The Suburbs/Arcade Fire | Surf’s-Up

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 「フューネラル」「ネオン・バイブル」という壮大なる傑作を生み出したArcade Fire,待望の新作。今年楽しみでしょうがなかった新作の一つであるが、早々と宣言しますが、これはもう掛け値なしに素晴らしいアルバムである。


 軽快なピアノで始まるthe suburbs,一転して、うねるベースラインにギターのレイヤーがニューウェーブっぽさを感じさせるReady To Start,シンプルなサウンドと変則ビートの上でメランコリックなメロディーが淡く広がるModern Man,彼らの十八番とも言えるチェンバーサウンドに重厚で壮大なメロディーが奏でられるRococo・・・


 ラウドなギターとストリングスが半端無い緊迫感をもたらす、疾走感溢れるEmpty Room,印象的なギターリフに乗せて、揺らぐ思いをぶちまけるCity With No Children,流麗なメロディーと夜空から降ってくるような美しいストリングスに心奪われるHalf Light I,対でありながら歪んだギターとキーボードがフィーチャーされ、現実の不安や混迷の中にいるような感触を与えるHalf LightⅡ。


 柔らかなアルペジオから壮大な組曲風に変化するSuburban War,Gang Of Fourっぽさを感じる、ポスト・パンクなMonth Of May,シンプルなリフとゆったりとしたストリングスの中でやるせなさを漂わせるWasted Hours,チェスコンピュータを例えに、文明と自然がもたらすナンセンスさを語ったDeep Blue。


 シンプルなピアノとシンセ、エモーショナルなメロディーに追随するようなギターが絡み合っていくWe Used To Wait,SprawlⅠ,Ⅱでは人間が普遍的なものに見出す幸福さえ、じわじわと壊されつつあるという、見て見ぬふりをしたくなるような切迫した恐怖感を歌っている。


 これまでの作品は繊細且つドラマティックなアプローチで描かれていたものが、ここでは表現がかなりラフな感じになっている。もちろん雑になったという意味ではなくて、あえてディープな描写をしないことで、作品全体に風通しの良さを与えているということだ。その効果で、非常に自由度の高い、または懐の深い彼らのバンドサウンドが堪能できる形になっている。今作はウィン・バトラーを始めとするメンバーが青春期に好きだったロック・サウンドが下地となって作られたそうだが、ニュー・ウェイブ、パンクロック、シューゲイザー、チェンバー・ポップなどアイディアに従うがままに作られたような感がある。


 では、今までにあったようなトータル感がないのか?と問われれば、そんなことはなくて、これだけ多種多様なサウンドでありながら、一つ一つのピースが隙間無くがっちりはまっているような整合性を持った作品となっているのだ。それは「郊外」という要素が、雑多なテーマ性を持ったものだからだろう。彼らはこの作品で、郊外的なるものを描ききっているのかもしれない。


 都会のど真ん中にいるのではなくて、距離のある地点にいることによって見えてくるもの。歌詞を何度も読んでいるが、彼らが見てきたもの、そして今見えるものは自分と違うもののような気がする。でも、出口を求めるのか、または現状を変えていくのか、それともそのどちらでもない答えがあるのか、そんなことを考え続けていることだけは同じなんだろうな。


おすすめ度★★★★★(11/09/10)