昨日のワインの話と一昨日の苦情の話をかけて今日はワインの苦情の話を少々しましょう。ワインの苦情っていくつかあります。正当なものから不当なものまでありますが、一番ひどいのが「想像した味と違うから違うのにしてくれ」って・・・ワインにお詳しくない方もおられると思いますから解説しますと、ワインリストなるものには生産地、生産者の名前、ブドウの品種名(もしくは地域、村、畑の名前。それによって品種が特定できる)、高価なものになれば生産年これらが表記されています。同じワインでも生産年ごとに味は違うので年が書いていないワインはサービスに確認すれば何年のものか教えてくれます。ブレンドするシャンパンなんかは例外ですね(生産年を持つビンテージシャンパンというのもあります)。つまりワインリストにある情報である程度の味は想像できるという前提に立っています。もちろんそこでわからなければサービスの人や高級店においてはソムリエに聞けばだいたいの印象は教えてくれるでしょう。


したがって、その前提において注文したワインが想像と違う理由で取り替えることはできません。一度開けたワインはほかのお客様には提供できないからですね。もちろんそのワインの代金を払った上で違うワインを飲むというのは全く問題がありません。大事なのはお店側が損をしないこと。ワイン後進国の日本ならまだしも今いる国はワイン先進国と言っても過言じゃない。でもいるんですよ! びっくりですね。だいたいそういうことを言う人はそういう暗黙のルールを知った上でわがままを言うリッチでわがままなお客様です。本当に金持ちの思考は理解できません・・・無理を通そうとする自分に酔っているんでしょうか? 「わがままな俺ってかっこいい!」って? 子供みたいですね。別に評価されたくもありませんが、そういう人たちはワガママが通じるレストランほど良いレストランと評価します。心の底から評価されたくありません(苦笑)。私がこう書くと世の中の金持ちはみんなそんな思考なのかと勘違いされるかもしれまえんが、そんなのは極一部です。ですが、そういうルール破りをする人は100%と言っていいほど金持ちですね。


うちのサービスも毅然とダメだと言えばいいのに金持ちに対してビビっているのか、以前はその要求を受け入れるかオーナーに確認していました。その場でダメというなら相手はどうしようもないですが、オーナーに確認するという行為自体がその実現可能性を示しているようなものです。つまり相手(お客様)によって時には○でときには×と判断が異なると誤解されるおそれがあるので、そういう基本的なことは”原則ダメ”どころか”絶対ダメ”にしないとまずいです。そうじゃないとお客様が「ああ、この店は私にはダメと言うのか」と思います。最近はそれが徹底されているのでそういう話がキッチンの中まで入ってこなくなりましたが、今でもちらほらいるようです。


似たようなケースで「このワインは美味しくないね」とか「この年はイマイチだね」なんてのもありますね。ま、これは苦情というよりは世間話の一部なわけでまさかお客様も返金してくれということではないと思います(そう信じたい)。ただ、まれに「(味がイマイチで)半分しか飲めなかったから払うのは半分でいいか?」と聞いてくる人がいるんですね。お前はボトル半分でそんなくだらない冗談を飛ばすほど酔っぱらったのか?と聞いてみたいですね(笑)。まあ実際、酔っぱらいの戯れ言なんですけど、冗談半分でも金返せなんて言うのは個人的にはいかがなものかと思います。どんなに親しくて常連であっても客と店という関係上、そういう言葉にはこちらも敏感に反応せざるを得ないんですよ。まあケースバイケースなんですが、うちらも「ボトルとコルクはサービスしますのでお持ち帰りください」とあしらっています(笑)。もちろん返金なんてしませんよ。


ただし、開けたワインの代金を請求をしない例外が1つだけあります。ワインにコルク臭がうつってしまっている。専門用語で言うと「ブショネ」ってやつです。実は私はソムリエですがその前に”なんちゃって”がつくだけあって(笑)ブショネがよくわかってません。なのでネットで見つけた表現を借りますと「新建材に近い香り」「濡れた新聞紙が蒸れた臭い」「コクゾウムシに侵されたコルクの臭い」「腐葉土がうまく発酵できなかった臭い」「痛みかけの野菜の臭い」「濡れたブロック塀の臭い」という臭いのするワインのことらしいです(笑)。こんなワイン飲みたくないですね。だけど私が言いたいのは実はそれじゃなくて違うところにある。今書いた表現というのはブショネ、いわゆる不良品のワインの表現なんです。では次に通常品質のワインの香り表現を書きだしてみると、「なめし皮」「腐葉土」「ねこのおしっこ」「たばこ」「灯油」「濡れた犬」「馬の汗」とこれら全ては良い(状況によっては悪いこともある)ワインの表現に使われます。濡れた犬の臭いってどんなのでしょうか?(笑) うまく発酵できた腐葉土は良い香りで、うまく発酵できなかった腐葉土は悪い臭いなんですね。


