○月×日
帝丹幼稚園たんぽぽ組。
工藤宋介(そうすけ)4歳。
今日は金曜日。
明日はお休みだからお荷物がお持ち帰りの日。
朝からソワソワしてる僕。
幼稚園は友達もたくさんいて、おもちゃとかブランコとかすべり台とか砂場とか色々あって、先生も優しくてとっても楽しいけれどやっぱりお家でパパとママと一緒にいられる日は嬉しくなる。
それに妹の凛も大きくなってきたから一緒に遊べるものが増えてきて面白いんだ。
でも僕のパパは“たんてい”ってお仕事をしてるからみんながお休みの日でもお仕事に行っちゃう。
だからお休みの日でも中々一緒に遊べる事がない。
けど、明日は久しぶりにお休みだってママが言ってたから大丈夫。
昨日特別にママが教えてくれたんだ。
それを聞いてからずっとドキドキワクワクが止まらない。
明日はパパと何をして遊ぼう。
「宋介、おはよう!」
「あっ藍子(あいね)、おはよう。」
すべり台から滑り降りようとした時、おさななじみの藍子が顔をひょっこり覗かせた。
藍子はまだ園服を着たまま。
「よう、宋介!」
「あっ快斗!」
「・・・呼び捨てはやめろって言ってんだろ?ったく新一はどんな教育してんだよ。」
快斗は藍子のパパ。
有名なマジシャンで本当にマジックが上手なんだ。
魔法みたいでいっつも目が離せなくなっちゃうんだ。
「今日は、宋介誰と来たんだ?」
「ママだよ!だって、パパは忙しいもん。」
「そっか・・・新一元気か?」
「うん、この前会った時は元気だったよ。」
「この前って・・・そんなに会ってないのかよ。」
「今、“とまりこみ”なんだって。でも明日は帰ってくるんだ。」
「へぇ、良かったな。」
快斗がニシシと白い歯を見せて笑うから僕も負けじと笑った。
「パパー藍子、準備してくるね。」
「んあ?・・・・あぁ!分かった、行ってらっしゃい。」
「行ってきます!宋介、藍子すぐ準備してくるからすべり台で待っててね。」
「わかった。」
藍子はそう言って快斗とタッチをすると部屋に入って行った。
「あー藍子ちゃんのパパだぁ!」
「私、マジック見たいー!」
「お花出して!!お願い~!」
すると快斗に気付いた他の子達が快斗の周りに集まりだした。
快斗はよく幼稚園でマジックを披露してくれるから人気者なんだ。
「しょうがねーなー。」
と言いつつもちょっと嬉しそうな快斗はコホンと一つ咳を払うとグッと握りしめた手の甲をみんなの前に見せた。
そしてー・・・
「ワン・・・・・ツー・・・・・・・・・スリー!」
とタイミングを合わせてパッと手を開くとピンクやオレンジに水色・・・他にもたくさんの色の花が手から溢れだした。
えぇー!?と驚くみんな。
いつも見てるけど、本当に不思議なんだ。
ホラ、また胸がドキドキしてる。
「じゃー俺も行くかな。」
「またね、快斗!」
「だから呼び捨てすんなって!・・・・じゃーな、宋介!」
満足そうに溢れた花を手にしたみんながまた園庭で遊び始めるのを見たら、
快斗もそういって幼稚園の門を出て行った。
その後ろ姿を見ながらちょっと思いだす。
そういえば幼稚園にパパと来た事ないな。
お迎えもいつもママだ。
別にいいけどさ。
でも藍子はよく快斗と来てる。
快斗もパパと同じで忙しいけど、仕事の時間が遅い日が多いから朝は大体藍子の事を送ってくる。
青子(藍子のママ)も一緒に来たりしてる。
本当はちょっと羨ましい。
みんなのヒーローのパパ。
僕のパパだってすごくカッコイイのにな。
本当は自慢したい。
“たんてい”で頭がよくて色んな事を知っているし、それにサッカーも上手いんだ!
