Transference/Spoon | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
前作が全米チャートのトップテン入りを果たし、注目を集めたSpoonの新作。通算7作目に当たる。なんでもカテゴライズするのも良くないが、このSpoonの音楽性は言葉で表現するのが難しい。


 ローファイテイストなBefore Destructionで幕を開ける。隙間の多いバンドサウンド、ぶっきらぼうなアレンジはこのアルバムの方向性を感じさせる1曲だ。3曲目The Mystery Zoneは一見わかりやすいメロディーであるものの、決して口当たりは良くない。淡々とした繰り返しと不穏なサウンドトラックがふんわりと広がりを魅せるナンバーだ。


 アンビエントなWho Makes Your Money、ピアノがブルージーなガレージロックのWritten In Reverse、ギター一発のイントロとサビのコーラスワークが印象的なロックンロール・ナンバーTrouble Comes Running・・・ と全ての曲が明確な個性を持っているのがこのアルバムの特徴だろう。メロディー的にはかなり地味。彼らの売りであったビートルズ直系のメロディーは時折顔をのぞかせるものの、親しみやすさは感じられない。


 代わりにこちらにガシガシ伝わってくるのは、バンドの表現力の豊かさ。基本的には、必要最小限の音で構成されたソリッドなロック。過剰に盛り上がったり、叙情性を出すことなく、ある意味ストレートにありのままの表現をしている。ピアノを効果的に使っているが、センチメンタリズムやリリカルさを演出するためには使われていない。このバンドの個性的なグルーヴを構成する一つとして、まるで打楽器のような扱われ方なのだ。そこがおもしろい。メロディーのキャッチーさを抑えることで、聴き手もこの少し歪でアヴァンギャルドな展開に身を任せることが出来るのだ。


 このように、サウンド全体から醸し出される前衛性はSpoonの大きな武器となるだろう。とらえどころのないアルバムであるが、逆に聴く人なりの楽しみ方が出来るだろう。それでいて、本来は大きなメロディーを書ける人たちだというのだから恐れ入る。もっと突き詰めれば「KID A」にもなったかもしれない。そういう可能性を感じさせるアルバムだ。


おすすめ度★★★★(10/02/10)