話はそれますがこれらは英語、日本語と同様にソムリエ語というやつですね。IT用語とかオタク用語とも同じようなもんです。つまり特定の香りに対してそれぞれ名前をつけて共有しようという目的を持って作ったものです。事例で説明すると、夜になると空に浮かぶ明るい物体をAさんは「月」と呼び、Bさんは「太陽」と呼んでしまったら「月がきれいだね」と言ったAさんの言葉をBさんは理解できないことになる。だからあれを「月」と呼ぶことにしようと決めたのが日本語です。同じようにとある香りの表現をAさんが「おばあちゃんの部屋の臭い」と言い、Bさんは「奥さんの風呂上りの香り」と言ってしまうと同じ香りなのに意思の疎通ができないわけです。しかも両者とも家族しか知り得ない臭いなわけですから共有は不可能(笑)。そこでこの香りを「腐葉土」の臭いとしようと決めたのがソムリエ用語です。別に私のおばあちゃんの部屋は腐葉土臭くはないですよ(笑)。


だから一般の方は知る必要はないですね。どんなに素晴らしい香りであっても「こちらはねこのおしっこのような香りのするとても良いワインです」なんて言われたら注文する気になりませんよね(笑)。それにしても日本のソムリエは犬が濡れた臭いはともかくとして馬の汗の香りなんてどこで知ることができるんでしょうか? 競馬場に行ってもまわりのおっさんどもの方がよっぽど臭いですよね(笑)。たばこの臭いだっていろいろあるからあんなに山ほど種類があるわけでどのタバコの臭いをソムリエ用語の「タバコの香り」とするんでしょうか? 私は”なんちゃって”なのでよく知りません。そんな”なんちゃって”ソムリエを生み出さないためにもソムリエ試験というものはブショネを見分ける能力をもって合格とすべきです。まあソムリエ協会も今や立派な利益団体となったので会費収入や試験料収入が美味しいのか私のような”なんちゃって”ソムリエを量産していますね。どうでも良い話ですが。


というわけでブショネというのはコルクを理由とする品質不良ワインのことです。ワインショップや百貨店のような小売店においては原則としてブショネは客の損害(泣き寝入り)になります。いくらレシートを持っていてもその店で買ったワインがブショネであったという証拠はありません。同じラベルのものを別の店でも見つけることができる以上はブショネを見つけたあとに新たに同じワインを買って返金を試みることもできるからです。一方、レストランにおいてはブショネは店側の損害です。したがってブショネのワインをお客様は拒否できるというのがルールであり、だからこそ提供する前にホストの人にティスティング(品質の確認)をしてもらうわけです。したがって人口コルクやスクリューキャップのワインの場合にはティスティングを省略するのが基本です。お店によってはかっこつけるためにやっているところもありますけどね。もちろん店側と客側の両方の見栄のためですよ(笑)。


ブショネは品質不良なんですが、これは避けようがないのが実情です。避けるとしたら前述したように人口コルク(ゴム栓のようなもの)やスクリューキャップにするしかない。長期保存をする必要のないワインやエコに関心の高いワイナリーでは人口コルクは使っています。でも5年以上長期熟成をするにはコルクの方が良いというのがワイン界での基本認識のようです。で、実際にうちの店でも週に何本か出ます。ネットによると5%とか2%とかいろいろ数字があります。でもお店で5%も出てないな。取引のあるワイナリーのオーナーいわく2%をひとつの基準としているとか。ブショネは避けられれないのですが、責任は生産者(本当はコルクの製造者なんだけど)にあるわけで生産者が特定できる(返金請求できる)場合はレストランはワイナリーに返品とともに返金を申し出ることができます。少なくともこの国ではそうなっています。で、1つのレストランから2%を超えるブショネが出ている状況だとワイナリーは何かあるのでは?と注意を払うということです。


例えば実際にブショネじゃないのにレストランがお客の言い分を聞いてしまうとか、まさかないと思いますが、余ったワインを集めて返品するとか? 実際にコルクを使っている以上はブショネを避けることは不可能であるということを逆手に取って、想像と違っていたワインを「ブショネであるので違うワインを注文させろ」というお客様もいないことはない。いや実際にいるんですね。


