坂本恋愛物語 後編
思い返せば、何時の間にか俺の中はアイツで一杯だった。
アイツへの想いなんてガキの頃にもう無くしていたと思っていたのに。
まだ再会して3日しか経っていないのに。
どれだけ俺はアイツに恋していたんだろう。
:::
幼い頃。
いつも一緒に遊んでいた幼馴染の女の子がいた。
その子は一つ年が下で兄弟がいなかったからずいぶんと俺を慕っていた。
俺も嫌な気はしていなかったし、むしろその女の子と遊ぶのが楽しみでしょうがなかった。
その子は少し天然な性格だったから後先考えず思うがままに行動をするせいでよく失敗をした。
悪気がないのにたまに周りから反感をかってしまうこともあっていじめられることも多かった。
でもそれでもいつも前向きにニコニコ笑う姿が幼いながらも守ってやりたいと思わせて。
絶対にその笑顔を壊しちゃいけないんだって、そう思っていた。
だからもし誰かにいじめられていたらすっとんでいってその子を守ってやった。
いじめてたやつを追い払うと必ず見せてくれるその笑顔が見たくて。
俺達はどちらも子どもだったけれど。
きっと確実に何かは芽生えてた。
そんな時急に彼女の顔から笑顔が消えた。
そして告げられた言葉はー・・・
「こーちゃん、私ね遠くに引っ越すんだって。」
「え?」
「・・・・こーちゃんにもう会えない・・・んだって。」
俯いていて顔は見えなかった。
少し離れたところで女の子の両親が引っ越しのトラックと車を止めて俺達を見ていた。
突然のことに俺は頭が真っ白になった。
「そ・・・・っか。」
「・・・・・っ、こーちゃんいままでありがとう!こーちゃんと一緒に遊んだこと、わたし絶対に忘れないよ!」
俯いてた顔が急に上を向きまたあの笑顔が俺の目に焼きついた。
あぁ。
もう最後なんだ。
「ばいばい、こーちゃん!」
女の子は元気よく手をふって両親のもとへと走っていった。
俺はそれに振り返すことが出来なかった。
悔しくて。
認めたくなくて。
何も出来ない自分が淋しかった。
そしてあの笑顔は本当に見ることが出来なくなったー・・・
幼い初恋ー・・・
:::
確かなものなんて分かる訳ない。
キット惹かれてしまう運命。
まるで、あの幼馴染の恋人達の様に・・・・
そう思うのは馬鹿げてる?
出来れば、もう一度あの笑顔が見たい。
そう思う。
:::
「秋元~今日帰りカラオケ行こう。」
「はっ!?部活あるだろ、何言ってんだよ。」
「部活終わってから!!」
「ヤだよ、部活後にそんな体力ねーし!」
「いいだろ?付き合えよ!なんか今発散させてーんだよ。」
「知らねーよ、3日後に例のS女(今は共学)と練習試合だぞ?そんな体力が余るよーな練習メニューな訳あるか!1人で行け。」
「えっ!?3日後!?」
俺は秋元の言葉を聞いて思考が止まった。
3日後、また会う事になるのか。
先程の出来事を思い出す。
ちゃんと確認した訳ではない。
けれど、どう考えてもあれは付き合ってるとしか言いようがない訳で・・・。
万が一俺の思い違いだとしても、あんなに急に態度を変えてしまって、とてもじゃないけれど合わせる顔がないっていうか・・・・とにかく気まずい。
仮病使って出ないかなぁ・・・・。
でもソレはスポーツマンとしての俺のポリシーに反するしなぁ。
恋愛ってしたいけど・・・したくない。
今日一日俺はボーッとしたまま過ごした。
何かしようにも頭に浮かんで来るのはカオリとあの上田とかいう奴が話してるトコ。
その度にその時感じた惨めな気持ちが蘇る。
何通か携帯にメールがあった。
不在着信も数件・・・・。
全てカオリから。
向き合う自信がなくて、結局何の返事もしていない。
このまま連絡は取らなくていいと思う。
その方がいい。
言ってしまえば、迷惑だ。
期待させる事はしないで欲しい。
「坂本、わりぃ、昨日ノート返すの忘れてた。」
「おー工藤、ちゃんと喧嘩せずに写せたのかぁ?」
「・・・・・・。」
机に寝そべったまま工藤に返事を返すと工藤は冷たい目で俺を見てノートを置いて去ろうとした。
俺は咄嗟に呼び止めた。
「なぁーちょっと相手してよ工藤君。」
「誰がお前の相手なんかするか。」
「わーいいのかなぁ、そんな事言ってると、毛利にお前のあんな事やこんな事言っちゃうゾ。」
俺がそう言うと工藤は深いため息をついて横の席にドカッと座った。
「どーせ例の幼馴染の子関係か何かだろ?」
「・・・さすが名探偵。」
「お前が変な事して怒らせたとかそんなトコじゃねーの?」
「ちげーよ、逆だよ・・・俺が傷つけられた。」
「何で。」
「多分だけど・・・彼氏がいた。」
一瞬だけど、工藤の顔が歪んだ。
コイツでも友達の失恋を慰める事位してくれるのかな。
「諦めるのか?」
「諦めるも何も、彼氏がいちゃ元も子もねーだろ?」
「ふーん。」
ふーんってお前・・・それだけかよ!!
