Album/Girls | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up  サンフランシスコのポップ・デュオ、Girlsのデビューアルバム。


 クリストファーの音楽をやる前の経歴については至る所で紹介されているので、ここでは割愛するが、カルト教団を離れ、カリフォルニアで恋に落ち、カールズというデュオを結成するところが、彼の人生の最高潮だったそうだ。しかし、その彼女は彼の元を去っていく。そのことに大きなショックを受けたクリストファーは「彼女がどれだけ大きな過ちを犯したか」を思い知らせるために、カールズをもじった「Girls」を結成することになる。


 まったく、どこまでもしょうもない奴である。しかし、これが彼にとって全てであり、唯一の表現衝動なのだ。


 このアルバムに収録された曲たちも、多くは精神的にどん底の時代に書かれたものらしい。それを反映してか、歌詞も危ないくらい一途な想いを描いたものが多い。


しかし、ただ単に女々しさ全開のアルバムなのではない。バリエーション豊かなメロディーを書き、しかもそのキャッチーさはかなりのハイレベル。そこにサーフ・ポップ、ローファイ、サイケ、シューゲイザーなど様々な要素を掛け合わせていく。決して丁寧ではないが、どこか遊びやラフさを見せるタッチを見せ、絶妙に溶け合っている。



 妄信的な愛を叫ぶLust For Life、ポップな曲調と裏腹に胸を締め付けるような切ない想いがぶちまけられたLaura、ぶっ壊れたサーフ・ガレージBig Bad Mean Motherfucker、初期Rideを思わせるメロディックなシューゲーザーMorning Lightなど聴き所は本当に多い。疾走感、退廃感、焦燥感・・・愛に対する様々な感情がのたうつ、非常に「濃い」アルバムだ。


 そして、特筆すべきことは全ての曲が「深い傷を負っている」ことだろう。それでも、深くえぐられた傷を見せながら、決して泣いてはいないのだ。とびきりの笑顔を見せて笑っている。血を流しながら、思いっきり笑っているのだ。こんなに傷ついているけど、いつだって「君」のためにラブソングを歌うことはやめない。なぜならば、それが彼にとって全てだから。歌の中にはいつだって「君」がいる。歌を歌えば「君」に出会える。


Hellhole Ratraceで彼は「泣きたくない、死にたくない」と何度も歌う。しんどい人生を送ってきたからこそ、クリストファーは「生きたい」のだ。そういう痛切な思いがこのアルバムで迸っている。


どんなに打ちのめされても、これからもクリストファーは笑い続けるだろうし、素敵なメロディーを鳴らし続けるだろう。癒えることはなくても、その傷で世界とつながっていられる。


 おすすめ度★★★★★(6/11/09)