時々好きなミュージシャンの中で「この人、音楽をやっていなかったらどうなっているんだろう?」と思う人がいる。でも、どんな職についてどんな人生を送っているかということに興味があるわけでなく、ただただ「音楽やってなかったら生きてることすら想像できないな」って思うだけだ。
で、ふとそんな人をリストアップするとすぐに数人浮かんでしまうけれど、必ず入るであろうジェイソン・ピアーズ。音楽があるからかろうじて生きているような雰囲気がある。もしくは、音楽の神様が簡単に死なせてはくれない。
スピリチュアライズド4年ぶりのニューアルバム。これがまた凄まじい。簡単に言うとゴスペルあり、サイケあり、ガレージありと、彼のキャリアを総括したような作品。幾分メロディー寄りな作りにはなっているが、「Lazer Guided Melodies」、「宇宙遊泳」、「Let It Come Down」など、色の強いアルバムに引けをとらないくらいの充実感が漲っている。
流麗で壮大なストリングス、Huh?からHey Janeへとなだれ込み、アルバムはスタート。挨拶代わりのガレージ・ゴスペルだが、まさにアルバムの世界に突入していくぞという誘引力をもったナンバーだ。ひたすらメロディーをリフレインし、8分を超えるが、不思議と重々しさがない。
キャッチーなメロディーと、壮大なアレンジ。その基本線は以前から根底にあったものだが、今作ではその側面を巧妙な仕掛け無しに、素直に前面に出しているような印象を受ける。某メディアのインタビューで、ジェイソンはポップなものを避けようとしないで素直に音楽を作ったと語っていた。「規格外」のものを求めてしまう自分には、少し物足りなく思えてしまうところもあるのだけど、何度も聴くうちに「シンプルさ」ゆえの凄みのようなものが感じられるようになった。実際は練りに練り上げて作られたサウンドのレイヤーも、アシッド的作用をもたらす感じがなく、メロディーをより美しく伝えるための手法として作用している。そういう意味では彼はまた新しい扉を開けたと思う。
ただ、歌の世界観は全く持って不変だ。どうしてこうも不器用で、届かないような愛ばかりを追い求めるのだろう。ただそこには幾分かの共感を持つことができるし、だからこそ、彼は音楽と向き合い続けているんだろうと思う。痛々しく思われるかもしれないが、そうやって彼は生きてきたんだと思う。
僕の母が、ひどく心配してこう言った
「火遊びをしなければ、火傷しないで済むわ
炎に触れなければ、気づかないで済むわ」
僕の母がこう言った
「愛とはそういうものなのよ」
だけどもう手遅れだよ、僕は心を決めたんだ
愛がいつも示してくれる
目があれば盲目になり得るものだと
もう手遅れだよ、それが僕の学んだこと
愛が炎に火をつける
心があれば燃え上がり得るものだと
~Too Late~
★★★★☆(03/08/12)