2011年上半期、おそらく一番聴いたであろう、Arctic Monkeys通算4作目のアルバム。真っ白なジャケットに記されたアルバムタイトル。「まぁ、やってみな」というスラングらしい(彼らの歌詞もスラング満載で、なかなか訳すのが大変です・・・)。
本作の前にリリースされたSUBMARINEのサントラ盤(アレックスのソロ作品)では、素晴らしく叙情的な歌を披露していて、アレックスが本来持っているメロディーセンスの確かさを十二分に感じることができた。「すごいじゃん、アレックス」と思って感動してこれも何度も聞いた。そんな中新作の容貌が徐々に明らかになり、公開されたニュー・トラック「Brick By Brick」は、まさに前作「Humbug」の路線を引き継ぐような、王道のロックンロール・リフが地を這うように轟く重量級のナンバー。しかもヴォーカルはマット。サビでは繰り返しI wanna rock and rollと歌われる。
「そっち路線を貫くんだな」と思いながら聴いたこの新作であるが、全くいい意味で裏切られた。シンプルながらやや重めのリフで始まるオープニングShe's Thunderstorms。しかし、アレックスの歌が入ると同時にその様相が一変する。僕はこのアルバムのハイライトの一つがここだと思っている。
驚くほどに開放感のあるメロディーラインを持った曲が多い。もちろん英国独特のウェット感も内包しているが、聴いていて素直に心地よく、爽快ささえ感じるような清涼感のあるメロディーが展開されている曲が多い。The Hellcat Spangled Shalalalaはタイトル通り、サビではシャラララと風に流れるように歌われる。
歌詞が最高にいいReckless Serenadeでもこれまでにないくらいシンプルなギターサウンドの中で、わかりやすいメロディーを奏でている。ここからPiledriver Waltz、Love Is A Laserquestとアクモン流メランコリアが展開され、ポジティヴなメロディーがドライブするSuck It And Seeでラストを迎える。この終盤の流れも最高だ。
まだ4作目とキャリア的には浅いかもしれないが、一作一作ごとに高みを極めんとするチャレンジを課している彼らであるので、培ってきたものが豊富にあることがこのアルバムからも感じ取れる。先ほどのBrick By Brickのように前作の流れを引き継ぐDon't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair、All My Own Stuntsのような曲もあるアルバムの流れで考えると、もっとバランスの良い配置があったかもしれないが、個人的には曲そのものの完成度で考えると、前作からの成長を感じさせるもので、バンドとして今表現すべきものの一つだったことが伺える。そして、Library Picturesはアクモン王道の高速と低速を交互に織り交ぜながら進んでいくロックンロール。もちろん言うまでもなくかっこいい。
ここまで風通しの良いサウンドを、このタイミングで繰り出してきたのかは、雑誌のインタビューでも明らかになっているのでそちらを参考にしてほしいが、アレックスの持つポップネスに彼自身が向き合い、躊躇なく出せるようになったことが大きいのだと思う。もちろん今までの作品に「ためらい」のようなものを感じたことはない。しかし、あえて言うなら自分たちのポップネスにだけは何かしらのフィルターをかけ、それをグルーヴへの血肉化という形に納めてきたように思う。今作では、その一つの制約を外すことに成功した。それは立派なチャレンジであり、基本彼らの音楽に対する姿勢は変わっていないんだなと感じる。
そして、もう一つ。このアルバムの素晴らしさは、アレックス・ターナーのヴォーカルにあると思う。これまでは特に強い印象を持って聴いたことがなかったが、今作ではかなりキーになっている。She's Thunderstormsで彼のヴォーカルが入った瞬間に一変するように、曲の中での比重が明らかに増しているように感じるのだ。You TubeでSuck It And Seeの弾き語りを見たが、もうたまらなかった。これまでは曲の展開上、ここまでしなやかなヴォーカリゼーションを見せる必要も無かったのだと思うが、これもまた、新たな魅力としてバンドの大きな武器になると思う。
おそらく世間の評価としては、これまでのアルバムのようには行かないのだろうし、完璧なアルバムというわけではない。しかし、Arctic Monkeysというバンドがすごく見えるアルバムだと思う。自分が今まで抱えていたバンドに対するちょっとした「むずむず」が解れたような、そんな気持ちよさがあり、さらに個人的なことを言うと、気持ちが参っていたときにずいぶんと救われた。こんなアルバムひっさげて、「Suck It And See」なんて言われたら、やるしかないよね。
★★★★★(17/07/11)