今にも倒れてしまいそうな程暑い暑い夏。
けれどそれは本当に暑いせい??
アナタの仕草、笑顔、香り。
今にも倒れてしまいそう。
ねぇ、暑い暑い夏の空の下。
ちょっとだけ私にチャンスをくれない?
少年が夢を見た
ジリジリとなんともいえない熱が肌を焦がしていく。
自然と汗が浮かんできて、誰もがぐったりとする。
どこからか聞こえてくる蝉の合唱に誰もが夏を感じ苛立ちを露わにする。
今日は帝丹高校の夏期講習。
夏休みだというのに制服を身に纏い、36度という真夏日の中、将来本当に役に立つのかどうかわからない複雑な公式の説明を聞いている。
もちろんエアコンなんてものは存在しない。
半分の生徒は顔を机に突っ伏し現実から逃げようと夢の世界へ。
もう半分は持参した団扇や下敷きを片手に必死に涼を求める。
そしてごく稀に目に付くのはこの暑い中でもきちんと制服を着こなし、ノートを広げシャーペンを動かす優等生。
その貴重な優等生の中の一人である毛利蘭は先刻からある男子生徒を気にしているようだ。
黒板と教師の言葉に集中しながらもチロチロと・・・・
蘭が気にしている男子生徒。
それは、窓際で机に顔を突っ伏すまではなくとも肘をついた手に顔の体重をあずけ静かに睡眠をとっている工藤新一少年だ。
何やら顔色があまりよくないようだ。
実は今朝顔を合わせた時からどこかおかしいと気付いていた蘭。
具合が悪いのかと問いただしても「ただの寝不足」と言ってはぐらかされてしまった。
何年一緒にいたと思っているのだと、蘭は不服に思いながらとりあえず見守ってみることにした。
一人暮らしを始めた彼を思えば、体調の悪そうな理由などそこらじゅうに転がっている。
出来れば彼の全てのことを管理してあげたい位なのだがそこまでする理由がない。
というか、彼に迷惑がられたらもともこもない。
それなりの距離をおいて。
彼の癇に障らない程度にフォローするしかない。
そして今もこうして教師の目を盗んでは密かに彼の様子を見守るしかないのだ。
「お前らなぁ、俺だって暑いの堪えて説明してやってんだから少しは気合入れて聞けよ。」
だらけきった生徒達を見て呆れたように額の汗をタオルで拭いながら話す教師の一言が教室に溶け込み、更に暑さを増した。
* * *
「終わったーーーー!!!!」
講習が終わったと同時に響いた叫び声は鈴木財閥のご令嬢のものだった。
「らーーん、今すぐ冷たいモノ食べに行こう!!」
突然の誘いに思わず「うん。」と言ってしまいそうだったが、蘭は頭を横に振った。
「ごめん園子。今日はちょっと無理かも・・・・・・。」
「何?用事でもあるの?」
「用事っていうか・・・・」
蘭は園子と話ながら目線を彼へと移す。
その目線を辿る園子は数秒たって一言。
「何よーーーアンタらこのクソ暑い中にデートでもする気??いいわねーー!!さぁさ!勝手にプールでも海でもどこへでも行ってきなさいよ!!!」
「なっ!!?なんでデートなんかになるのよ、別に新一と約束なんてしてなー・・・・。」
「・・・・・お前ら、どっか行くのか?」
「新一?」
ふと気付くとだるそうに佇む新一の姿が近くにあった。
「そーよー!!冷たーーい、美味しい物食べにいくのよ!」
園子は面白くないようで新一に向かってそういいのけた。
蘭は悩む。
別にこの後、新一と約束をしているわけでもないのに体調が悪そうだから一緒に帰るなんてお節介な話かもしれない。
このままほっておいた方がいいのだろうか。
けれど。
「・・・・・悪ぃ、園子。今日は蘭貸してくれ。」
「は?」