少しでも期待した俺がバカでした!
「何だよ、お前もし毛利に彼氏がいたらどーすんだよ。」
「いさせねーし。」
どっから出てくるんだその自信は。
「そういう事じゃなくて、もしもだよ!・・・好きなら、毛利の幸せを願うだろ?邪魔なんてしたくないだろ?」
工藤はソレを聞くと、キョトンとしてから口を開いた。
「それでも、俺は奪う。」
真剣だった。
すんげー真っ直ぐな目で。
男の俺でもコレは女だったらヤバイだろって思ってしまった。
「例え、奪ってその時蘭が悲しんだとしても、必ず俺が幸せにする自信がある。」
唖然として、これが工藤新一だと改めて思ってしまった。
コイツなら言えるよな。
あー悔しいケド、やっぱコイツカッケーよ。
「まぁ、コレは俺個人の意見だけどな。お前にまで無理して奪えって言ってる訳じゃねーけど、本当に好きなら・・・・・最終的に辿りつくのは皆同じなんじゃねーの?」
皆・・・同じ・・・・か。
何通ものカオリからのメールを見返した。
読んでるウチに会いたくなった。
今すぐ。
会いたくて、会いたくて。
ケド、行動に起こすまでには辿りつけはしなかった。
キット、まだどこかで俺は迷ってる。
俺と再会できた事を喜んでくれた事。
待ち合わせをして会えた時に見せてくれた笑顔。
子供の頃の俺の守ってやるという言葉を今も信じてくれている事。
ソレを信じていいのか。
ソレを都合のいいように解釈していいのか。
・・・・・・奪ってしまいたい。
工藤の様に上手くいかない事位最初から分かってる。
けどさ、俺は俺なりに、アイツに運命感じたんだよ。
だからキット・・・・俺ならアイツを幸せに出来るんじゃないのかな?
一度そう思ったら、もう引き返せない所まで来ていた。
:::
カオリと連絡を取らなくなって2日目の夜。
そんな大袈裟な時間じゃないけど。
明日はついに練習試合。
最終的にどーなろうと、明日ですべて決まる・・・・・と思う。
「チョットお兄ちゃん!!」
部屋でベッドに寝転がって天井を見ていたら妹の浅海がものすごい剣幕で部屋に入ってきた。
「なんだようるせーな、ノック位しろよ。」
「何でカオリちゃんに何の返事もしてあげないのよ!!」
浅海の口から出てきた名前に驚いた。
何でコイツが知ってんだ?
