PJ Harvey約3年ぶりの新作。自分自身は初期の作品は聴いていたが、久しく彼女の作品を聴いていなかった。なので、非常に新鮮な気持ちでこの作品を聴くことができた。
自分のイメージの中で,彼女はややエキセントリックな印象がある。初期のラフなグランジサウンドと、衝動を抑えられないといった風に叫ぶようなヴォーカルは、彼女がぎりぎりの立ち位置で、それでも表現せずにいられなかったんだという高潔さを感じさせるものだった。
と、同時に当時の自分にとって、あまりに露骨だと思われた性描写に妙な痛々しさを覚えたのも事実である。故に僕は彼女の熱心なリスナーではないことを断っておく。
今作の制作に当たって、ジョン・パリッシュ、ミック・ハーヴェイらが参加。ミックスはフラッドが務めている。タイトルからもわかるようにアルバムのコンセプトは「英国」。自身が育った場所、大国として歩んできた歴史、また犯してきた過ち、そして世界から観たこの国、あらゆる視点から英国を見つめ表現している。
サウンドは華美さを廃した、相変わらずストイックなもの。しかし、微妙な感情の揺れ動きが、繊細なタッチで描かれている。かつてのギターロック然としたものから、アコースティックなもの、マリンバなどクラシカルな要素を含んだものまでバラエティーに富んでいるが、その中でも一際光を放っているのは彼女のヴォーカル。はかなく美しく、そして力強くと表情豊かなヴォーカリゼーションを披露している。On Battleship HillやHanging In The Wireで見せる天衣無縫な歌は、アルバムの大きな聴き所だろう。
乾いたギターと重厚なベースサウンドによって歌われるThe Glorious Landでは「私たちの輝ける母国はどうやって耕されているの?/鉄の鋤によってでなく/私たちの土地は戦車と行軍によって耕されているのよ」とストレートな批判を展開。そしてこう歌う。「私たちの土地が生み出す、輝ける果実とは何?/その果実とは、親のない子ども達ね」。もともと鋭敏な感覚で感じたものを表現できるアーティストであるが、ここではさらにわかりやすくストレートになった印象を受ける。
どの曲も強烈なメッセージと美しいメロディー、そして今ここで歌わなければならないという必然性に満ちている、すごいアルバムだと思う。すごすぎて言葉を失いそうになるけど、実に雄弁に語りかけてくるアルバムである。メッセージアルバムが嫌いな人もいると思うけど、時代の音であることは間違いないです。
★★★★★(17.04/11)