Catch up with
きっとお前が何処にいようと。
どんな格好をしていようと。
俺は必ずお前を見つけ出す。
ただソレだけだ。
どこからくる自信?
そんなものあるわけないだろう?
俺がお前を見つけ出せる・・・追いつく自信があるのは。
偶然なんかじゃない必然という真実があるからだ。
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何度携帯のダイヤルボタンを押そうとした事か。
でもそうする訳にはいかない。
俺は何に頼る事もせず。
必ず見つけ出す。
電話した所でソレが繋がる確かな証拠などありはしない。
それどころか確実にアイツは受けようとしないはずだ。
今のアイツが求めてるのは。
心配して電話をしてくれる俺なんかじゃない。
そうだろ?
蘭。
:::
数時間前。
俺と蘭は久しぶりのデートといって街に出ていた。
最近は事件続きでゆっくり蘭と一緒にいる時間がとれなかったから。
今日だけは絶対に一緒にいようと3週間前から約束していた。
ソレは俺達が付き合って一年の記念日。
だから俺だって今日という日を楽しみにしていたわけだし、蘭だってずっと待ち望んでいたはず。
だからそんな日に例えどんな事があろうと他の予定など入れてはいけなかったんだ。
それなのに・・・・・・・。
:::
「ねぇ、本当に今日はずっと一緒にいられるの?」
「だいじょーぶだって!!昨日やっと手掛けてた事件が一段落したし。」
「・・・・・・そうやって一体何回私は置いてけぼりにされたのかしら。」
蘭が前に立ってジト目で見上げてくる。
ハハと苦笑いして蘭の隣に一歩足を差し出す。
「そう言うなって!!ホラ、今日は何処にでも付き合うから・・な?」
蘭の手を取ってニっと笑って歩き出した。
「・・・・・・・・・・・かる?」
「ん?何?」
「何でもない。」
そう言って蘭はソッポを向いてしまった。
なんか今日はいつもと違うんだよな?
でも俺はそれ以上追求しようとは思わなかった。
今思えば俺は何一つ蘭の立ち位置というものを理解していなかった。
“置いてけぼりにされる方の気持ち・・・・わかる?”
いつだって追っているのは自分だと思っていた。
でも蘭にとっては違っていたんだ。
いつだって追っていたのは蘭の方。
「で?今日はまず何処に行くんだ?」
「・・・・・前に言ってたじゃない、今人気の映画の最終公開日だから観に行こうって。」
「あっそうだったな、わりぃわりぃ・・・・てかどんな映画なんだよ?」
「・・・・・新一なんかにはわからない純愛ストーリーよ!!!」
蘭は怒った口調でそう言い放って俺の手を離してきた。
やべぇ、怒ってる。
「おっ怒るなよ、蘭。後で蘭の欲しいもんなんでも買ってやるからさ!」
「あっそう。新一は私をモノでつれる女だと思ってるのね。」
「イヤ、そういうわけじゃ・・・ホラ、今日付き合って一年の記念日だろ?そのお祝いになんかプレゼント・・・なっ?」
「・・・なんでもいいの?」
「なっ・・・・なんでも!!」
「あっあの指輪可愛い!!」
蘭はそう言って近くのジュエリーショップのウインドウに飾られている指輪を指差した。
そっと上からその指輪の値札を見る。
げっ!!15万!?