でもしょうがないよ。
だって、パパは忙しいんだから。
「宋介ー!」
準備を終えた藍子が走ってこちらにやってくる。
僕はずっとすべりそびれていたすべり台からすべり降りて藍子に向かって走り出した。
でも、まさか今日は僕にとって特別な日になるなんてこの時の僕は思いもしなかった。
:::
「今日は何曜日だ?」
帰りの会で先生のお話になった時、先生からの質問。
「金曜日ー!」
大きな声で答える。
「金曜日はどうするんだっけ?」
「お荷物持ち帰るの!」
藍子が大きい声で答える。
その藍子の声を聞いた先生はにっこり笑った。
「そうだね。今日は手提げと上靴を持ち帰る日です、忘れないで下さいね。」
はーい!と元気よく返す。
さよならのご挨拶をして順番にお迎えを待つ。
園庭をそっと覗くともうお迎えに来てるパパやママが見える。
まだ僕のママはいない。
「ね、宋介。今日藍子のパパ夜からマジックショーなんだって!ママと颯斗(藍子の弟)と観に行くの!宋介も行こうよ!」
「本当?でも・・・今日はパパいないから無理かもしれない。」
「えぇー?」
藍子はガッカリした声を出す。
でもしょうがないよ。
明日がお休みになるためにパパは頑張ってるから。
「藍子、宋介と観に行きたかったのに・・・。」
「藍子・・・・ごめんな?」
「うー・・・でもしょうがいないよね。今度は絶対行こう?」
「うん!約束!」
そう言ってお互いに小指を出して指きりをする。
藍子がフフッと嬉しそうに笑う。
その笑った顔が可愛くて何だかちょっと恥ずかしい。
何だろう。
ママが笑った時とも。
凛が笑った時とも違うんだ。
少しだけ胸がドキドキする。
なんで藍子だけなんだろう。
不思議だな。
パパに聞いたらわかるかなー・・・。
「あっ藍子ちゃんお迎えでーす。」
そんな時先生が藍子を呼んだ。
「あ・・・!ママと颯斗だ!あれ?パパもいる!」
藍子はそう言って嬉しそうに立ちあがると荷物を持った。
そして反対の手で僕の手を掴んで快斗と青子の所へ走り出した。
「えっ・・・ちょっと・・・藍子?」
「パパ―ママ―!」
藍子の大きい声に気付いた二人が笑ってコチラを見る。
「藍子、おかえりー。」
僕と手を繋いだままの藍子を青子がギューッと抱きしめる。
「宋ちゃんも、こんにちは!」
「こんにちは!」
「ねぇ、ママ!今日のパパのマジックショー宋介も一緒に行っちゃダメ?」
「「「え?」」」
藍子の問いかけに僕と青子と快斗の三人が同時に声を上げた。
「だって・・・絶対絶対、パパのマジックショー面白いもん!藍子宋介と一緒に観たい!」
「あっ藍子!だから今日は無理だって言っただろ?」
驚いてさっきのことを確認する。
でも藍子は全く聞こうとせず二人の顔をじっと見上げてる。
「・・・・なぁ、宋介何んで今日は無理なんだ?」
すると快斗が僕に聞いてきた。
「だって・・・パパが“とまりこみ”でお仕事してるから・・・明日はお休みだけど帰ってくるのはきっと遅いだろうし・・・でももしマジックショーに行ってて誰もいない時に帰ってくる事になったらパパかわいそうでしょう?僕がちゃんと“おかえり”って言ってあげないと。」
僕がそう言うと青子と快斗は顔を見合わせてプッと小さく笑った。
そんな二人を不思議に見ていると快斗はかがんで僕と目線を合わせた。
青い目が僕の目をじっと見る。
ちょっとその目がパパに似ててドキッとした。
「よしっ、俺がお前に魔法をかけてやろう!」
「えっ?」
「今日、必ず嬉しくてしょうがねー事が起きる魔法だ。」
「・・・何ソレ。」
「宋ちゃん、快斗はおバカだけど魔法に関しては超一流だから安心して!絶対今日は特別良い事があるよ。」
青子までが自信満々に口にするけれど全く意味がわからない。
すると快斗は今朝やったように今度は僕の頭に掌をのせて唱え始める。
「1、2、3-!」
ぐっと力が入るとふわっと手が離れた。
「ねぇ、それで宋介は一緒に行けるの?」
藍子が痺れをきらしたように二人に問う。
「さぁ、それは魔法がかかってからのお楽しみ・・・・かな?」
えー?と藍子が不満気に頬を膨らませる。
「じゃー、また夜にな。」
「え?」
快斗はそう言って藍子を軽々と抱きあげると青子と一緒に帰っていった。
「・・・・魔法?」
一人佇んで呟く。
一体どういう意味だろう。
そして僕はそのままお部屋に戻る。
:::
「あっ!お迎えだ!宋介君、ばいばーい!」
「えっ・・・・あ・・・うん・・・・ばいばい。」
あれから中々お迎えが来なくて僕はお部屋でお友達と遊んでいた。
でも一人帰って、また一人帰って・・・・とどんどん少なくなって、たった今最後の一人が帰っていった。
友達と作った積木の家をじっと見てからゆっくりと手をのばして片付け始めた。
「あれ?宋介君が最後?珍しいね。」
片付けながら後ろのドアから先生達の声が聞こえた。
「そうなのよ、いつも早いお迎えなのに・・・遅い日は必ず連絡くれるし・・・・それも今日はないのよね・・・・ちょっと連絡入れてくるわね・・・」
ガシャン・・
片付けてる途中で家が崩れる。
“絶対今日は特別良い事あるよ!”
