Bon Iver/Bon Iver | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

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 米ウィスコンシン出身のシンガーソングライター、ジャスティン・ヴァーノンのソロ・プロジェクト、ボン・イヴェール。本作はセカンドに当たるが、日本盤のリリースは本作が初となる。08年にリリースされたファーストが雑誌やメディアで高評価を得、その存在が注目されるようになるが、日本での認知度はほとんどないだろう。

 まず、1曲目のPerthからして独特の世界観が広がるメランコリックなギター、はかなげなコーラス、そしてマーチングのようなドラミングに乗って、壮大かつ幽玄的な歌が展開する。荒々しさの中で、こともなげに美しいメロディーを紡いでいる姿は、まるで大海を涼しげに小舟で航海するような不思議なバランスを保っている。続くMinnesota, WIでは、ねっとりとしたシンセやホーンの中で、マンドリンをつま弾きながら歌っているのだが、これまた例えようのない味わいがあるのだ。


 途方もない美しさがあるかと思えば、その一方で説明の付かない不気味さがあったりと、曲の中で世界観が単一化されることがない。シンガーソングライターでありながら、圧倒的なサウンドスケープを描けるという点ではSufjan Stevensに近いものを感じる。スフィアンの場合は、どこまでも壊れていくアメリカを描くためにはどうしても混沌なるものを表現しなければならなかったわけだが、ジャスティンの場合は何がそうさせるのだろう?


 先ほど挙げたサウンドスケープであるが、過剰なドラムパターンやノイズがあるわけではないのに、曲によっては感情をたたきつけるような激しさが表現されている。これもまた見事だ。怒りや哀しみは人によって表現の仕方が違うことは重々承知であるが、静的なサウンドプロダクションで、ここまで激しい感情を表現している作品はなかなか無いと思う。


 そして、どの曲にも感じる凛とした佇まい。作風も幅広さがあって、ラストのBeth/Restなんて80年代のバラード・ロック(ChicagoとかTOTOとか)みたいだけど、一つのアルバムの中に、各曲のポジショニングがはっきりとしていて、流れも見事。中毒性も高く、2011年を振り返ったときに、必ず思い出される作品。大好きです。


 ★★★★★(1/11/11)