「カオリちゃんすんごい悲しんでるんだからね!」
「イヤ、ちょっと待て何でお前が知って・・・・つーか、なんでずっと会ってなかったのにお前こないだ来たのがカオリだってすぐ分かったんだ?」
そういえばそうだ。
浅海だって本当に小さな頃にしかカオリと遊んだ事はない、ましてやあんな変わったカオリを一発で本人と判断するのはむずかしい。
「私が中学に入った頃から連絡取り合ってたんだよ。」
「はっ!?聞いてねーし!!」
「だって!!お兄ちゃんその時彼女いたでしょ!?」
「はっ?いたというか・・・なんというか・・・・イヤそれとこれとどーいう関係があんだよ。」
「カオリちゃんはねー、ずっとお兄ちゃんと会いたかったんだよ!!」
「・・・・・?」
「あーもー鈍感!!口止めされてたんだけど・・・・・・・」
「えっ・・・・・!?」
:::
最悪の不調だ。
眠れなかった。
平均睡眠時間8時間の俺が昨晩は一睡もしていない。
今日は大事な練習試合があるというのに。
昨晩、浅海から聞かされたことに俺は驚きを隠せなかった。
自分のふがいなさに心底落ち込んだ。
呆れた。
あの時の自分の行動、言動があまりにも情けなくて。
一睡でもすることでまるでそんな自分を甘やかしてしまう気がして。
なんてばかなんだろうか。
きっと。
カオリを傷つけた。
一体どんな顔をしてカオリと会えばいいのだろうか。
「・・・・・おい、おめー最高に顔色悪いぞ。」
部室のドアを開いて数秒佇んでいたところに工藤のこの一言。
「工藤、俺・・・・・・・どうしよう。」
「?・・・・またあの幼馴染のコの話かよ。」
工藤はさすがに察しがよくすぐに俺がもっとも話したいネタに触れてくれた。
スパイクの靴紐を結びながら工藤が口を開いた。
「たくっ・・・・本当にどうしたいかはお前が一番わかってんだろ?
男が好きな女のコトでメソメソしてんじゃねーよ。」
「・・・・・・くそ。正論すぎてなんもいえねーーー。」
「これでもまだメソメソしてたら俺はお前を見捨てるな、間違いなく。」
やっぱコイツは一番のダチだよな、とか思ったり。
ーーーーーーー・・・っていうか。
「工藤なんでいんの?」
そうだよ、そうだよ。
コイツはとうの昔にサッカー部辞めちまったじゃねーか。
なんで裏切り者のコイツがここに??
しかもユニフォームにスパイクを身に付けて・・・・
「・・・今頃気付いたか・・・・・お前があんまりにフラフラしてるから俺がお前の代わりとして呼ばれたんだよ。悪いけどお前の出番今日ないから。」
「ぎゃーーーーーー!!なんだそれは!俺は絶好調だ!最高だ!お前に助けを求めるほど落ちぶれていない!!」
一体この三日間の間に部内でどんなやりとりがされていたんだ?
最低だ。
「ばーろ。言いたくねーけど、俺がいないサッカー部でのエースはお前なんだよ。誰が戦力を減らすか!」
「え?じゃなんで?」
「体なまってるってこないだ監督と久しぶりに会って話したら暇つぶしにでも出るか?って誘われたんだよ。」
「なんだよーーーまじ焦った、ビビラスナヨ。」
工藤は少しだけ笑うと立ち上がった。
久しぶりに部室内にコイツがいることが懐かしくて昔のあのワクワクした感じを思い出した。
すげー奴はたくさんいるけど、やっぱり工藤とサッカーをするのが一番楽しい。
なんとなく楽しくなってきて、体調が最悪だったこともすっかり忘れていた。
工藤が俺の横を通るか通らないというところで肩に手を置いてきた。
「欲しいって思えたんなら全力で奪い返せ、アシストするぜ?」
なんでコイツはいつもこうやって、全てを見透かしたかのような台詞を簡単に言えるんだろう。
「俺、工藤に詳しい話してねーよな?」
「・・・・・俺は探偵だぜ?なめんなよ。」
かーーなんて歯が浮くようなきざな台詞なんだ。
恥ずかしくないのかしら・・・とか思いつつ。
頼もしいヤツだと思ってる自分。
笑っちまうよな。
「坂本君いますか?」
「??」
また珍しい顔ぶれだと思ったら、工藤王子のお姫様のご登場だ。
「もっ毛利?」
「いた!ねっ、坂本君に会いたいって言ってる人がいるんだけど今平気?」
ドキッとした。
カオリだと思った。
一気に落ち着きがなくなり、心臓の脈を打つ速さが加速した。
「・・・・誰?」
「あっ、相手チームの方なんだけど・・・・・」
毛利の後ろに人影が写って、また速くなる鼓動。
けれど次の瞬間それは一気に違うものへと変わる。
「・・・・!?」
毛利の後ろに立っていたのは、カオリなんかじゃなかった。
どちらかといえば今は会いたくない・・・いや、二度と会いたくなかった奴。
「よぉ、前に会ったと思うけどお前が坂本・・・だよな?」
「・・・あぁ。」
面会人はいつかカオリを学校まで送ってやったときに会ったアイツだった。
工藤は何か察したのか毛利をソイツから離れるように自分の方へと手を引いた。
「率直に言わせてもらうけど・・・・・竜崎にこれ以上近づかないでくれる?」
「・・・・・・は?」
あまりにも自分勝手なソイツの一言に俺は声を低くした。
「幼馴染だかなんだかしんねーけど人の女の近くで他の男にうろちょろされると気分よくねーんだわ。」
人の女?
