The Walkmenの新作。通算6作目にあたる。楽曲制作中に訪れ、多大なインスピレーションを受けたということから、このアルバムタイトルが付けられている。2002年にデビュー後、ずっと高い評価を得てきたバンドであるが、そのサウンドはだいぶ様相を変えている。
初期の頃は、前バンドであるジョナサン・ファイヤー・イーターにあったアグレッシヴさとニヒリスティックさを抽出してさらに培養したようなガレージサウンドが主であった。しかし、徐々にサウンドの幅を広げ、今ではギターロックを基本フォーマットとしながらも多彩なサウンドを作り出している。
とはいっても、華美であったり厚みのある音ではなく、この新作でも全編に渡って流れているのは、ドライで隙間のあるサウンド。バンドサウンドと言ってもヨレヨレとしたもので、JFE時代の名残を未だに感じさせる。
どことなくClap Your Hands Say Yeahを思わせる、牧歌的なギターロックJuvenilesでアルバムはスタートする。続くAngela Surf Cityは闇を引き裂くような、直情的なサビが気持ちを高揚させる。
4曲目のシンプルなパーカッションとロカビリーっぽいギターで淡々と進んでいきながら、徐々に厚みを増していくBlue As Your Bloodもそうであるが感情を溜めてから、サビでぶつけるというタイプの曲が多い。また、西部劇のサントラにでもなりそうな叙情的なホーンが流れる中、朗々と歌われるStrandedなど、アメリカ的な叙情感を持ったサウンドが多いのもアルバムの特徴だろう。
そして、このバンドには心の琴線をくすぐるメランコリックなメロディーラインに、強烈な痛み・悲しみを湛えるヴォーカルという二つの強力な武器がある。どんなサウンドを奏でても、最終的に心に残るのがメロディーとヴォーカルなのだ。
幽玄的なコーラスワークを取り入れたAll My Great Designs、シンプルなギターサウンドのWoe Is Me、渋みを効かせたスローナンバーTorch Songなど、そのどれもが絶妙なさじ加減でプロダクションされており、統一感を乱すことなく存在している。曲順の流れを感じながら聴けるアルバムである。もう何度リピートして聴いたことだろう。中毒性はかなり高い。
以前のようにガレージサウンドをガツンとかましてくる力業は後退しているが、個人的にはある種の節奏は持ちながら雑種的な方向へと向かいつつある今の彼等のサウンドの方が好きである。自分が年を取ったせいか、こういう年輪の見えるサウンドに最近とても惹かれるようになった。
★★★★☆(23/12/10)