夏の参院選が近づいてきましたが、野党は昨年9月に成立した安全保障関連法への賛否を最大の争点に掲げようとしています。報道機関の世論調査では、同法を「廃止すべきではない」という回答が「廃止すべきだ」を大きく上回っていますから、私はすでに国民の間で大勢が決した問題だと思っています。ただ、それでも野党は同法の廃止法案を国会に提出し、一部の団体は反対運動を続けていますから、参院選は完全決着をつけるいい機会でしょう。

そこで参院選を前に、安保関連法に賛成の方にも反対の方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊の本があります。作家の百田尚樹氏が出版した小説「カエルの楽園」(新潮社、本体1300円)です。私も勧められて読んだのですが、日本の安保論議の現状を見事にカエルの世界にたとえて描かれていて、問題点を客観的に理解することができます。とくに同法にまだ反対している方には、この本を読んで自らの主張を顧みてほしいと思います。

物語は、生まれ故郷を他のカエルに襲われて追われた2匹のアマガエルが旅の末に、ツチガエルの平和な国「ナバージュ」にたどりつくところから始まります。その国には「カエルを信じろ」「カエルと争うな」「争うための力を持つな」という「三戒」という奇妙な戒律がありました。

南の沼には体が大きく凶暴なウシガエルがすんでいるのですが、多くのツチガエルは「三戒さえ守っていれば平和は守られる」と信じていました。ところが、ウシガエルは少しずつ「ナバージュ」に入り込んできます。

そこでツチガエルの元老の一部は「三戒」を破棄して山の頂にすむワシと一緒に国を守ろうと主張しますが、演説上手のデイブレイクという名のツチガエルと他の元老は「三戒に違反してはならない」「ウシガエルに悪意はない」「話し合えば国は守れる」などと主張して対立します。

そうした中、ナバージュを守ってくれていたワシは去ってしまい、ウシガエルはどんどん侵略してきます。そこでナバージュでは「三戒」を破棄して国を守るか、「三戒」を守り続けるか、全ツチガエルによる採決で決めることになり、そして迎えた結末は…、というストーリーです。

まだ読まれていない方のために結末は明かしませんが、「平和を唱えているだけでは平和は守れない」ということがよく分かる本です。

この本の中で描かれている「ナバージュ」という国は日本、「三戒」は「護憲派」が主張する「平和憲法としての憲法9条」をたとえています。デイブレイクは、和訳すればある新聞の名前が浮かんできますが、「護憲」を主張するマスコミ、ワシは米国、ウシガエルは日本固有の領土に対して領有権を主張し、領海侵犯を続けている隣の大国です。

さて、日本の安保論議の現状を改めて顧みると、集団的自衛権の限定的な行使を可能にする安保関連法が昨年9月に国会で成立しました。歴史的な長時間にわたる国会審議の結果であるにもかかわらず、一部のマスコミや団体は反対を唱え続け、野党は同法の廃止法案を国会に提出するという状況が続いています。

日本は戦後、冷戦構造の下、米国の核の傘に守られ、自らは何もせずに平和と安全が守られてきました。冷戦崩壊後も今のところ、幸いにして平和は保たれています。このことが「平和憲法を守ってきたから平和であり続けられた。平和憲法を壊してはいけない」という誤った認識の主張を助長させているわけですが、日本を取り巻く状況は北朝鮮の核、ミサイル開発、中国の海洋進出など緊迫化の度を強めています。まさに「カエルの楽園」に出てくる「ナバージュ」という国と同じ状況です。

その中にあって、安倍晋三政権は日本の平和と安全を将来にわたって守るために、安保関連法を成立させました。しかし、同法の意義を理解しない人々がまだ反対運動を続けています。

しかし、反対派の主張は従来と同様、「安保関連法は憲法9条違反だ」という情緒的なもので、「日本を取り巻く情勢が緊迫化する中でいかに平和と安全を守るか」という論理的な「対案」を全く示していません。そしていまだに「日本の平和と安全は脅かされる状況にはない」とか、「平和外交こそが必要だ」などという「平和ボケ」の議論を繰り広げています。

私も平和を唱えるだけで平和が守られるなら、それにこしたことはないし、こんな楽なことはないと思います。しかし、そうではないことは世界の歴史や、複雑化、緊迫化している現在の国際情勢が示しています。日本だけが例外であるはずはありません。

たとえば日本の周辺では、北朝鮮が日本どころか、米国にまで到達するミサイルの開発や核実験を続けています。中国は沖縄県石垣市の尖閣諸島の領有権を主張し、領海侵入を繰り返しています。一方、テロが絶えない中東で紛争が拡大し、ホルムズ海峡が封鎖されるような事態が起これば、日本に原油が供給されなくなり、国民生活や経済は存立の危機に直面します。

このほかにも想定しうる日本の安全保障上の危機は数えきれません。「平和憲法を守れ!」と主張し安保関連法に反対している人々は、危機が現実に訪れた場合でもそう言い続けられるでしょうか。私は逆に慌てふためいてどうしていいのか分からなくなってしまうか、あるいは「政府はとにかく国民を守れ!」と従来の主張をかなぐり捨てて責任転嫁の批判を展開するのではないかと思います。

万が一にも危機が生じる可能性がある以上、事前にどう対処するのかという備えをしておくのが危機管理の要諦です。危機が生じてから議論や検討を始めるのでは、事態に間に合わず混乱するばかりで冷静に対処することができません。したがって、危機が生じる前に、どう対処するのかということについて現実的で論理的な議論をし、結論を出しておく必要があるのです。

安保関連法はまさにその代表例です。国の安全は一国だけでは守れないというのが国際常識であり、先に挙げた北朝鮮や中国、中東の危機にしても、日本は同盟国や他国と連携して対処することになります。その態勢を整えるうえでこれまで障害となっていたのが、「集団的自衛権は保有しているが、行使はできない」という世界からみれば奇妙な過去の政府の憲法9条解釈だったのです。

そのゆがみは安保関連法の成立によってただされ、日本の平和と安全を守る態勢がようやく構築されました。同法によって危機を事前に想定して作戦を立案し、訓練を重ねることによって、いざ危機が生じた場合は沈着冷静に対処することができます。さらにそうした態勢が構築されたことで、軍事的な脅威を抑止する効果が期待できます。つまり、反対派が主張する「戦争法」などというレッテルは筋違いで、まさに「平和のための法」なのです。

今回の参院選で安保関連法が大きな争点になる以上、その結果はいや応なく、同法が国民に理解、支持されているかどうかという評価に直結します。日本が将来にわたって「カエルの楽園」のようなことにならないためには、われわれ世代はどうすべきなのか。有権者の方々にはその答えを出す責任があることを念頭に置いて、改めて安保関連法の意義を考え、投票行動を決めていただきたいと思います。


引用元:http://www.sankei.com/premium/news/160531/prm1605310003-n1.html






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