君のとなりにチョコひとつ -前編- | S w e e t 

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主に名探偵コナンのノーマルカップリング(主に新蘭)を中心とした二次創作ブログです。
イラストや小説をひっそりと更新中。
気の合う方は気軽にコメント下さると嬉しいです。
※一部年齢指定作品も混ざっていますのでご注意ください。


湯せんにかけてトロトロと溶けたチョコレート。

甘い香りがキッチンに広がる。

でもその中に受取人の好みを合わせた少しだけビターな香りが混ざる。



今年で何度めの挑戦だろう。

でも今年は少しだけ違う気持ちを混ぜたその挑戦。



このチョコをあなたはどうやって受け取ってくれるんだろう。




どうか私のこの想い。



全てでなくていいから。

密かにで構わない。

ほんの少しでいいから。



だから



このチョコに溶け込んであの人に届きますように。







君のとなりにチョコひとつ 前編






登校中。

鞄の中で静かにゆれるピンクの袋にラッピングされたソレ。

幼いころから毎年あげ続けているバレンタインのチョコ。

渡したい人はずっと一人だけ。

でも今年は今までのように簡単に渡せるものではない。




「・・・・オス。」



「あっ・・・新一・・・おはよう。」




いつの間にか隣を歩いていた新一の登場に胸が一気に跳ねた。

まだ心の準備出来てないよ。




「今朝は早いね、また寝坊かと思った。」



「あぁ、昨日は久しぶりに事件もなくて早く寝れたからさ、寝起きが良かった。」




この人が特別だと気付いて初めてのバレンタイン。

今までは幼馴染のよしみで何も考えずにあげていたけれど。


今年は間違いなく今までと違うんだ。




ちょっと前を歩く君の後ろ姿。

そっと盗み見る。

中学生になってついに抜かされた身長は高校生になるとどんどん離されていった。

今では少し見上げる君の顔。

肩幅も広くなって、私とは全然違う。



男の人だと思わせるそれ達は、ただ私の胸を鷲掴む。





この人のこと。




好き・・・・




なんだよね。





チョコの入った鞄を持つ手につい力がこもる。




「蘭、今日部活あるのか?」



突然見つめていた後ろ姿がコチラを向いて目を見開く。

耳に入った言葉をよく頭に取り入れてから口を開いた。



「昨日練習試合があったから今日は休み。」


「自主練は?」


「今日はしないよ、お父さんが夜出かけるから夕飯の準備もいつもより早めにしなきゃいけないし。」



そっか、と言って新一は何かを考え込む素振りをしてから何か思いついたように言葉を紡いだ。




「じゃぁ、久しぶりに一緒に帰ろうぜ。」



「・・・・・・・・え?」



「何だよ、何か不満でもあんのかよ。」



私がすぐに返答しなかった事に気を悪くしたのか新一は顔をしかめた。



「あっいや、そうじゃなくて・・・・だっ大丈夫!帰れる!帰ろう?」



焦ってまるで一緒に帰りたくてしょうがないような言い方をしてしまった。

そんな私の必死な表情を見た新一は一瞬止まってからハハッと白い歯を見せて笑ったんだ。



「・・・・・・・・了解!」



そのはにかんだような笑顔に私は何も言えなくなってしまって。

でも新一はやっぱり少し前で機嫌よさそうに音のはまらない鼻歌を奏でていた。


それが何だか可愛くて心地よくてちょっと後ろで私は口が緩んでしまったのを新一は知らない。


そう。


この関係が幸せなんだ。




:::




昼休みー・・・



窓に背を向けて腰掛けた園子がパックジュースのストローを咥えながらボソっと投げかけてきた一言。




「・・・ついに告白するの?」



ゴホッ



突然の園子からの発言に口に入れていたオカズが変な所に入りむせてしまった。




「なっ・・・な・・何言って・・・・・・!」



まさかのことにただ身体じゅうが熱くなる。



「その慌てよう・・・まんざらでもないな?」



ニヒヒと何か企むように笑いかけてくる園子にたじたじだ。



「まっまぁ・・・いつもの幼馴染の腐れ縁で用意はしてあるけれど・・・別にそんな特別なものなんかじゃないし。」



嘘。

今年は特別。


だからといって別に告白とかそんなの私達の関係には照れくさくて素直に受け入れられない。




「ふーん・・・・でもいいの?」



「え?」



「高校生になって初めてのバレンタイン、高校生探偵としてメディアに出始めた今、ライバルは多いわよ?」



「ラッ・・・ライバル?」



「そうよ、ライバル!今朝だって見てないの?新一君の下駄箱とか机の中。」



「え?」



「気付いてないの?すごい数のチョコが詰め込まれてたのよ?」



「・・・・・・。」



「今もいないし・・・誰かに呼び出されてるんじゃない?」




そう、新一はもてる。




頭脳明晰。

容姿端麗。

スポーツ万能。

おまけに今年は高校生探偵として世にデビューを果たしたんだから。


女の子はほっとくはずがない。



でもずっと新一を見てきた私には今イチ実感がわかない。




あの新一が・・・・モテる?



