第 9 話 選択肢A.B.C
「ねぇ・・・やっぱり変だよね?」
「何が?」
「あの二人だよ。」
「あぁ、あの二人か・・・・うん、変だよ。」
「まさか・・・・・・・・・・・・なんてことはないよね?」
「それはないでしょう!だってあの二人だよ?」
数人の生徒が噂の種になっている二人に交互に視線を送った。
「だって・・・蘭が風邪治ってから一度も二人が話してるところ見たことないよ?」
「ただすごい喧嘩してるだけかも知れないよ?」
「だといいんだけど。」
新一と蘭が別れを告げて、蘭が風邪を引いて、完治してまた学校に通い始めてから早くも二週間。
それからの二人は噂の通り一切言葉を交わしていなかった。
でもそれは相手が嫌いになってしまったとかそういう問題ではなくて、
“どうしていいのかわからない”
という一つの原点ともいえる理由があるから。
小さな頃からずっと一緒で幼馴染だった二人には、こんな日が訪れるなんて思いもよらない突然の悲劇。
もう一緒にいれないという事をどう受け止めていくべきなのか、
それがわからないのだ。
さすがに二人の異変に何かを感じた者もいるようだ。
今までにだって二人が口を聞かないことはなくもなかったが、
それもこれほど続けば誰だって不思議がる。
そんな中たった一人挑戦的な眼差しで新一に近づく者がいた。
「なぁ工藤・・・・悪いけど俺は遠慮はしないぜ?」
「は?」
「お前等、一体どうしたんだ?」
新一にはっきりと質問したのは中学からの悪友坂本だ。
どういう考えがあるのか新一はためらわずにサラっといいのけた。
「あぁ、俺達別れたんだよ。」
数秒間黙って、今度は数秒間考え込んでから坂本が急に叫んだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!?」
坂本は新一の胸倉を掴んで問いただす。
「お前冗談も休み休みいえよ?」
「休むもなにも冗談なんか言ってねーよ?」
「なっ・・・ありえねーだろ・・だってお前等が・・そんな・・。」
「・・・・・なんでだろーな?俺もわかんねぇーや。」
そう言う新一に微かに悲しさを覚えた坂本は胸倉から手を離して
一つ溜息を吐いて新一の隣の席に腰を降ろした。
「・・・・あっちからか。まさかお前が振られるとはな。」
「やっぱ俺、振られたっていうのか?」
脳裏にあの日泣きながら別れを告げた蘭が浮かんできた。
俺・・・振られたのか?
じゃぁなんであんな苦しそうな顔で泣きながら告げた?
嫌いなやつのために泣いたりするか?
あれは本心か?
「お前が事件事件って毛利ほったらかし過ぎたんじゃねーの?」
「・・・・・・。」
「なぁ・・・一つだけ教えとくぜ?全く関係ねーかもしんねぇけど。」
「あん?」
「お前が北海道に行ってる間にさ・・・ちょっと気になるやつがいたんだよ。」
「別にお前の恋路に興味はねーよ。」
「ばーか、ちげぇよ。」
呆れた顔をした坂本がちょっとだけ目線を鋭くさせて一言告げた。
「うちのクラスの浅田いるだろ?アイツと毛利急に仲良くなったんだよな。」
浅田という名前にピクっと反応する新一。
うちのクラスの浅田といえば男子しかいない。
急に仲良くなった?
なんとなくもう予想がついたけど、
それはきっと認めたくなくて。
「まぁ、お前等が決めたことに口挟む気はサラサラねぇけど・・もう一つだけ忠告してやるよ。」
「?」
「お前等が口聞いてないこの二週間、毛利はお前を何度見つめていたでしょう。」
「え・・・・。」
「選択肢、A.一度もない B.まるで呪いをかけるように4~5回・・・・・」
「選択肢C.見てるこっちが切なくなるほどの悲しげな瞳で数えきれないほど。」
新一は驚いた顔で坂本を見る。
すると坂本は・・・
「たく・・・・・らしくねーんだよ。」
ケッと吐き捨てるように。
「工藤新一にはアイツしかいねーのによ。」
そう言い残して坂本は教室を出て行った。
今のが真実だとしたら俺はどうすればいいんだ?
なぁ・・・蘭?
お前に何があったんだ?
俺が嫌いになったのか?
