Reimagines Gershwin/Brian Wilson | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up ブライアン・ウィルソンのニューアルバムは、なんとガーシュイン楽曲のカバーアルバム。なんでもブライアン・ウィルソンは、ガーシュインの遺産である104曲に及ぶ未完成曲の中から選曲して使用する特別な権利を、親族から与えられたらしく、その中からThe Like in I Love You、Nothing But Loveの2曲を完成させている。


 自分はあまりガーシュインのことを知らないし、知っているのもRhapsody in Blue とか超有名な曲だけなので、純粋にオリジナルアルバムに近い気持ちで聴くことが出来た。そしてこれが実に素晴らしい出来なのだ。


 楽曲はもちろんガーシュインの作品であるわけだから、メロディー、コード展開共に申し分ない。元々が素晴らしいものであるが故にブライアンの曲に対するアプローチが実に素直な感じがする。で、その素直さが良い方向に働いていて、ブライアンのヴォーカリゼーションはここ数作の中では一番ではないだろうか。昔のように神がかってはいないが、渋く艶っぽい歌声はジャズテイストなガーシュインの楽曲にポップスの命を吹き込んでいる。


 先ほど紹介した未完成曲からの2曲、これが圧巻である。まずThe Like in I Love You。もう完全にブライアンのものになっているというか、ため息が出そうなほど美しいバラード。そしてNothing But Loveは清涼感溢れる快活なポップソングとなっている


 多分、前情報なしに聴いたら完全なるオリジナルだと信じて疑わないだろう。それくらい、ブライアンはガーシュイン作品を自分のものにしている。しかし、逆に言えば、大衆の心を虜にさせる強大な魅力を持ったポップ性という点において、ジャンルは違えどもスタンダードとしてブライアンとガーシュインは同質のものを持っているようにも思う。


 近年一緒にやっている強力なミュージシャンたち、つまりはブライアンの良き理解者たちも彼の意志に沿って、丁寧に暖かみのある演奏をしている。そういう万全なバックアップもまた、今のブライアンが、十分に力を発揮するために必要不可欠な要素であろう。


 個人的に興味深かったのはTrombone DixieみたいなI Got Plenty O' Nuttin' 。おそらくPet Soundsも結構ガーシュインにインスパイアされて作られたような楽曲があるんだろう。


 こういうタイムレスなポップミュージックが、天才から天才へと受け継がれていく様は本当に素敵だと思う。ではブライアンの珠玉の作品もいつか誰かによって紡がれていくのだろうか?それは素敵な瞬間かもしれないけど,まだまだ先のことであってほしいのが本音。


 おすすめ度★★★★☆(30/09/10)