市の神田町会と、上伊那郡箕輪町の漆戸常会がウェブサイトを作り、30、40代に運営を任せている。高齢者が中心の役員と、若い世代の意思疎通が深まる機会になった。
こうした緩やかな交流の先に、気の合う者同士で一緒に暮らす、身元を保証し合う、日常的に声を掛け合うといった新たな結びつきの可能性を開きたい。
20年後、高齢者を中心とする単身世帯が、全世帯の4割近くを占めるとの推計がある。老人ホームに入れない人、介護費や医療費がかさみ、生活に不安を感じている高齢者が増えている。国や自治体が支援に努めるのは当然としても、すべてを行政任せにできる時代ではない。孤独死を防ぐには、地域の力が欠かせない。
住民同士で知恵を合わせ、晩年の過ごし方の選択の幅を広げよう。行政には、住民の地域づくりに向けた動きを、しっかりと下支えするよう求める。
内閣府の調査では、94%の人が「地域のつながりは必要」と答えている。一歩を踏み出す時だ。