ただそんな単純な理由なら俺はいくらでもお前をまた振り向かせようとするだろう。
でも・・・そういうわけじゃないだろう?
もっと厄介な理由があるんだろう?
もう話す気はないのか?
“「うちのクラスの浅田いるだろ?アイツと毛利急に仲良くなったんだよな。」”
新一は視線を浅田に向けた。
机に突っ伏して寝ているようだ。
少しすると顔をちょっとだけ上げて何かを見ていた。
その視線の先にいるのは・・・・・蘭。
その瞬間新一は無償に腹が立っていた。
どうしようもない嫉妬感。
自分にはそれさえも持つ権利がないというのに。
今すぐ浅田の元へ行き蘭とのことを聞き出したいものだが、
こういう時に限って中途半端な弱さが出現してくる。
もし予感が的中してしまったらきっともっとどうしていいかわからないだろうから。
:::
新一と蘭が別れてから気づけば早くも一ヶ月を過ぎていた。
二人が別れたという事実は校内全体に広まっていた。
こんなに長い期間、二人が口を利かないのは、高校2年の新一が失踪していた事件以来初めてだ。
ただの幼馴染の頃はこんな風になってしまうのが恐くて勇気が出せずに互いの気持ちを隠してた。
でもやっと願いが叶って。
幸せで・・・幸せで・・・・・
幸せだったのに。
今はその頃とも全く違う。
ねぇ、別れた今でもあなたを見つめてる私がいる。
たまにあなたと目が合ってしまう。
どうしていいのかわからなくてつい目を逸らしてしまう。
恐いと思っていた結末が今現実になってしまった?
また・・・・
前みたいに話せる日はきますか?
坂本に言われて気づいた。
確かにあれから何度か蘭と目が合った。
その度に蘭の瞳は何か言いたそうで・・・
でもどうしても言えないもどかしそうな瞳だった。
目が合う度逸らされてしまうけど。
こんなに近くにいるのに。
話すことも。
触れることも。
笑い合うことも。
何もできやしない。
くっそ・・・・
もうもたねぇよ。
完全な蘭欠乏症だ。
:::
何もする気がしなくて。
無駄に過ごしている毎日。
「工藤・・・・ちょっといいか?」
怠い頭を起こして声の主に目を向ける。
「・・・・・!?」
新一の目の前にいたのは浅田隆司。
「話があるから屋上行こうぜ?」
「・・・・・・。」
新一は数秒間反応を見せずその後黙って立ち上がった。
無言のまま二人は教室を出ていった。
「・・・・・ごめん蘭。私もう耐えられないや。」
「え?」
移動教室を終えて教室に戻っている最中に園子が蘭に言った。
「蘭が言いたくなるまで何も聞かないつもりだったけど、最近のあんた見てるのもう辛いから。」
園子に言ったらどうなる?
私は親友まで失うのかな?
「ずっと・・・・ちゃんと笑えてないよ?」
「私にまで強がらなくていいんだよ?」
蘭は涙腺が緩んだ事に気づいた。
「で?俺に何話したいんだ?」
屋上に上がる階段を昇りきって屋上へのドアを開けようとしている浅田に新一は声を掛けた。
「・・・・・・。」
浅田は少しだけドアを開いて、でもまたそれを閉じなおした。
「・・・・・毛利と別れたって本当か?」
「・・・・・だったら何だよ。」
不機嫌そうに言い放つ。
「何で別れるんだ?毛利は悪くないだろ?」
ばっと振り向いて新一と目線を合わせて浅田が言う。
「悪いも何も・・・・・・っ俺だって何がなんだかわかんねーんだよ!!」
新一はいつのまにか怒鳴っていた。
「・・・・・工藤がわからないって・・・だってお前が毛利振ったんじゃねーの?」
「何で俺が蘭を振らなきゃいけねーんだよ!?」
「え・・・じゃぁ毛利からってことか?」
「私がいけないの。新一の心が自分から離れている気がしてしょうがなくて。」
「弱かったから・・・だから・・・こんな私は新一の隣にいちゃいけないの。」
「どうして信じれなかったのかな?」
「どうして逃げちゃったのかな?」
「私・・・・っ馬鹿だよね・・最低だよね?」
園子に向けて真実を打ち明けた。
きっと園子はこんな自分に呆れるんだろう。
「軽蔑する?」
苦笑いを浮かべてそう問いた。
「蘭・・・・前に言ったでしょう?」
園子の瞳は優しかった。
「人は皆弱いから・・・・
道に迷うこともある・・でもそれはただ迷ってるだけ・・・見失ってるだけ。
だから・・・・また見つける事が出来るのよって・・・・。」
「俺、毛利と誕生日の日会ってたんだ。」
どんどん嫌な方へと向かっているのに気づいている新一だがそこから行き先を変えようとは思わなかった。
今ここで全て聞かなければきっと自分達は本当に終わってしまう。
そんな気がしていた。
でも次の言葉に動揺を隠せなかったのも事実。
「俺・・・毛利とキスした。」
新一は愕然として視線を落として廊下を見つめた。
「工藤とギクシャクしてたのを狙って弱みにつけこんだんだ。
だから全部俺がいけない・・・・俺のせいだよ。」
新一は何より蘭が他の男とキスをしたという事が認められなかった。
何で自分じゃなくて他の男が蘭に触れるんだ?
