0 3 . 焦 り と 噂
何も焦る事は無かったんだ。
俺らしくもない。
冷静沈着。
アイツに言われて思い出したよ。
:::
「おーい、工藤!!」
「あん?」
昨日も事件で帰りが遅くなって、寝不足な俺。
遅刻ギリギリで登校して、HRが終わってウトウトときたトコロに呼ばれてしまった。
いつもなら相手にせず構わず机に突っ伏すのに・・・なぜか今日は素直に反応してしまった。
俺を呼んだのは坂本だった。
「毎日毎日、本当にお前は眠そうだな、オイ。」
「悪かったな、昨日も帰り遅かったんだよ。」
「いや、俺は別に工藤が何時に帰ったとかは興味ねぇよ。」
「・・・俺だってそんな興味もたれたくねーよ。」
窓の外を見ていると体育の授業なのかジャージに着替えた生徒が数人出てきた。
体を動かせばこの眠気も少しは失せるだろうか・・・。
本日の時間割を思い出してみる。
こういう日に限って体育はナイ。
ちっと舌打ちをすると、ふと気づいた。
「・・・・・坂本は何用で俺呼んだんだ?」
「よくぞ、聞いてくれた!!」
そう叫んで人差し指を俺の顔に向けてきた。
「・・・・・・・。」
数秒見詰め合って。
坂本は周りを数回見回してからさっきの堂々とした動きとは逆にコソコソと俺の耳に向かってボソっとしゃべった。
何したいんだ、コイツは。
しかし坂本の言葉を聞いて数秒後。
ガタっと何も言わず立ち上がった俺は、先程までの眠気はうその様にはれていた。
:::
「らっ蘭!」
「なぁーに、新一?」
「・・・・・・っな・・何でもない。」
「何よ、またなの?気持ち悪いなー。」
さっきから何度この会話を繰り返しただろうか。
因みに今は帰宅中。
ちょうど部活終了の時間が同じだったため、たまたま一緒に帰っている。
ただそれだけ。
それにしてもどうも落ち着かない。
そもそも坂本があんな事言うからだ。
しょうもない噂。
蘭の顔を盗み見る。
『毛利がお前にこっぴどく振られて自棄になって、好きでもない男と付き合ってるとかいないとか。』
『・・・・・うそだぁ。』
『お前が振ったとかは嘘だとして・・・付き合ってるってのはまんざらでもないらしいぜ?』
『・・・・なんで?』
『現に一緒に帰ったりしてるらしいしな・・・何度も目撃されてるっつーか俺も昨日見たんだけど。』
『・・・・・。』
『お前がいつまでもハッキリしねーから毛利もついに愛想つかしたのかもなー。』
:::
「・・・・・何よぉ、人の顔ジロジロ見ちゃって。」
「へっあ・・・いや別に。」
急に蘭と目が合って現実に戻された。
「今日の新一変なのぉ。」
「うるせ。」
そのまま黙って歩いた。
薄暗い道を。
蘭は本当にここを他の男と一緒に歩いたのだろうか。
坂本から聞かされた噂がどうも頭にひっかかって今日は一日中落ち着けなくて。
授業中はぼーっとしていて何度も指されたり、
部活では、つまらないミスを連発して先輩や監督から何度も注意された。
相手は誰なのか・・・とか。
やっぱり俺は蘭にとってただの幼馴染みでしかないのか・・・とか。
なんで・・・俺は。
こう、なんつーか、蘭の事になると頭が上手く働かないのだろうか。
ただ、ただ一人で焦って空回り。
一番に自分がするべき事は何なのか分かっているくせに。
どうしてそれを実行出来ないまま、今みたいに焦っているんだろう。
自分の気持ちに気付いたのは随分も昔のくせに。
このままじゃ本当に坂本に言われた通りいつ愛想つかされてもおかしくねーよな。
そもそも愛想なんてモノさえ存在しなかったんじゃないだろうか。
「そういえば一緒に帰るの久しぶりだよね。」
「え?」
「だって新一事件に呼び出されたり、部活の終了時間が合わなかったり・・・・ね?」
あぁそういえば・・・と数日を振り返る。
蘭の言うとおり最近は一緒に登校する事はあっても下校する事はなかった。
そう考えると今一緒に帰っているこの時間が・・当たり前の様で・・でもとてつもなく大切に思えてくる。
やべぇよなぁ。
こんなにはまってる自分。
やはり真相は確かめておくべきなのか。
でもここで噂を真実だと言われたら俺はどうするんだろうか。
そのまま他の男のモノになっていく蘭を黙って見過ごせるか?
いやいや・・・だから真実とは限らない・・・。
「新一、知ってる?」
「なっ何を?」
考え込んでいたら蘭が覗き込んできた。
「噂。」
びくっ!!!
「ど・・・どんな?」
「あっ知らないんだ。これがまた笑っちゃうんだよ!」
「何?」
「私が新一にこっぴどく振られてその腹いせに好きでもない男と付き合ってるんだって。」
「・・・・・・。」
あっそう、君は笑っちゃうわけだね?