新一はそう一言園子に言い伝えると蘭の腕をとって教室を出た。
園子はもちろん、蘭だって状況が飲み込めない。
ただ、掴まれた腕から彼のいつもとは違う熱を感じて、やはり自分の読みは正しかったのだと実感した。
「新一?・・・・手熱い。」
「!っ・・・わりっ・・・・・。」
咄嗟に新一が手を放す。
手が放れた腕の部分に少しだけ涼しさを感じた。
けれど同時に物足りなさも感じる。
「・・・違うよ。熱いのが嫌なんじゃなくて・・・・・やっぱり体調悪いんでしょ?」
「・・・・・・・。」
昇降口で立ち止まる二人。
新一は大胆な行動に出ながらもどこか後悔したような顔つきだ。
今朝、寝不足などと言って意地を張った手前、「体調が悪い」と言うのはなんとなくかっこ悪いと思っているのだろうか。
そっと蘭が新一の額に触れる。
「馬鹿!すごい熱じゃない。なんでこんなになるまで我慢してたの?」
予想以上のその体温に蘭は不安を隠せない。
「別に倒れたわけじゃねーし・・・・。」
「このままだったらいつか倒れるわよ!こんな炎天下じゃ歩いて帰れない。博士呼んであげるから保健室で待ってて。」
蘭は新一を無理矢理保健室まで送り込み公衆電話まで走った。
* * *
「ホラ、パジャマに着替えて横になって!!!」
阿笠博士の車に乗り込み工藤邸に辿り着くなり蘭は新一に言いつける。
熱気の溢れたその中は今にも倒れそうだ。
蘭はとりあえず部屋の窓を全て開き、少しでも外の空気と風を入れるようにした。
どうせ新一のことだ。
エアコンをつけたまま寝ていたんだろう。
そんな彼には自然の風の涼しさが必要だ。
部屋のベッドに寝かせ、エアコンではなく扇風機を探してきて少し離れた場所から風をおくる。
氷まくらも用意して濡れたタオルを額に当ててやる。
よっぽど重症だったのか少し落ち着くと新一はすぐさま眠りについてしまった。
ほっと一息つく蘭。
どれだけ無理をしていたのだろうか。
この少年は昔から何故か無理をする癖がある。
その度に心配をする自分。
けれど、一番そばで心配できる自分にちょっとだけ満足していたりもする。
起きた時に何か食べさせるものをと思い蘭は下へ降りる。
ふと家の中に目をやると脱ぎっぱなしの服や事件の捜査で使うのか書類が散らばっていた。
しかし不思議なことにキッチンは綺麗なままだ。
蘭はもしやと思ってゴミ箱のふたを開ける。
そこにはインスタント食品のゴミが大量に入っていた。
「・・・・何よコレ。」
蘭は今にも泣き出しそうな声で呟いた。
* * *
どれくらいの時が経ったのだろうか。
蘭は新一が起きた時食べれそうなものを作り冷蔵庫に入れ新一の部屋に戻った。
寝不足だったのも大きかったのか大分落ち着いたように見える。
そっとベッドに近づきその場に腰を下ろす。
扇風機の回転音が静かに響く。
本当に静かで、ゆっくりで。
やはり少しムッとした気温は辛いものだが窓から入ってくる自然の風は優しかった。
額のタオルをとり額に自分の額を当てる。
「・・・・下がってる。」
ほっと胸を撫で下ろす蘭。
そしてその後すぐに複雑な顔をする。
「・・・・ん。」
新一が微かに声を出した。
思わずはっとする。
「・・・・・らん。」
急に自分の名前を呼ばれて驚く。
新一の表情は優しい。
「私の夢・・・・見てくれてるの?」
囁かれるその名に胸は一気に跳ね上がる。
どうしてたった一人の少年にこうも自分は操られているのか。
けれど、自分の名を呼ぶその声も、寝返りをうったり、微かに見せるちょっとした仕草も、ふと見せる笑顔も、勝ち誇った凛とした顔も、どこか落ち着いてふと香る優しい清潔な香りも全てに。