隣で焦っている俺を見ていた蘭は数秒後クスクスと笑い出した。
「ばかね。いくらなんでもこんなもの強請らないわよ。」
あっ・・・今日初めて蘭が笑ったかもしれない。
「行こう・・・・?」
今度は蘭が手を差し伸べてきた。
そっと握って。
「でもちょっとは期待してるよ・・・平成のシャーロック・ホームズさん?」
「え・・・・・・・・・っ。」
驚いて横にいる蘭を見ると。
あまりにも綺麗に笑っていて。
思わず見惚れてしまった。
そのまま手を繋いで映画館まで着いた。
丁度上映間近だったようですぐに館内に入れた。
人気の映画だとは言っても最終上映のわけだからそれほど中は混んでいなく真中のシートに二人並んで座る事が出来た。
「混んでなくて良かったね。」
「だな・・・・・」
TRRRRR
TRRRRR
まだ上映されていない館内のざわつきの中に携帯の着信音が溶け込んだ。
蘭にとって一番聞きたくないその音は止む事を知らない。
「・・・・・出たら?」
隣から聞こえてきた声はとても冷たい。
申し訳ないと思いながら携帯をズボンのポケットから取り出し通話ボタンを押した。
「・・・はい、工藤です。」
あぁ、やってしまった。
「はいっ・・・はい・・・・分かりました。」
ピ。
電源ボタンを押し通話を終了させた。
隣の蘭があまりに静かで思わず音をたてて息を呑んだ。
「ら・・・蘭、あっあのさ。」
「事件?」
蘭は俯いていて、表情が伺えない。
「あぁ・・・・。」
「そう、仕方ないね。」
「・・・悪い、・・・・絶対すぐ解決させてくるから、だから待っててくれるか?」
「・・・わかった。ホラ、早く行かなきゃ、警部が待ってるよ?」
一瞬確認できたのは凛とした横顔。
「・・・・・ごめん。」
俺がそう行って立ち上がった瞬間。
ブーーーーーーーーー。
上映開始を知らせるブザーが鳴り響き館内はだんだんと暗くなった。
蘭を一人残して、俺は蘭に背を向けて映画館をでた。
どうして気付けなかったんだろう。
蘭はこの時、一人で・・・・ただ。
静かに頬を濡らしていたことに。
映画がクライマックスを迎える頃、蘭はすっと立ち上がって館内から姿を消した。
* * *
俺が映画館から出てきて5時間。
事件現場は思ったよりも近くすぐに捜査に入る事が出来た。
あと少しというところまで捜査は辿りついていて、すぐに犯人の目星がついた。
証拠探しに思いのほか時間が掛かり少々てこずったが、なんとか事件解決に持ち込んだ。
「ふー・・・・。」
一息ついて腕時計を見た。
4時か・・・・・・。
もう一日の3分の2の時間が過ぎてしまった。
あと8時間もすれば記念日も終わってしまう。
とりあえず今からでも蘭との約束を果たそうと携帯を取り出した。
ん?メール・・・・?
事件に集中していて、気づかなかった。
新着メールが一件、開いて見てみるとそれは蘭からだった。
一体なんだろうと本文に目をやる。
“見つけてよ”
ただ一言そうかかれたメール。
一体どうい意味なのか。
俺はすぐ蘭の携帯に電話をかけた。
が、繋がるはずがない。
とりあえず、事務所にかけてみるが誰も電話にではしなかった。
まだ家に帰ってきてないって事は・・・。
次は園子に掛けてみようとしたが今日は園子は家族でなんとかっていう式典パーティーで海外に行ってるって言ってたよな?
じゃぁ、一体どこにいるんだ?
“見つけてよ”
その時、なんとなく蘭からのメールの意図が解った気がした。
いつもとは少し違っていた彼女。
何か言いかけていた彼女。
中々表情を見せずに俯いていた彼女。
凛とした横顔で俺を送り出した彼女。
なんでこんなに見落としていたんだ。
もっと深く追求しようとしなかった??
いや、今更後悔して焦っても何も解決はしない。
落ち着け。
まず、考えるんだ。
今自分が何をするべきなのか。
見つけてやる。
それから俺は走って走って。
蘭を探し続けた。
携帯も車も何も使わずに。
自分の足で。
蘭を探し続けたんだ。
蘭、お前知らないだろう?
俺どんな人ごみの中でも。
お前の事一番に見つけれるんだぜ?
* * *
一体どれくらい時間がたったんだろう。
俺たちに関係のある場所とか思い出の場所とか思いつく限り走り回ったかれど。
どこにもいなかった。
あてもない場所で彼女は今も俺を待っているのだろうか。
それは何を意味して、何を思っているんだろう。
一つ願うことといえば・・・
どうか涙は流さずにいて。
一人で君を泣かせるのはもう・・・辛すぎるから。
まだ見つけられていないけど。
必ず見つけてやるんだ。
サッカーの試合中のような疲労と汗。
でもゴールを決めた時のあの快感を味わいたいから。
蘭。
もし見つけた時。
お前は、俺になんて言うんだろうな。
まぁ、そんなのその時にならなきゃわかんねーけど。
これってさ、珍しく蘭の我侭だよな?