うそつき。
良い事なんて一つもないよ。
魔法なんかかかってないじゃないか。
なんだか胸が痛いよ。
「・・・・・・・・っ。」
ガラッ
「ー・・・すっすみません!そうすーっ・・・工藤宋介の部屋はどこですか?」
「・・・・・・え?」
突然ドアが開いたと思ったらそこにはお仕事に行く時の格好のままのパパがいた。
「あっ宋介!」
「ぱっ・・・・パパ?」
なんで?
どうしてパパがいるの?
「宋介、わりぃ・・・本当はもっと早く来るはずだったんだけど道が混んでてさ・・・・・・ごめんな?」
顔の前で手を合わせて必死に謝るパパ。
「すごい・・・魔法って本当だったんだ。」
頭の中がぐるぐるする。
でもとにかく。
「パパ!おかえり・・・・!!」
僕はパパに走り寄って抱きついた。
「ただいま・・・・ん?パパがおかえりって言うんじゃねーの?・・・・・まーいっか!」
ギュッと抱きしめ返してくれた。
「あっ・・・・宋介君のパパ!良かったー・・・お迎え遅いから今丁度連絡入れようと思ってたんです。」
「すみません、急遽僕が迎えに来る事になったんですけど、道が混んでて遅れてしまって・・・・連絡もせず失礼しました。」
「いっいいんです!何もなくて安心しました。」
パパに抱きつきながら先生を見ると何だか先生の顔がちょっとだけ赤かった。
先生お熱でもあるのかな?
「えと・・・このまま帰っちゃって大丈夫ですか?」
「あ、はい!だっ大丈夫です!」
「パパ、ちょっと待って今日は金曜日だからお荷物も持ち帰らないと。」
「あ、そうなのか?」
荷物を持つとちょっと得意げに見せた。
保育園の事だけはパパより僕の方が知ってる事多いもん。
「ママは?」
「家で凛と待ってるよ。早く帰ろうぜ?」
「うん!」
そっとパパが差し出してくれた手を握り締める。
「今日も一日、とっても元気でしたよ、ママにもよろしくお伝えくださいね。宋介君さようなら、また来週!」
「はい!先生さようなら!」
そうやって先生に挨拶した。
:::
帰りの車の中。
「ねぇ、今日は遅くなるんじゃなかったの?」
「宋介達に早く会いたくて頑張って事件解決させたんだよ。」
“早く会いたくて”
の言葉が嬉しくて口が勝手に笑ってた。
「パパ、明日は本当にお休みだよね?」
「おう、ちゃんと休みにしてあるよ。」
「じゃー明日は一緒にサッカーしてね?」
「わーってるって!最近一緒に出来てなかったもんな・・・ちゃんと練習してたか?」
「毎日したよ!僕、絶対うまくなってるよ!」
「へー・・・そりゃ楽しみだ!」
パパの横顔は歯を見せて嬉しそうに笑っていた。
「あっ、宋介、今日は帰ったらすぐ出かける用意するからな。」
「え?どこに行くの?」
「んー・・・行ってからのお楽しみかな。」
「えー何?」
いいからいいからとパパはそれ以上の事は教えてくれなかった。
:::
「「ただいまー!」」
家に着くとパパと一緒に玄関を開けた。
パタパタと足音が聞こえてくる。
「おかえり。遅かったね?」
とちょっと驚いたようなでも優しい笑顔のママ。
「道が混んでて予定より遅れちまったんだ。」
「ちゃんと宋介の部屋わかった?」
「あぁ、一発で宋介のいる部屋だったよ。」
「そう、良かった・・・時々は新一も送り迎えしたら?その方が宋介も嬉しいよねー?」
ママはそう言って僕に笑いかけてきた。
パパが一緒に保育園に行ってくれるの?
