Let's Change The World With Music/Prefab Sprout | Surf’s-Up

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Surf’s-Up Prefab Sproutが17年前に制作を進めていたアルバムLet's Change The World With Music。音楽で世界を変えようという、めちゃめちゃ青臭いタイトルのアルバムだが、今年になってやっとリリースされた。調べてみると、現在バンド(というかパディ)は特に音楽制作をしていないようで、今作も存在していたデモをエンジニアが仕上げたものだということだ。


 Prefab Sproutはどうも時を経てから日の目を見る作品が多い。名作Protest Song完成から4年後にリリースされた。パーフェクト・ポップの旗手として間違いなく名前の挙がる彼らであるが、音楽へのこだわりや妥協のなさが時としてこういう現象を生む原因ともなっているのだろう。しかし、ファンとしてはそういう一筋縄行かないところが楽しかったりする。最たる例がBrian Wilsonですが。


 で、肝心の内容であるが、オープニングLet There Be Musicはいきなりラップ調で始まるので、昔からの彼らを知っている人は度肝を抜かれるかもしれない。かなり今のシーンを意識したものになったのかと思ったけど、始めだけで、いつものセンチメンタルなポップソング。流麗なシンセサウンドに、透明感のあるパディの歌声、そして何より超弩級に甘く切ないメロディー。


 Rideで見せる低音重視の姿勢やI Love Musicのジャジーなリズムなど、曲によってはリズムのアタックを従来より強めにして変化を持たせているところもあるが、基本線は今までのプリファブ・スプラウト・サウンドを全く変わっていない。ストリングスやホーンを巧みに使いながら、センチメンタルなポップ・ワールドを作り上げている。世の中のほとんどのアーティストが成長と変化を求められるのに対して、彼らは最初から完成度が高いせいか「変わらないこと」を求められているようなところもある。伝統を受け継いでいく職人のように、徹底的に細部にこだわりながら、音楽を作り上げていく。パディはそれを許される数少ないアーティストだ。


 それにしても、17年前に制作されたものが今の時代にここまで新鮮に響くのが驚きだ。1回聴いただけではこの良さはなかなかわからない。テクノロジーの使い方もやや古さを感じさせるだろうし、シーンの中でインパクトを残せるほどの強さはない。しかしながら、何度も聴いているとそういったものを問題にしないタイムレス・メロディーから滾々と湧き出る力を感じるようになる。大げさなタイトルであるようだが、世界を変えるのは彼らの紡ぐ普遍的なメロディーなのかもしれない、と思わせてしまうだけの力があるのだ。


 昔は痩せてきれいな顔立ちをしていたパディも今ではやや恰幅のいい白髭のオジサンである。ルックスは変わってしまったが、彼らの音楽の素晴らしさは全く色褪せていない。おそらく派手に取り上げられることもないだろうし、大ブレイクすることもないだろうが、一人でも多くの人に聴いてもらいたいなと思う。


 おすすめ度★★★★★(11/10/09)