James Blakeは北ロンドン出身の若きシンガーソング・ライター。「シンガーソング・ライター」と簡単に言って良いのか、そこは難しいところだが、作曲から演奏、プログラミング、歌、全てを彼自身が行っている。
BBCのSound Of 2011にも選ばれたことで知名度はぐんと上がり、英国でもこのファーストアルバムは好セールスをあげている。それどころか日本では輸入盤のみの発売であるにもかかわらず、洋楽アルバムとしては上々のセールスを記録しているという。
その音楽性は、説明するのがなかなか難しい。各音楽雑誌はこぞって「ダブステップ」という言葉を使っている。確かにカテゴライズするとすれば「ダブステップ」という言葉が一番しっくり来る。
ゆったりとしたリズムに、ミニマルな構成から聞こえるのは必要最小限の厳選された音と彼の歌。決して何かを声高に主張する音楽ではない。単調なリズムから生み出される独特の浮遊感。ソウルフルなヴォーカルと張りつめたような緊張感のあるメロディーライン。その魅力はなかなか焦点かが難しいところであるが、僕が感じる最大の魅力は「聴き手の感性に作用反作用をもたらすサウンドスケープ」にあると思う。
かつて、RadioheadのKID Aがリリースされたときにも同じ事を感じたのだが、「聴き手の感性・脳内でどんな反射を見せるのか」、その多様性にJames Blakeのおもしろさがあると思う。きっと彼自身はそこに無自覚なのではないかと思う。また、それを意図してはいないはずである。しかしながら、もろダブステップな曲でも、ストレートな歌ものでも、強大なインパクト・世界観が内包されていて、聴き手はそこに引きずりこまれる。そして引きずり込まれる中、見える景色が人によって全く違うものになっているんじゃないかと思うのだ。
その吸引力と多様な解釈にも耐えうる音楽の強度は、まさに彼の才能がもたらしたものだろう。ファーストアルバムならではの、プレッシャーの無さも手伝って、2011年最高にインパクトのある作品である。個人的ベストトラックは I Never Learnt To Share。
★★★★☆(22/03/11)