けど、新一を好きって事だけはやっぱり真実。

小さなころから見続けてきて。

新一の良い所、悪い所は全部見てきた。


それを全部ひっくるめて、私は新一が好きだから。



魅力があるってことは否定できない。





「あんまり余裕かましてると・・・後で後悔する事になるかもしれないよ。」




「・・・・・・・。」




その時の私はまだその園子の言葉を真剣に捉えていなくて。


ちょっと形は違うけれど本当に後悔する事になるなんてこの時は思いもしなかった。





:::




ついに放課後。


結局まだ鞄の中のチョコは役目を果たしていない。


そう。


別に告白するわけではない。


ただいつもと込めた気持ちが違うだけ。


それだけ。


それだけなのに。



いつもみたいに簡単に渡せる気がしない。




この帰り道の間になんとかして渡さないと。



胸に手を置いて軽く深呼吸。




「ー・・・はぁ。」



「何やってんだ?」



「ー・・っな!・・・・何でもない。」




目をつむって深呼吸をついてゆっくり開いた視界の先に新一の顔があって心臓が飛び出すかと思った。




「ふーん・・・ま、いいや、帰ろうぜ。」



「あっうん。」




背を向けてドアへと歩いていく新一を見てから鞄の中にあるチョコを確認してその後についていった。



:::



下駄箱に着いてドアを開いて靴を出し、脱いだ上履きをしまう。

靴を履いていると新一が中々動かない事に気付く。

不思議に思って声をかけようとすると新一が開いた靴箱の中には可愛くラッピングされたチョコが数個入っていた。



何だか真っすぐ見れなくて顔を背けた。


なんとなくチクチクと胸が痛む。



新一に恋する私はどこか悲しんでいるのに。

新一の幼馴染の私は勝手に口が動いてしまう。




「すごいね、今朝もたくさんもらったんでしょ?こんな推理オタクのどこがいいんだろ。」



「・・・・・もらってねーよ。」



「え?だって・・・・今朝も靴箱と机の中にって・・・。」



「全部返した。」





新一は私に背を向けたまま靴箱からチョコをだして差出人を確認してる。

決してそれを鞄にしまう事はしない。




返した?


何を?




「どっどうして?」



「・・・・・・・。」




新一はその私の問いにしばらく止まってからゆっくりコチラを向いた。




ドキッ




その表情はどこか大人びていて。

あまりみた事がなかった。






「・・・気持ち受け取れねーのにチョコだけもらえねぇだろ。」






グサッと何かが刺さったきがした。




それはつまりそういうことだよね。






じゃぁ・・・・私の気持ちが混じったこのチョコも受け取れ・・・・ない?




愕然とした気持ちが私の言動を操る。







「・・・・ただ・・・受け取ってほしいって思ってる子がいるかもしれないのに・・・返される事程辛いものはないよ。」




静まれ。


静まれ私。





でも止まらない。





「新一・・・ちゃんと相手の気持ち考えてない!」






誰かを庇っているようでそんな人いない。




だってこれは私自身を庇う言葉なんだから。






最低だ。






新一は何も悪くないのに。






私がそうされたら嫌だからって・・・・


こんなのただの我侭だよ。










「・・・・・・・お前にはそんな事・・・言われたくなかった。」






「え?」






笑っているのに悲しいその一言。




一気に身体が凍りつく気がした。

何かが私を拒絶した。



どうして?

私・・・何をした?

何を言った?

何が新一を怒らせた?