ブショネの確立が5%だとしてもうちの店で発見される割合はそこまで行かないということは何を意味するのか? ブショネと気づかずに消費されているということです。それほどまでにブショネを判別するのは難しい。明らかにブショネというケースもあるようですが、私はそういうワインに出会ったことがありません。そりゃ発酵をきちんとした腐葉土がOKで発酵が不完全だとブショネって言うんだから本当に微妙ですよね(笑)。さらにもう1つあって、原則としては流通過程において劣化したワインをブショネとは言わないんです。だから問屋の中庭で炎天下で放置されたワインは例え品質が悪くてもブショネとして処理できません。ですがそういう品質劣化とブショネを判別するのも難しいのです。で、実際の現場では品質劣化についてもひどいものは引き受けざるを得ませんね。


レストランのワインが高いとおっしゃる方はレストランはそういう2%だか5%にもなる不良品のリスクを抱えているということをご理解ください。うちの店の場合はワイナリーに「これブショネだったよ」って直接持って行ける立地にありますけど、ワイン生産地と遠く離れた場所のレストランにとってはブショネはお店の損失以外なにものでもありません。直接取引ならともかく途中で問屋が入れば返品処理は困難ですからね。ましてや日本のレストランでフランスやカリフォルニアのワイナリーに「ブショネだから金返せ」ってやるとそっちの方がお金がかかりそうですよね。日本のワイン業者に言ってもワイン業者もどうしようもない。ま、でもレストランは大口顧客なのである程度の取り決めはあるのかもしれません。うちの店でも遠く離れた地で生産された(返品不可能な)仕入れ値3万円のワインがブショネっていて泣いたことがあります。3万稼ぐのにどれだけ料理を作らないといけないのか・・・


私はサービスの人間ではないのでわかりませんが、お客様に「これブショネじゃないの?」って言われる瞬間は最も緊張する瞬間のひとつだと思います。その時に風邪をひいていないことを願うだけですね(笑)。それだけ微妙なブショネをサービス側が完全に見抜けるわけがありません。実際のところ線引きというのは厳しいということです。生産者側でも「言われればそうだけど言われなければそうじゃない」と言える微妙なケースはあるそうです。いずれそういう指摘を受けたらサービスの人間としては試飲して確認しなくてはいけません。それでブショネなのか?ブショネじゃないのか? 仮にブショネではなくてもお客様がそう感じているものを否定するのはなかなか難しいものです。その一方で連れにかっこつけるために「これブショネでしょ」ってふっかけるお客様もまたいるんです。客商売の醍醐味ですね(苦笑)。


で、内情をさらすとうちの店では1回目のブショネについては真偽にかかわらずブショネで処理します。これはワイン1本分の損失よりもお客様の満足度を高めようという考え方をしているからです。2本続くと明らかにブショネでない限りは2本目の代金をいただいて3本目を開けるかどうかお客様にうかがいます。というとだいたい3本目は開けませんね。お客様もブショネかどうか微妙だと思っているんでしょうね。もちろん2本続けてブショネが続く可能性はゼロではありませんけど、明らかに判別可能なもの以外は代金をいただくことにしています。そういう風に一律のルールにしておいた方がサービスも楽ですからね。


ただ、例外はあります。それはさっき出た仕入れ値が1本3万円のワインを含む高額ワイン。世の中には想像もつかないほどの金持ちというものはいるもので毎晩その3万円のワインを飲んでいる人がいるんですよ。そんな人にかかればいつもと状態が違うというのは一目瞭然です。キッチンもそうですがサービスのスタッフも給料は高くありませんから3万円のワインなんて一生で数えるほどしか飲まないでしょう。だから毎日飲んでいるお客様に指摘されたら返す言葉はありません。それを飲むお客様の金払いの良さも勘案して無制限でブショネとして処理せざるを得ませんね。


つまりブショネというのは程度が低いものは極めて判別が難しい。特に初めて味わうワインがブショネかどうかと見分けるのは相当明確でない限りわかりません。もしかしたらワイン固有の香りかもしれないわけです。そういうこちら側の不安というか自信のなさを悪用してワインを取り替えようとする客が少なからずいる・・・だいたい頼んだワインがブショネだからといってなぜ違う種類のワインをオーダーするの? それってまさに想像と違っていて取り替えたいからブショネにしちゃえってやつですよ。本当にサービスの人はよくやってるなと思います。私だったらぶち切れますよ(笑)。