気がつけばもう10年前の話になる。



クリスマスシーズンの約二週間、サンフランシスコからはじまりアメリカ大陸

の西と東を往復し、ロサンゼルスで終焉を迎える旅をした。

学生時代だった。


サンフランシスコ。


当時、いつか絶対住んでやる!と誓った街。ケーブルカー。メイシーズ。クラ

ムチャウダー。対岸にはアルカトラズ島(脱出不可能といわれた流刑地)。手足

のないホームレス。フェリーのなかで飲んだココアは死ぬほど甘かった。


ワシントンD.C.。


ヒルトンホテルの金ピカエレベーター。パリスもニッキーもまだガキンチョ。ホワ

イトハウスのクリスマスツリー。ワシントン像。フォレスト・ガンプ。兵隊。美しい

墓地。ワシントン大学。キャンパスの庭にいたリス達。夜景の美しさ。巨大ロブ

スター。スミソニアン博物館。


フィラデルフィア。


造幣局。独立戦争。静かに哀愁漂う街。ホテルの匂いが強烈で初めて体調を

崩した。友人に迷惑をかけた。快適なところばかりではない。見知らぬ土地の

洗礼を受ける。記憶も失う。


ニューヨーク。


夢と現実。ウォール街。ソーホー。チャイナタウン。五番街の人・人・人。クラス

メイトに突き付けられたピストル。コロンビア大学の学生になりすます。ブロード

ウェイで観た美女と野獣。帰りに食べた「ベニハナ」のステーキ。車窓から見た

ハーレム。摩天楼。ツインタワー。自由の女神。ストライキで登れなかった不運

と不自由。社会格差と光と影。

ロサンゼルス。


サンタモニカビーチ。UCLA。ドジャーズスタジアム。野茂英雄。ビバリーヒルズ。

マリリン・モンローの家。ジェームス・ディーンの生首(ブロンズ)。ディズニーラン

ドでがっかり。ユニバーサルスタジオで大盛りあがり。アメリカ人少年と乗った

「デロリアン」。オルベラ街。ホテルから聞いた銃声。一瞬にして命を失う恐怖。



とまあ、主要都市のフルコースを味わった。


今思えばこれでもか!という贅沢な旅だった。しかし、私が見たのはあくまでも

表面的な楽しさとイメージの象徴ばかりだ。

それは入国の際に観光です、と答えたから味わえるひとときの夢の世界であっ

て、そこで生きていれば当たり前、いや当たり前にすらできない問題が影を落

とす。


贅を尽くしたヒルトンホテルもただそこにあるものとして存在する。


他の国の人間が想像し得ない姿や本質。

それについて考えることもなく私はまだまだ子供だった。


忽然と青春の日々を思い出す。
そして頭を掠める音の記憶。


ニューヨークのタワーレコードで買ったこの一枚を私は今でも愛している。


G.Love&Special Sause


「COAST TO COAST MOTEL」




10年後の私へ。

The coast is clear.


今こそ好機、障害はない。