“愛しさ”を知ってしまったから。
ほんの些細なことでも心から喜び、心から悲しむことが出来ると・・・・蘭は思う。
今日だって。
自分を必要としてくれたのかと本当に嬉しかったのだ。
こんなことを自分が思っているなど、当の本人は全くもって気付いていないのだろうと蘭は溜め息をつく。
気付かれてしまったら・・・・・
一体何が待ってるのだろう。
* * *
「・・・・・・・?」
目を覚ました新一がフラフラと起き上がる。
「・・・・・・蘭?」
名前を呼んでも反応のない蘭の顔を見て新一は不振に思ったのか首を傾げる。
どこか少し怒ったその表情に新一は気まずくなる。
きっと彼女は自分のために怒っていると分かるから。
「・・・・・・か。」
「え?」
「新一のばか。」
「蘭?」
「・・・なんでもっと自分の体大切にしないのよ。
一人じゃ無理なこととか、辛いことがあるなら言ってよ。
高校生だってまだ子どもなんだよ?無茶したら・・・・だめだよ・・・・。」
次第に弱くなる蘭の声。
蘭は泣きそうな自分に気付き顔を隠す。
「蘭・・・ゴメン。」
まるで母親に叱られた子供のように謝る新一。
「・・・・・・新一何か食べれそう?軽い食事作ってあるんだ。」
新一の謝罪をきくなり蘭は笑顔を浮かべる。
その豹変に少し戸惑うがほっと胸を撫で下ろす新一。
「あ・・食う・・・サンキュ。」
「じゃぁ取ってくるね。」
蘭は立ち上がり部屋を出ようとしたが熱い中動き回って、しかも急に立ち上がったせいか立ちくらみを感じたようで体勢を崩し倒れそうになった。
そんな蘭を心配して新一はベッドから出て蘭に近づこうとしたその時、同じくまだ完全復活ではない新一もぐらつき蘭の上から倒れ込んでしまった。
小さな悲鳴が2つ。
扇風機の風の音が二人の沈黙を邪魔する。
「っ・・・・わり、大丈夫か?」
「うっうん、平気。」
二人が起き上がろうと目を開くと、
蘭を新一が組み敷く体勢になっていた。
目が合う。
「あ・・・新一、ど・・・どいて?」
蘭は視線をはずしながら軽く頬を染め願う。
しかし。
「・・・・・・やだ。」
「え?」
まさかの否定に蘭は驚きを隠せない。
心臓が今までにないくらい早く脈をうつ。
「新一・・・しん・・・!!」
新一の顔が近づいてくる。
!!!
スース-
「・・・・・へ?」
新一はまた眠気に襲われたのか蘭に乗りかかりまた眠ってしまったようだ。
蘭の胸はまだドキドキ鳴り止まない。
布ごしに感じる体温。
耳元に届く静かな寝息。
少しあせばんだ体。
微かに鼻腔を擽るあの清潔で優しい香り。
もう倒れてるけど。
今にも倒れてしまいそう。
それは暑い暑い夏のせい?
それともー・・・・・
蘭は夏の暑さとは違う熱を持ち、
「少しだけ。」
と呟き、彼に背に手を伸ばし触れてみることにした。
横目に見えるその顔はどこか嬉しそうで、幸せそうで。
素敵な夢を見てるに違いない。
「ねぇ・・・また、私も夢の中にいる?」
暑い暑い夏。
これは夏の神様のくれたチャンスなのかもしれない。
FIN
後書き:::
2007年8月17日に更新した作品です。
暑さにやられてつい出来てしまった作品のようです。
一応二人高校一年生設定です。
うふふ。
題名から作り始めたもので・・・・kako自身も
さりげなく気に入ってます。
お話はあいかわらずまとまりないけどね。
2010.05.05 kako
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