つまりさ、俺に甘えたいって事だよな?
こんな時に思う事じゃないかもしれないけど。
俺、今なんか嬉しいんだ。
付き合ってから初めてだろう?
お前がこんな風に俺に頼むの。
時計をふと見るといつのまにか9時を回っていた。
あと3時間しか今日という日を祝う事が出来ない。
「くっそっ!!!」
歩道橋に上がって道路を見下ろした。
暗闇に車のライトが映える。
「!?」
ホラ、やっぱり。
時間はかかったけれど。
必ずソコに君がいるのなら俺の目に一番に映るのは君って決まってる。
「蘭!!」
歩道で見つけた後姿に思いっきり怒鳴って名前を呼んだ。
ゆっくり振り向いた彼女は。
こちらを見て微笑んだ。
「いっ今ソコ行くからな!動くなよっ!!」
急いで歩道橋の階段を降りて蘭のもとに走りよった。
ハァハァと息が上がる。
「間に合ったね・・・・。」
「蘭・・・。」
そう言って蘭は柔らかく笑った。
でもそれは偽りだらけで。
自分がそうさせているのかと悔しくなった。
「鬼の気持ち解った?」
「おっ鬼?」
「そう、今日は新一が鬼。」
蘭は軽やかな動きで歩道の横にある標識に背を置いた。
「いつも私が鬼じゃ、つまらないじゃない?」
「何で・・・鬼なんだよ。」
「本当は仲良くしたいだけのに、邪魔者のせいで怖がられて逃げられて鬼はいつもいつも追うだけ。」
隣でスムーズに走っている車達を蘭は目を細めて見つめていた。
「蘭・・・・?」
「追ってるだけは・・っ辛いよ。」
蘭の声が急に掠れた。
「新一が帰ってきても・・・ずっと・・ずっと私は鬼のまま・・・・。」
また蘭は俯いて表情を見せてくれない。
「私は追い続けて追い続けて・・・その度にまた逃げられる。」
「らっ・・・・。」
「我侭言ってごめんなさい・・・でも、私ばっかり探してて、もうヤだよ・・・辛いよ。
私を置いて逃げていかないでよ・・・・・一緒にいさせてよ。」
そっと見せてくれた彼女の表情は悲しみと淋しさに濡れていた。
「知ってるか?」
「え?」
「俺、昔から人ごみの中から一番最初に見つける奴がいつも決まってたんだ。」
ちゃんとお前にも教えてやるよ。
「何処にいようが、どんな格好していようが、絶対に一番に俺の目に入るのはさ。」
得意気に笑って言ってやった。
「いつだって、蘭なんだよ。」
俺の科白を聞いたとたん蘭はそっと俺の胸元に顔を押し付けた。
そして俺のそっと蘭の背に腕を回す。
「見つけてくれて・・・・・ありがとう。」
「ん。」
今思えば初めてかもしれない、蘭のこんな本音を聞いたのは。
一年の年月がこの変化をもたらせたんだろうか。
「・・・・記念日もう終わっちゃうね。」
「だなぁ。」
「なんでも買ってくれるって言ったのにもうお店閉まってる時間じゃない。」
「まぁまぁ、別に今日じゃなくたって蘭が欲しいもんならいつでも買ってやるよ。」
「15万円の指輪でも?」
「・・・・・・・・・。」
これでやっとお互い追いついたんだろうか。
今度こそ横に並んで。
「あっ!蘭、俺今あげれられるもんあるぜ?」
「何ーーーーっ?」
蘭の顎を指で上げて柔らかいその唇にそっと触れた。
いつもよりもっともっと蘭を感じて。
この一年何度触れたかわからないその感触。
それはいつにもまして優しくて甘くて魅力的だった。
「なっ何いきなり・・・・。」
「俺の愛の篭もったキスのプレゼント。」
「ーーーーばっばか!」
きっと蘭が何処にいようと。
どんな格好をしていようと。
俺は必ず蘭を一番に見つけ出す。
ただソレだけだ。
Fin---
後書き:::
某サイトマスターさまのサイト一周年記念に贈らせていただいた小説です。
テーマは鬼ごっこ。
好きな人の姿って・・・どんなに人がたくさんいる中でも
光ってみえるものじゃありませんか?
2005.07.25作品
2010.05.08 修正 kako
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