ダメ。



そう脳裏に過って咄嗟に手を伸ばした。





「・・・・・・・何?」





その手は新一の袖を掴んでいた。

何の感情も感じられない声が落ちてくる。




「・・・・・・あ・・・・。」



力が抜けて新一の袖を掴む手が離れた。




「くっ工藤君!」




「・・・・・?」




それと同時に新一の名が呼ばれた。

呼ばれた先を見ると顔を真っ赤にした女生徒が立っていた。


その子の手にはリボンのついた紙袋。



一気に彼女が何をしたいのか想像がつく。




「あの・・・私・・・ずっと工藤君の事好きだったんです、良かったらこれ・・・・受け取って下さい。」




私がいるとかもうそんなの関係ないんだろうな。

とにかく伝えたいの気持ちでいっぱいなんだ。



紙袋を差し出す手が震えてる。


それでその子の気持ちが十分に伝わってくる。



すごいな。


どうしてこんなに勇気があるんだろう。





シンとした廊下に沈黙がしばらく続いた後。








「・・・・・・ごめん。」




ドキッ



新一の低い声が響いた。



心拍数が上がる。

お願い静まって。









「俺・・・・・本命からしか受け取るつもりないから。」












気付けば女の子は涙を浮かべて廊下を走りだしてその場からいなくなっていた。





「・・・・・・。」





また続く沈黙。









本命?





本命からしか受け取らないって・・・・それって・・・・。






シンイチニハスキナヒトガイル?







頭の中がぐるぐる回る。






つまり私の鞄の中にあるチョコは私が新一の本命でない限り受け取ってもらえない?




気持ちのこもったチョコは受け取ってもらえない。





今まで通り義理だったら受け取ってもらえる?




そうか。



義理にしてしまえばいいんだ。









「・・・・・・・っ。」









義理に出来るわけない。



でもあの子のようにチョコに込めた思いを打ち明ける勇気が私にあるだろうか。





そもそも私は気持ちが届く事で何を求めてる?








私のチョコの意味ってなんだろう。







何一つはっきりしていないそんなチョコを・・・




私は新一に渡す事が出来るの?








渡していいの?














「・・・・・ない。」






「え?」





「・・・・ない・・・・渡せるチョコなんて・・・・ない。」





そう言って私は全力で逃げ出した。





「・・・へ・・・・・・・ら・・・っ蘭!」





後ろから名前を呼ばれたけど振り返る事なんて出来なかった。



チョコを必死に隠すように鞄を抱きかかえて。





ただひたすら走り抜けた。




道行く人が驚いてこちらを振り返る。





でも私は止まらない。




校庭を出て今朝も通った通学路を逆走して。





一瞬見上げた夕空はなんだか曇って見えて綺麗だと感激することは出来なかった。



すぐに視線は下がって。

冷たいアスファルトが走る速さに合わせてのびて見える。



次第にその視界も歪みだした。



頬を伝う生ぬるい何かが景色の中に落ちて行く。


その何かはてん、てんとグレーを濃く染めていった。





渡せない。



渡せるわけがない。



こんな中途半端なチョコなんて渡せるわけない。





中途半端のくせにドロドロとした私のこの醜い感情が混ざったチョコなんて。







渡せない。






ガッ・・・




「ー・・・・っきゃ!」




段差に躓いて重心が前に傾く。


視界が激しく回る。



思わず手を出して少し離れていたはずのアスファルトに手が届いた。




「・・・・・・っ・・・・・。」





けれど手よりも先に地面に辿り着いていた膝に鈍い痛みが走る。




そっと膝に視線を向けるとすりむけた皮から赤い血が滲みだしてきた。





どんどん溢れだすその血にまた視界が揺れる。




脳裏に浮かぶ先程の光景。




他の誰かの想いがあなたに届く。

他の誰かがあなたの隣を歩く。

他の誰かがあなたから笑顔をもらう。




誰かが・・・・あなたに拒絶される。






真剣なチョコなんだ。



簡単な事じゃないんだ。





思い知る。






私はただの幼馴染。






私が勝手に気付いただけ。




あなたは知らない。


知らないんだ。




怖い。




簡単だったことが一気に難しくなる。



まるで何も出来ない子どもの頃に戻ったみたい。





いや、寧ろ子どもの時の方がましだった。








「・・・・・・っ・・・う・・・・あぁ・・・・・。」






地面に座り込んだまま声にならない声が漏れる。

涙がただ溢れる。




こんな気持ち。





知らなければよかった。







「・・っ・・・・・・・くる・・・・しぃ・・・・・。」








君の手に届くはずだったチョコは私のこの胸のように鞄の中で教科書たちに押し潰されていた。








後編 へ続く:::





:::あとがき



バレンタイン小説。


なんとか間に合った!

でも前編!

終わっていない。


ていうかこれこの後どうなるんだよ!


必死で考えます。


あっ高一設定です。

分かりづらくて申し訳ない。




皆様のチョコはあの人に届きましたでしょうか?


どうか届いていますように。




ハッピーバレンタイン。



2012.02.14 kako



とりあえず続きます。