ペルシャの国を支配するオルカモスと絶世の美女エウリュノメとの間には、レウコトエとクリュティエClytieという二人の娘がありました。
その娘たちが成人すると、その美しさで並みいる女たちに勝っていた母親も、とてもとてもかなわなくなったのだそうです。

目のはやい太陽神アポロン Apollonは、そんな美しい乙女レウコトエに心を奪われてしまったのでした。

アポロンは燃えるその火で隈なく大地を照らすべきなのに不思議な炎で焼かれ、万物を見るべきなのにレウコトエだけを見つめ、世界に注ぐべき眼を一人の乙女にだけ注ぐようになりました。
レウコトエを早く見たいばかりに時間より前に東の空に昇ってしまったり、レウコトエに見とれていて西の空に沈むのが遅れてしまったこともありました。時には蝕をおこして、心の曇りを光であらわし人々をおびえさせたりもしました。これらはみんなアポロンの恋のせいだったのです。

西のはての空の下には太陽神の馬たちの牧場がありました。馬たちが一日の疲れを養い、次の朝からの備えをしている夜の間に、アポロンはエウリュノメの姿に変身しレウコトエの部屋に、こっそりと忍び込んだのでした。

エウリュノメに変身したアポロンの「世界の眼である私が、おまえを好きになったのだ」という突然の言葉に、最初レウコトエは驚き怖がっていました。 しかし、間もなくアポロンが本来の姿にもどると、レウコトエは、その太陽神のまばゆいばかりの輝きに撃たれ、荒々しい振る舞いを受け入れたのでした。

それに深く苦しんだのが、アポロンに愛をよせていたクリュティエでした。
おさえられぬ嫉妬心と恋仇への怒りから、アポロンとレウコトエの認められぬ仲を父親にもらしてしまったのです。

話しを聞いた気性の荒い父オルカモスは、哀願する娘レウコトエを無情にも深い穴に埋めてしまいました。
アポロンは、何とか助け出そうとしましたが、レウコトエは土の重みで頭をもたげることもできず、とうとう冷たくなってゆきました。
とても悲しんだアポロンは、クリュティエの弁解も聞かぬまま、彼女からも離れていってしまいました。
こうして、クリュティエの愛にも終止符が打たれてしまったのです。

その後、哀れなクリュティエは、届かぬ恋の思いにすっかりやつれ、9日間、空の下、夜も昼も地面に座り込んだまま何も食べずに雨露と自分の流す涙で飢えをいやすきりでした。
やせ細ったクリュティエは、ただ空を仰ぎ、そこを通るアポロンの顔を見つめてそちらへ自分の顔を向けるだけになってしまいました。
そして、とうとう最後には身体が土にくっついて血の失せた草木に変わってしまったのです。
それがヒマワリHelianthusです。
今も、ヒマワリの花が、朝から夕暮れまで太陽を追っているのは、姿を変えたクリュティエの愛が残っているからなのです。

引用:http://summer-snow.tea-nifty.com/snow_drop/cat3927965/

【参考文献】
オウィディウス Ovidius 《変身物語 Metamorphoses》 第4章 190-270