「うん!嬉しい!!」
元気よく答える。
それを見たパパは一瞬驚いてからふっと笑って・・・
「そうだなー・・・時間が合えばそうするよ。」
「本当!?パパ、約束だよ!」
「おー男の約束だ!」
パパの大きな小指と僕の小指が絡み合う。
「さぁさぁ、そろそろ準備しないと間に合わないわよ!宋介着替えるからおいで。」
「はーい!・・・ねぇ、どこに出かけるの?」
「それは・・・行ってからのお楽しみかなぁ?」
「えー?パパもそう言ったよ?教えてよー!」
「はいはい、ホラ早く園服脱いで!」
そうやってママはせわしく動き出した。
::::
「レディース、アンド、ジェントルメーン!」
活気のある通る声が響渡る少し薄暗いホール内。
その中でスポットライトを浴びるのはー・・・
「あれ、藍子のパパなんだよ!」
「・・・・それくらい知ってるよ!」
そう、藍子のパパこと快斗だ。
そして僕達家族がやって来たのは快斗のマジックショー!
早く帰ってきたパパのおかげで行ける事になった。
“今日、必ず嬉しくてしょうがねー事が起きる魔法だ”
思い返せば本当に今日は良い事がたくさんあった。
パパは迎えに来てくれるし、マジックショーには来れるし。
マジックは仕掛けがあるっていうけど・・・
今日の魔法だけは本当なんじゃないかな。
ドキドキと心臓がうるさかった。
次々と繰り広げられるショーに僕は目が離せずにいた。
驚いたり、笑ったり、ハラハラしたり。
快斗のショーはやっぱり世界一だと思う。
休憩時間になりマジックでドキドキした気持ちがちょっとずつ静かになってきたと思った時。
「・・・俺の魔法、気に入ったか?」
突然後ろから声がして驚く。
「えっ・・・・あ・・・・快斗!?」
「だから、呼び捨てにするなって。」
「だって後ろから急に話しかけるから・・・・。」
ニシシとまた快斗が笑う。
「で?良い事あったかよ?」
快斗の問いにそっとパパの姿を見る。
そしてまた快斗を見てコソッと言ったんだ。
「・・・・・快斗は本当はマジシャンじゃなくて魔法使いだったんだね。」
「・・・・・・・今頃気づいたのか?」
「ねぇ、どうやって魔法をかけたの?」
「それは教えられねーな・・・おっと時間だ・・・それでは小さなお客様、残りの時間もどうぞこの魔法使いの作り上げる奇跡をお楽しみ下さい。」
快斗はそう言って俺の前に跪いて告げると同時に暗闇になって姿を消したんだ。
「・・・・・快斗と何話してたんだよ?」
パパがこっそり聞いてくる。
ちょっと考えてから。
「・・・・秘密だよ!」
その声にちょっとパパは不満そうだったけれど僕は満足で一杯だった。
帝丹幼稚園たんぽぽ組。
工藤宋介4歳。
これはちょっとだけ特別な僕だけのお話。
おわり
:::後書き
はい、突発!
中途半端―!
ごちゃごちゃー!
更新するとかいってパラレルでごめんなさい。
宋介とかオリジナルになっちゃってるしね・・・・。
ちょっとマニアックなツボとつけていたらいいなーという・・・ただそれだけの。
なんていうか幼稚園の送り迎えを新一がしていたらどうなるのか!?
ていうかこういうパパがいたら素敵すぎる。
という願望から出来たものです。
それが何故か快斗の絡み話になってしまった!?
おかしーなー。
でも快斗パパも中々よさそうな気がするー。
絶対幼稚園でマジック披露するのは間違いないよね!
お待たせしたわりに、こんなんかよ!ってのでごめんなさい。
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