アントニー&ザ・ジョンソンズ、1年半ぶりのニューアルバム。前作Crying Lightというとんでもない傑作から短いスパンであるが、あの張りつめたテンションは全く緩むことなく、またしても素晴らしい作品を送り届けてくれた。
全11曲。歌詞を見て分かるように、人間関係や社会・政治などについては一切歌っていない。彼が歌うのは自然の中にいる自分と周りの営みについてだけであり、それのみが彼の表現したいことのようだ。それゆえに、アントニー&ザ・ジョンソンズの音楽は俗世間からは遠く離れたところで鳴っているように感じる。
オペラを彷彿とさせる歌唱法や必要最小限のバンドサウンドなど、非常にクラシカルなスタイルを取っているが、これも自分の世界観に忠実なだけのこと。それでも前作に比べると、音のバリエーションが増え、曲ごとのフックも強くなってきている。そういう意味では聴きやすい部類に入ると思う。
のっけから「全てが新しい(Everything Is New)」という強烈な歌い出しでこの物語はスタートする。本人はそういうことは全く考えていないだろうが、本当にここには無駄なものがない。曲ごとに最小限の構成で、それでありながら圧倒的な世界を描き出していく。そういう意味では、体一つで全ての有り様を表現する現代舞踊などに近いのかもしれない。
木々の間から差す木漏れ日のように柔らかなアコギをバックに歌われるThe Great White Oceanや静けさのなかから儚さを伴ったメロディーが浮かび上がってくるThe Spirit Was Goneなど、死をテーマに扱った曲が見られるが、死へのネガティヴなイメージはここには全くない。
むしろ死は自然の摂理の中にあることであり、死があるからこそ生きることができるという爆発的な喜びみたいなものがここにはある。I'm In Loveではアコースティックなセットの中でアントニーが喜びに躍動しているし、ストリングスの中で美しく舞うSwanlightsでも、目の前にした崇高な光に打ち震えている。
中でも圧巻なのはThank You For Your Love。ここでの心躍る高揚感は半端ではない。熱を帯びていくバンドサウンドとたたみかけるようにして歌われる「Thank You」の言葉。アントニーは本当に何度も繰り返す。彼が感謝を捧げる「愛」とは一体何だろう?
自然の中にある絶対的なルールに忠実に生きること、あるがままの生に対して純粋に向かっていくこと。そんな風に生きることは難しい。ゆえにここにある音楽が、現実感を伴わないように感じることもままある。なので、このアルバムに自分の感性が追いついていないのかもしれない。
★★★★☆(6/11/10)