カオリはやっぱりコイツを選んだってことか?
さっきまであんなに強気になっていたはずなのに。
気付けばまた体調の悪さが俺の体を支配し始めた。
「だから、前にも関係ねーって言っただろが。」
「・・・・・ならいいんだけどよ。」
「つーか俺機嫌わりーんだ・・・・・・でてってくれる?」
今まで俺こんな態度、人にとったことあったっけ?と自分を疑うくらいに普段の俺とは思えない声で上田を睨み付けた。
上田は何も言わず出て行った。
「・・・・・・・っくしょぉ。」
すぐ近くに工藤だとか、毛利がいるとか関係なしに俺はそう口にしていた。
どうすればいいのかわからずただ、こんな情けない自分に呆れることしかできなかった。
:::
時間になり各チームごとにウォーミングアップと軽い練習を済ませ練習試合が始まる。
まず整列して互いに挨拶を交わす。
練習中は仕事をしていたのか見当たらなかったがこの時はカオリの姿を見つけた。
何日ぶりだろうか。
久しぶりに見るカオリはやっぱり愛しかった。
けれど、二人で会った時のような元気は見られずどこか元気がなさそうで俯き気だった。
目が合ったけれど、どうすることもできずすぐ逸らしてしまった。
なんで笑ってねーんだよ?
挨拶を終えたあと、上田がカオリのそばに行き何かを耳打ちしていた。
自分との距離の違いが悔しくて視線をはずした。
「情けねー顔してんじゃねーよ。」
バコッ
背中にボールが当たった。
「・・・・・・・工藤ぉ。」
「さっきまでのヤル気に溢れたお前はどこにいったんだよ。」
「・・・・・・・・。」
「忘れたのか?」
ポケットに両手を突っ込み上から見下ろすように工藤は言った。
「この俺がアシストすんだぜ?なんの不満がある。」
またもや呆然としてしまった。
が、そのすぐ後俺は笑った。
「不満なんかあるか!頼むぜー平成のホームズさんよぉ!」
:::
--------「カオリちゃんはね、お兄ちゃんに会うためにコッチの高校に来たんだよ?・・・・その意味わかるでしょ?」
「・・・・・え?」
「わかったら早くカオリちゃんに連絡とってよね!!」
昨日の浅海から聞いた事を思い出す。
なぁ、俺に会うために、わざわざ寮に入ってまでこっちの高校来たって・・・・・
再会した時のお前の言葉は・・・・本心だったのか?
俺はさ、それをどう受け取ればいいのかな?
イイ方にばっか考えたいけど。
いつまでもその気持ちが続くとは限らないよな?
今はその上田って奴がいるんだろ?
幸せなんだろ?
なのに。
なんでそんなに悲しそうな顔してるんだよ。
辛そうな、嫌そうな顔してソイツと一緒にいるんだよ。
お前、あんなに笑えるだろ?
俺と話してたとき、すっげー嬉しそうに笑ってただろ?
なぁ、もしかして。
ーーーーー・・・・・そういうことなのか?
全部俺の都合のいいように解釈してもいいのだろうか?
もし真実が俺のネガイ通りなら。
パスを黙って待つんじゃなくて。
ボールが自然とコチラに回るのを待つんじゃなくて。
自分から奪いに行っていいかな?
