Arctic Monkeys、渾身のサード・アルバム。前2作もすばらしいアルバムだったが、この新作は「渾身」という言葉をつけたくなるくらい、作り込み感の伝わってくる作品だ。
曲調はミドル~スローとなり、これまでのような明快なアンセミック・ナンバーはない。代わりにあるのは、聞き込めば聞き込むほどに、味わい深い骨太なロック。特徴的だったリフも、ティーンの心を虜にするような明快さはなく、より重量感を増した硬質なものへと変化してきている。。アレックスの歌も少年性が抜け落ち、人間の奥底まで表現できる力を身につけたように見える。また、それらを支えるベースやドラムも、さらに安定感が増した。つまり全体的なビルド・アップがこの作品によってなされたと言っていいだろう。
前作Favourite Worst Nightmareの後半にも、若干そういう流れが感じられたが、今作では比較にならないくらい深化を見せている。
彼らのロックがおもしろいと思うところは、まずリフやフレーズ、リズムが生まれて、そこに歌やメロディーが肉付けされていくように見えるところだ。それ故に、初めは地味に聞こえるかもしれない。事実、自分も初めて聴いたときはずいぶん地味な印象を受けた。しかしながら、この楽曲そのものの「運動量」の凄さ。目まぐるしく変わるリズムや突然降って湧いたように広がるメロディーが、ごく自然にまとめ上げられている。そういう意味では1曲1曲がとんでもないのだ。
好きな楽曲をあげるとすれば、荒涼とした地に優しげに流れるSecret Door。胸をぎゅうぎゅうに締め付けるメランコリアを感じさせる曲であるが、そこに達するまでそんな曲だとは微塵も思わせない。1曲の中にそこまでの表現を詰め込めるのかという、このアルバムを象徴するような1曲だと思う。また、不規則なリズムと後半メタリックなリフが炸裂するDance Little Liar。シフトアップ・ダウンを繰り返しながら聴き手を翻弄していくPotion Approachingもいい。
QOTSAのジョシュ・オムによるプロデュース。まさにこの人選が作品のカラーに大きく影響している。そもそもアレックスはQOTSAの大ファンのようで、ロックンロールの新たな可能性を模索し続けているという点では両バンドとも同じ地平に立っている。
これまでも、傑作を生み続けてきた彼らであるが、これほど彼らの凄みが伝わってくるアルバムは今作が一番だろう。明快なメロディーが少ないのに、なぜこんなにも魅せられるのか。それは、彼らの持つ「デザイン力」の凄まじさだ。あり得ないような方向から来て、あり得ないような方向へと突き抜けていく、まさに彼らのロックにしかない独特の構造・デザイン。重厚なリフ、複雑なビート、それでいて醸し出される不思議なポップ感。こんなものを作れるバンドはそうはいない。ここまで来ると、ロックというよりはアートなのかもしれない。
おすすめ度★★★★☆(29/08/09)