いや、つーか今しゃれになんねーから。
「なんでそんな噂が広がってるんだろうね?そんな事あるわけないじゃない。ね、新一。」
「え?あぁ・・・。」
やっぱりただの噂?
「だよなぁ!!誰がお前みたいな女相手にするかって話だよな。」
「・・・・失礼ね、どーいう意味よ。」
「いや、ただ何処にこんな暴力女を好む男がいるのかなぁ、なんて。」
「なっだったらね、新一だって!・・・どうしてこんな推理オタクに騒ぐ女性陣がいるのかわからないわ。」
「なっ、言わせておけば・・・。」
「言わせておけばって先に失礼な発言したのはそっちですからね!っていうか何で私が新一にこっぴどくふられなきゃいけないのよ!」
そのまま俺たちは口喧嘩を続ける。
少ししたら蘭が急に笑った。
「何笑ってるんだよ。」
「ん?別に、ただやっといつもの新一らしくなったかなって。」
「へ?」
「ほら、今日新一学校では授業中ぼーっとして何度も指されてるし、部活でも珍しくミスの連発で監督に怒鳴られてるし、今もなんかそわそわして落ち着きなくて、何だか焦ってるみたいで。」
さすが、というか。
よく見てくれてるんだなと関心した。
正直言うと情けないとこを見られていたのかとプライドが許さないところもあったが。
「らしくないぞぉ?」
蘭はそう言いながら、道端に咲いていた赤い花を摘んだ。
そしてソレを顔に軽く当てて、
「いつも、冷静、沈着。」
「・・・・・。」
「それが新一の憧れ、ホームズでしょう?」
そう優しく微笑んだ。
あぁ、なんでコイツは。
気持ちは溢れて溢れて。
でもキット、まだ自信は足りない。
どこかでは先を求めて、どこかではまだ、今を求めてる。
くるっと後ろを向いてまた帰路につきながら言ってやった。
「・・・まんざら嘘でもねーんじゃねーの?」
「え、嘘?」
「・・・男と一緒に帰ってたんだろ?坂本が見たとか言ってたぞ?」
「えー?!私がいつ?」
「昨日?」
そうだ、まだ完全に噂がはれたわけじゃねー。
今朝坂本が言っていた事を思い出した。
「昨日?・・・あぁ!違うわよ、昨日は帰り空手部の男子と偶然会って、友達の家に用があるって言ってて・・・方向が同じだったから本当にちょっとだけ一緒に歩いてただけだよ。あっそういえば坂本君にも会ったなぁ、なんか誤解してたから今言ったのと同じ事言ったはずなんだけど。」
「へ?」
坂本の顔を思い浮べる。
あのヤロウ。
「なんでそんな事聞くのよ・・・・あーわかったぁ!!」
「なっなんだよ。」
蘭はニヤニヤ笑って俺を見てきた。
「新一くんったら妬いてたんだ!だから今日変だったんだ!」
「ばっバーロ。んな訳あるか、俺はだなぁ、その昨日の事件の事で気になることがあったからいろいろ考えてたんだよ。」
「ふーん、何だ、違うんだ。」
またまた焦る俺。
図星をつかれて。
「残念。」
「え?」
蘭が何か言ったような気がした。
「何も言ってないよ。」
また蘭は笑った。
くそっ可愛いんだよな。
・・・・とか思う。
明日ここまで俺を焦らせてくれた坂本君をどうするか・・・・。
冷静に。
沈着に。
噂はただの噂。
焦らず。
焦らず。
隣の君の掌でピンクの花がくるくる回っていた。
Fin or NEXT
>>
:::後書き
一周年記念第三弾ですね。
坂本君にやられた新一君でした。
あっこれ高校1年生の時のお話です。
コナンになる前です。
イマイチ坂本君を怒る新一君の心情がわからなかった方にコメント。
いやね、噂は実際問題あったんですよ。
ただそれは本当にただの噂だったわけで。
それに坂本君が事実だったような嘘を加えたから・・
つまり『現に一緒に帰ったりしてるらしいしな・・・何度も目撃されてるっつーか俺も昨日見たんだけど。』っていう坂本君の台詞ですね。
でもこれは坂本君の気遣いだったりしたんですよ?
こういう風に言えばじれったくて中々はっきりしない新一君に
行動を起こさせる源になるかも・・なんて。
しかし今回新一君はそうはならずにただただ焦る事しか出来なかった・・と。
あーーなんかよくわからなくなってきました。
ごめんなさい。
そういえば、道端の花を摘んだ蘭ちゃんは残酷か!?
と悩んだんですが・・・。
きっと可愛いだろうから許してやって下さい。
ではでは。
2005.08.26 作品
つーか、最近坂本君出すぎじゃねぇ?
本当なら西の探偵の役目な気がするんだけど・・・ま、いっか!
2010.11.03 kako
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