35、社説:対岸の火事でない南欧諸国の財政危機 | NPO法人生涯青春の会

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日本の財政問題(国債問題)と同じテーマであるのでここに収録します。

           

                                管理人


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                    2010215日  日経

 日本の「ギリシャ化」を防げるだろうか。

 欧州連合(EU)は財政危機のギリシャを支援する方針を決めた。しかし同国のほかスペイン、ポルトガルなど南欧諸国の財政問題に解決のめどはついていない。「国が対外的に支払い不能となる恐れ」(ソブリンリスク)が世界の投資家に強く意識され、金融・資本市場に波紋を広げている。

不安抱える日本国債

 日本はこれらの諸国と違い国債消化を外国に頼っていないこともあり国債市場は落ち着いている。とはいえ財政の実態は南欧諸国よりも悪い。多額の国債発行の継続や貯蓄率の低下などから、国債市場をめぐる環境は悪化していくのが必至である。ユーロ圏の財政危機は決して対岸の火事ではない。

 内閣府は国と地方の財政が著しく悪化している事実を示す推計をまとめた。借金に頼らずに、過去の借金の元利払い以外の支出をまかなえるかどうかを示す基礎的財政収支が2009年度は406000億円の赤字と、赤字幅が前年の2.5倍に膨らみ過去最悪になる。

 この基礎的収支が黒字になって名目経済成長率が国債金利より高い状態が続けば財政は健全化に向かう。小泉内閣は11年度の黒字化を目指していたが、今や、その実現ははるかかなたに遠のいた。

 国と地方の公的債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率(経済協力開発機構の推計)は昨年末に189%となったもよう。これはギリシャ(115%)、スペイン(59%)を大きく上回る。

 こうした情勢から、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズは1月下旬、日本国債の格付け見通しを「安定的」から「引き下げ方向」に変更した。

 日本国債の93%は国内で保有されている。このため外国の投資家が資金を引き揚げたギリシャのような混乱は起きないという見方が多い。しかしデリバティブ(金融派生商品)の普及で、国債の現物を持たない外国人投資家が国債の先物売りを仕掛ける例も出ている。

 少し長い目でみると、国債を国内で消化しきれなくなる懸念も強い。個人金融資産は個人の負債を除くと約1065兆円。この金額は、貯蓄を取り崩す高齢者の増加であまり増えない。一方、国と地方の長期債務残高は今年度末に825兆円となり今後も増える。個人金融資産をすべてつぎ込んでも国債、地方債を消化できない日がやがて来る。

 財務省は外国人投資家への国債の販売を増やす方針。だが、外国の投資家は必ずしも安定的な保有者ではないうえ、外国に頼ると日本の国債利回り(10年物で年率1.3%台)が米国債(同3%台後半)などに影響されて上昇する恐れもある。

 もし国債消化に支障を来せば、政府は日本銀行に市場を通じた国債の買い取り(今は月1兆8000億円)を増やして金利上昇を抑えるよう望むだろう。だが日銀がそれに応じても結果がどう出るかは読めない。「財政規律が緩むという見方が広がって国債金利はさらに上がる」と予想するエコノミストもいる。

 国債金利の上昇は住宅ローン金利を含む長期金利全体を押し上げて経済に打撃を与える。そうした事態を避けるには、財政を健全にする政策を示して債券市場に安心感を与えることが肝心だ。税収拡大につながる名目経済成長率の引き上げ、歳出削減そして増税が柱になる。

成長戦略と再建策早く

 名目成長率を高めるため、短期的には財政による需要創出が必要としても、中長期的には民間の潜在力を生かして、産業の構造を時代に合うものに変える政策が要る。

 政府は環境、健康、観光を中心とする成長戦略を検討中だ。方向は正しいが、関係者の抵抗にひるまず、大胆な具体策を示してほしい。医療、農業、電力、運輸などの分野での規制改革は重要だ。建設業のように供給過剰が続く産業で働く人を成長分野にどう移すかの政策も問われる。財政再建と一見、矛盾するが、企業の投資意欲を引き出すには法人税軽減も進めたい。

 歳出の削減について、枝野幸男行政刷新相は(1)事業仕分けを通じて政策目的に沿わないような支出を減らす(2)その上で優先順位の低い政策を見直す――という順序で進める考えだ。この方針に沿って大幅な削減を早く実施してほしい。

 歳出削減と並行して増税も検討すべきだ。消費税のほか、相続税も見直してよいのではないか。高齢者の年金・医療に多額の財政資金をかけるのに、高齢者が残した資産を相続する人の4%強しか課税の対象にならないのは公平さを欠く。

 政府は夏に財政健全化の枠組みを決める。成長戦略の具体策とともに信頼性の高い政策を求めたい。