願いはない。
織姫と彦星が年にたった一度だけ会える運命の日。
たくさんの人々が天の川と笹の葉に願いを懸ける。
叶う叶わないの問題ではなくて。
ただ・・・
そうすることで七夕という日を送ろうとする。
願いを言えといえばキリがない。
それはキット当たり前。
でも本気で。
私は思ったの。
これ以上望む願いはないと・・・・・・・・・
:::
「あれ?・・・・蘭の願い事・・なくねー?」
新一の家のベランダに飾られた笹の葉に懸かった短冊を見ながら新一がそう言った。
「あーうん・・・・まだ書いてなくて。」
「折角だし書けば?」
「洗い物が済んだらね。」
今日は七夕。
さっきまで少年探偵団の皆を呼んで七夕パーティを開いてた。
笹の葉を阿笠博士が知り合いに貰った事をきっかけに。
新一に飾り付けを探偵団の皆と一緒にやってもらってる間に私が料理を作って。
最初はかったるそうにしてた新一もしだいに探偵団のノリに支配されたのか子供の様にじゃれあいながら飾りつけをしてた。
なんだかそれが微笑ましくて。
なんとなく新一がコナン君だった時を思い出して・・・。
皆一つずつ願い事を短冊に書いて。
「洗い物終わったよ、コーヒーでも飲む?」
洗い物を終えてエプロンをはずしながらベランダの柵に肘をついて空を眺めてる新一の元に歩み寄った。
「いいよ、蘭ずっと働きっぱなしだったろ?少し休めよ。」
「・・・・ありがとう。」
こういうほんのちょっとの気遣いが嬉しい。
「なんか、一気に静かになったな。」
しんとしたリビングを振り返る新一。
テーブルの上に飾りつけのあとの折り紙などが少し散らばっていて探偵団がもうここにはいない事を告げていた。
「そうだね、皆元気だからね。でも賑やかで楽しかった。」
「そうだな、たまにはこういうのも悪くない。」
そう言って空を見上げる新一。
あいにく今夜は雲が濃く天の川は拝めそうもない。
まぁ、こんな都会の住宅外ではなかなか見る事はできないだろうけど・・・。
“残念。”
先程まで探偵団が何度も何度も口にしていた言葉。
『織姫さまは彦星さまと会えたのかな?』
そう言いながら不安そうに夜空を眺めていた歩美ちゃんを思い出した。
『大丈夫、曇っててこっちからは全然見えないけど、きっと織姫と彦星は天の川を伝ってちゃんと再会を果たしてるよ。』
歩美ちゃんの身長に合わせて屈んでそう言ってみせた。
でも心からそう思ったのよ?
どんなに会えない二人でも今日という日は必ず会えるのよ。
星の川を通って。
うんと愛を伝えて。
抱きしめるの。
皆に見せられなくても二人はきっと。
「・・・・うな重1000杯食べれますよーに。元太。・・・アイツ進歩ねーなぁ。」
新一が短冊に手を伸ばして読み上げた。
クスクスと・・・笑いながら、でもとても愛おしそうに。
「世界で認められる人間になれますよーに。光彦。・・・光彦のやつ、歳の割に賢いからな・・・将来に期待だな。」
真剣に言ってみたり。
でも次の願い事で彼の動きは止まった。
「・・・・・・・・・。」
読む前に黙り込んでしまった、新一。
「?」
不審に思ってそっとその短冊を私が手に取って読み上げてみた。
「・・・・・コナン君と・・・・・また会えますよーに・・・歩美。」
一年前、新一は、新一であって新一でなかった。
でもそれは決して望んだものではなくて。
だから余計に誰にも新一を責める理由はないし困らせる理由もない。
けど、小さな心にはソレを理解する事は難しいから。
こうしてどこかできっとまた新一は後悔するんだ。
あの日、あんな取引現場を見なければっ・・・てね。
「ね、新一の願い事は何?」
少し曇った新一を見ていたくなくて、わざと声を明るくして聞いてみた。
すると少し苦笑してから、
「さぁな、探してみれば?」
ほんの一瞬見せた苦笑はきっと私なりの気遣いに気づいてくれた証拠だよね。
ふと笹の葉の上の方を見上げるとうっすらとひかれるものを感じて手を伸ばした。
そしてゆっくりと読み上げる。
「・・・・・・ずっと・・・ずっと・・・・・幸せにしてやれますよーに。」
私がそう言った後、そっと後ろから抱き締められた。
瞬間感じる、どうしようもない切なさ。
「今・・・幸せ・・か?」
少し掠れた声で問われた。
掠れた声に・・・首筋が触れて、微かに震えた。
「・・・・もちろん!これほどにないくらい・・・・幸せよ?」
抱きしめられたまま後ろを振り向いて。
新一と目があって。
瞼に軽くキスをくれた。
「蘭の願い事は?」
「私?私は・・・・・・・。」
さっき皆で短冊に願い事を書いてる時もずっと悩んでた。
だってね。
いくら考えても、考えても・・・・・。
「もう私に願い事はないの。」
「え?」
目を見開いて新一がキョトンとしてた。
「もうね・・・願いはないよ・・・だってね?」
「?」
「今これ以上望む願いなんてない位幸せだから。」
私がそう言うと、数秒後更に私を抱きしめる力が強くなった気がした。
「お前はもうちょっと欲を持てよ?」
「だって、本当に思い浮かばないんだもん。」
「それでも・・・今日は七夕だぜ?少し位欲張れよ。」
じゃぁ・・・・ひとつだけ。
今の幸せにオマケを頂戴。
「・・・・・・今日はもっと傍にいて?」
「・・・喜んで。」
重なる愛が夜に溶け込む中、
次第にはれていった夜空の雲。
愛しあう恋人が知らぬ間に夜空の星は顔を出し、
夜空の恋人の年に一度の記念すべき再会の日を今までにない程に輝き照らしていたのだった。
:::
「あっ!願い事あったーーー!!」
「何だよ、急に。」
蘭は突然声を出すと近くにあった短冊にさらさらと文字を並べていった。
次に笑顔で見せてきた短冊には・・・・
『お母さんが帰ってきてくれますよ-に。蘭。』
「・・・・・・結局ソレかよ。」
「何よー!私には大問題なんだからね!!」
こうして七夕の夜は騒々しく更けていったのであった。
Fin
:::あとがき
本当は今年の七夕まで更新止めておこうかと思っていたのですが・・・
過去の作品だし・・・いっか!と思って修正しちゃいました。
探偵団・・・ゲスト出演してもらいました。
歩美・・・・切ないなぁ。
でも原作でもきっと彼らに正体がバレることはないと思うんですよね。
けど、コナンとは知らなくても新一として関わりをもってくれることを大いに期待します。
なんか新ちゃんお願いごとがやけに乙女すぎた気がしましたが・・
ここはまぁしょうがないよね!!
蘭ちゃんの願いは・・・やっぱりここにいきつくようです。
でも、新ちゃんとの未来に関しては願いにしなくても彼がきっと叶えてくれるはずですからね。
小五郎さん、と英理さん・・・いつになったら戻るんだろう。
最近本誌と離れてるんですが・・・
二人の関係に新展のある話とかあったんですかね?
七夕かぁ。
今年はなんてお願いしよう・・・・・。
2005.07.06 作品
2010.05.11 kako
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