「でも・・・毛利はちゃんと拒んだよ。」
目の前の男にどうしようもない憎悪が生まれるけれども・・・
よくよく考えればその原因を作ったのは自分な訳だ。
言い返す自信はなかった。
「工藤なんか止めて俺にしろって言ったよ・・・・でも、毛利はこう言ったんだよ。」
「例え新一が私のことなんてもうなんとも思ってないとしても・・・・
私はずっと新一を想っていたいの。
こんな私でも新一の事想う気持ちは確かなの。」
何でかな?
初めて園子に言われたときは意味が全然分からなかったのに。
今はすごく理解できる気がするよ。
「軽蔑なんてするわけないでしょう?・・・大丈夫、蘭ならすぐ見失ったもの見つけられるよ。」
園子に抱きしめられてすごくすごくほっとした。
私はあとどれくらい見失ったまま?
「ねぇ・・園子。私・・また新一と話せるかな・・・・笑えるのかな?」
そう言うと園子は微笑してこう言った。
「一つ忠告してあげるわ。」
「・・・・・・?」
「あんたたちがギクシャクしてたこの一ヶ月間、新一君の蘭を見る眼は何も変わってないわよ。」
「え・・・・・?」
「切ないくらい。」
「愛しそう。」
「俺が全部悪いんだ・・・だから・・・・頼むからお前等は離れるな。」
「毛利はお前を選んだんだよ。」
なんだろう。
俺の中はすごい絶望感と幸福感がぐるぐる回っている。
蘭の口から聞きたかった気もするけど、蘭の口からは聞きたくない気もする。
結局俺が変なプライド持ち出したせいじゃねーか。
目の前のコイツは何も悪くねぇ。
蘭にあんな想いをさせてしまったのも泣かせてしまったのも。
全部俺のせいだ。
おい、新一。
このまま離したままでいいのか?
:::
星はまだ輝きを失ったままだろうか?
ただ見失ってるだけ?
一人の女が夜を淋しく感じている。
一人の男が夜を淋しく感じている。
この二人はずっとそのまま?
何か変わる?
人は皆見れるのだろうか?
幸せの結末を。
朝-------
昇降口で。
バチっと二つの視線がぶつかった。
下駄箱に並んでお互いの動作を横目で伺う。
新一は上履きに履き替えてもそこを去ろうとしない。
蘭は息が詰まりそうになる。
でも・・・。
「・・おはよう。」
「!?」
驚いた蘭が顔を上げるとそこには優しい優しいあの笑顔。
「お・・・おはよう!」
挨拶を終えると新一はそのまま通りかかった友人のもとへと混ざって行った。
蘭は陰に駆け込む。
ガシャーン!!
壁に立てかかっていた箒につまづいてそれも蘭も崩れてそのまま倒れ込んでしまった。
口を抑えて必死に声を殺す。
嬉しくて嬉しくて。
思わず涙が溢れた。
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:::後書き
いやー読みづらい。
sideが変わりまくってすみません。
最後。
新一から挨拶してもらえて嬉しくてたまらない蘭ちゃんです。
随分と長くなりましたが後1話で完結予定です。
もう少しだけお付き合いくださいね。
しかし・・・この回は無理やりまとめようとしすぎて
見事に空回っている・・・
にも関わらず上手く修正できないkakoをお許し下さい。
2005.04.19 作品
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2010.05.22 kako