いや・・・・・
奪ってみせる。
試合が始まるとともに激しいボールの奪い合いが始まる。
気付けばボールは工藤の足に吸い込まれるように纏わりついていた。
味方だからいいものの、まるでコイツはサッカーの神様に選ばれたようなことばかりやってのける。
これだけ才能を持ってどうしてコイツはサッカーを選ばないのか。
こういうときだけ本当に憎たらしいと思ってしまう。
しかし、相手のゴール付近まで工藤が攻めた時珍しくも工藤からボールを奪う奴が現れた。
これがまた悔しいことにあの上田の野郎だ。
認めたくねーけど、さすがに上手い。
けれど、負けてられない。
さぁ、宣戦布告といこうか。
:::
「あの・・・・S高のマネージャーさんですよね?」
「えっ・・・・はぁ?」
S高のベンチで試合の様子を見守る少女に蘭は話かけた。
「坂本君の幼馴染さん・・・・かな?」
「・・・なんで知ってるんですか?」
蘭の話かけた相手はカオリだった。
カオリは不安な顔をして問う。
この女性は浩司のことが好きだという人かもしれないと悟ったのだ。
「しんい・・・あっ坂本君の友達が私の幼馴染でね、ちょっと坂本君に幼馴染がいるって話を聞いたの。もしかしてって思って急にごめんなさい。」
「こーちゃんのお友達の・・・・?」
どうしてそんな人が自分に話しかけてくるのかカオリはわからず、ますます不安で襲われる。
そしてついにカオリは口を開く。
「あの・・・・もしかしてこーちゃんのこと・・・・。」
そうカオリが言いかけると蘭は驚いて否定する。
「違うよー!ごめん、誤解させちゃったかな?坂本君とは普通にお友達。」
「そう・・・なんですか。」
カオリはほっとする。
こんな美人が相手じゃどうしようもないと思ったから。
「坂本君ってばずーっとアナタのこと見てるんだもん、絶対あのコだ!って思って・・・・ってこんないきなり話したかけたら驚くよね。」
「ずっと・・・・ですか?」
蘭の口にしたことにカオリが驚いた顔をする。
蘭はそんなカオリを見て、ふと微笑んでまた優しく伝えた。
「そこにどんな感情があるのかは二人にしかわからないけど・・・とっても優しい表情してるよ・・・それにアナタも必死に坂本君を目で追ってる。」
ニコッと微笑まれて言われたことにカオリはほのかに頬を染める。
「・・・・伝えたいことがあるんです。」
カオリが口を開く。
「このまま伝えなかったらきっと後悔する。」
そっと告げるカオリを見て蘭は優しく笑った。
「大丈夫、坂本君はちゃんと聞いてくれるから・・・・頑張って。」
初めて会って初めて会話するにも関わらずまるで自分の全てを知ってくれているようなその蘭の口調にカオリは泣きそうになったのを懸命に堪えていた。
:::
つい最近まで女子高だったはずなのに、このサッカーチームの奴らは意外にも技術力がある。
よく顔を見れば中学の時に試合をしたことがある顔が数人いた。
さすが私立。
一気に上手い奴ら集めて強豪チーム誕生ってね。
けれど俺達だって負けていない。
しかも今日はなんとあの工藤もいるのだ。
俺と工藤が二人いたら、そこいらのチームに負けやしねぇ。
しかも今の俺は・・・・・負ける気がしない。
とか思っているうちに試合は後半に突入。
ここからだ。
急に体に異変が走ったのは。
パスボールを取ろうとした時、急に視界が歪み倒れこんでしまった。
一時的に試合が止まる。
ヤバイヤバイ。
寝不足のつけが今になってやってきやがった。
「坂本、おめー少し休め。」
すぐそばに駆け寄ってきた工藤は俺の体調に気付いたのか低く言った。
けれど、はい、そうですねといって受け入れるわけにはいかない。
「なんのこれしきっ・・・・つーかこの試合負けるわけにはいかねーんだよ、わかってるだろ工藤!」
工藤は口の端を微かにあげて微笑してから俺の片手を差し出してきた。
「カッコイイとこ見せてみろ。」
俺は工藤の手を取り立ち上がり試合は再開された。
決めたんだ。
この試合に勝ったらアイツんトコ行くって。
困るかな。
でもいつか工藤が言ってたみたいにやってみせるさ。
例え、奪うという結果になってその時カオリが悲しんだとしても、必ず俺が幸せにする自信がある。
カオリを笑わせられるのは俺だけだ。
俺にしかカオリを幸せにできねーよ。
工藤、やっぱ最終的にいきつくとこはみんな同じなんだな。
ラスト20秒、試合は1-1。
最後の最後に工藤が相手からボールを奪って見せた。
長年の勘だが最後にとる工藤の行動は予想できた。
俺は走った。
きっと誰もがこのまま工藤が最後まで攻めると思っただろう。
絶妙のタイミングで工藤から俺にパスが回る。
しかしそれに気付いた奴がいた。
上田の野郎だ。
しかしそんな簡単に見破られてたまるか。
目の前に出てきた上田の一瞬のスキをつき俺はまた前に出てパスをしっかりと受け止めた。
が、その動きに上田もギリギリでついてきて俺の体の前に右上半身で体当たりしてくるような回転をしてきた。
体勢を崩しそうになったが俺はためらうことなくそのままゴールめがけてシュートを決めた。
ゴールのネットが揺れる。
テンテンとボールが跳ねる。
ピーーーーーー!!
試合終了のホイッスル。
際どい体勢だったため俺は上田と倒れこんだ。
くそ、今のでまた頭のぐらつきが増しやがった。
俺はフラフラと立ち上がりながら上田に向かって言ってやった。
「自分の女笑わせられねー奴に、カオリを幸せに出来ると思ってんのか!カオリは俺が笑わせるんだ!」
言ってやった。
それと同時に俺の意識は消えていった。
「・・・・っこーちゃん!」
どこからか俺の名前を呼ぶカオリの声がしたけれど俺は答えることはできなかった。
:::
「・・・・・・・。」
白い天井。
あーココ、保健室だ。
薬くせー。
・・・・・・・・・・・・!?
「しっ・・・・試合は!?」
思わず俺は起き上がる。
そうだ、今日は試合だったじゃないか。
どうなったんだっけ。
「大丈夫、最後に工藤さんのアシストとこーちゃんのゴールが決まって勝ったから。」
「!?」
気付けば横にカオリが座っていた。
「なっなんで?」
カオリは何も言わず黙って微笑んでた。
「コーチャンあれからずっと眠ってたんだよ、今18時。」
「はぁ!?なんで起こさねーんだよ。」
「何度も起こしてたよ工藤さんが。さっきまでいてくれてたんだけどどうしても外せない用があるからって彼女さんと帰っていったよ。」
工藤が!?
「てかこーちゃんってば工藤さんと本当は仲良しだったんだね。工藤さんとってもイイ人じゃない、それに彼女さんもとっても素敵な人だね。」
カオリはニコニコ嬉しそうに話してる。
この笑顔が見たかったんだ。
「なーカオリ?」
「何ー?」
「俺・・・・ガキん時、すんげーーーお前のコト好きだったんだぜ?」
言わずにはいれない。
もう駆け引きなんて必要ない。
「い・・・・まは?」
「・・・・・もっと好き。」
視線が合わせられなくて前を見て紛らわせていたが横目に何かが光って視線をカオリに戻した。
「なっ泣くなよ!!」
「だって・・・・こーちゃんが・・・・・。」
「あーーーもう!」
俺はカオリを抱き寄せた。
人が人を愛しいと思うことってどうしてこんなに切ないんだろう。
何かがギューッと締め付けられるような。
「こーちゃん。」
「ん?」
「大好きだよ。」
後で詳しい話を聞いたところ、あの上田というやつが一方的にカオリに言い寄っていただけのことらしい。
先輩であるという理由があり断るに断れずとても困っていたのだとカオリは言った。
そして試合終了後の俺の上田に対する一喝を聞いてキチンと断ろうと決心したらしく俺が寝ている間にことを済ませたらしい。
しかも上田とのやりとりの最中は俺の変わりに工藤と毛利が近くで見守っていてくれていたそうだ。
最後の最後までナイスアシストだぜ・・・工藤。
ちゃんと始めからカオリ本人の口から確認していればこんな遠回りはしなかったのに。
全部俺の勝手な勘違いが原因じゃねーのか?
全ての話を終えた後。
「こーちゃん、私のこと幸せにしてくれるんだよね?」
と言ったカオリを見て、試合終了後の自分の行動を全て思い出した。
そりゃぁしてやるさ。
「お前を幸せにするのは始めから俺だって決まってんだよ。」
その俺の言葉に綺麗に笑ったカオリは今までで一番魅力的だった。
さぁ。
皆さんいかがでしたか?
僕の恋愛物語。
結構素敵だったでしょう?
えっ?今二人はどうなったって?
そりゃぁ、物語のラストは決まってるじゃないですか。
=カッコイイカッコイイ王子様と可愛い可愛いお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ=
てね。
終
:::後書き
いやーー。
どうもラストに全てを崩された気がする。
しかし・・・
なんだこの無理やり詰め込みましたって話は。
なんだか落ち着かない。
スミマセン、本当。
少し補足してあります。
子ども時代のとこは本当はありませんでしたが後付けしてみました。
ではではこんな感じで終了です。
こんな自己満作品にご協力ありがとうございました。
2007.10.30 作品
2010.11.16 kako
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