この冬、「一切れ欠けたケーキ」が途上国の子供を救う?

ダイヤモンド・オンライン 1月 8日(金) 8時30分配信 / 経済 - 経済総合
この冬、「一切れ欠けたケーキ」が途上国の子供を救う?
ケーキ店「クール・オン・フルール」の1人分欠けたホールケーキ(World Vision提供)
 昨年のクリスマスシーズンに、不思議なホールケーキが売られていたことを覚えている人はいるだろうか。

 そのホールケーキは、何故か「一切れ分」が欠けている。もちろん、手抜きや材料が足りなかったわけではない。ちゃんと理由があってそうなっているのだ。

 実は、欠けている「一切れ分の金額」が、途上国の子供たちに対する「食糧援助プロジェクト」の基金に回されることになっていた。つまり、ケーキを買うことにより、厳しい現実にさらされている世界の子供たちを支援できるという仕組みになっている。

 題して、「ラブケーキプロジェクト」。仕掛けたのはワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)という特定非営利法人だ。WFP(国連世界食糧計画)のパートナーとして、食糧不足に苦しむ子供たちのために、支援活動を展開する世界的な団体の日本法人である。

 ラブケーキプロジェクトに寄せられた募金は、WFP(国連世界食糧計画)との共同事業として、食糧不足に苦しむ子供たちへの支援活動に使われるというわけだ。

 実は、このプロジェクトのスタートは昨夏に遡る。WVJが都内や横浜市の有名ケーキ店に声をかけ、賛同した店舗が秋から「一切れ分足りないケーキ」のトライアル販売を開始。そのトライアルをベースに、クリスマスシーズンの12月に計7店が参加し、本番のプロジェクトが実施された。

 参加した7店は、東京都世田谷区の「オーボンヴュータン」「シェ・松尾」、同渋谷区の「パティスリー アレグレス広尾」「カフェ ano」、同文京区の「ロワゾー・ド・リヨン」、横浜市港北区の「クール・オン・フルール」、同青葉区の「パティスリー デ・フェール」。 

 11月末頃~12月20日の間にそれぞれの店が予約期間を設け、ポスターや雑誌広告などの告知と連動しながら展開した。

 ホールケーキの値段は2500円~3500円の間で各店が設定し、その一切れ分の金額として約11~14%(300~500円)が寄付に回る仕組みだ。唯一「カフェ ano」だけは一切れ分を除いた小さな丸型ケーキを、カフェのメニューとして12月1日~25日間に800円で提供し、そのうち100円を寄付とした。

 「オーボンヴュータン」のパティシエ・河田勝彦氏は、「クリスマスシーズンと重なって難しいこともあったが、とにかく菓子屋として子供に貢献したいと思った」と、参加理由を語る。同店では、15台ほどのホールケーキが売れたそうだ。

 一方、「クール・オン・フルール」のパティシエ・奥田勝氏は「トライアルでの売れ行きはもうひとつだったが、本番では告知効果もあって反響が大きく、地方からの問い合わせもあった」とコメント。予約数は40件以上に上ったという。

 「シェ・松尾」のパティシエ・三嵜栄治氏も、「限定30台の予定だったが、予約の電話が多かったため急遽販売数を増やし、最終的に60台は売れた」と、予想以上の反響に驚く。

 カフェのメニューで提供した「カフェ ano」では「注文したお客様に主旨を説明した手紙を渡すと、皆さんが興味を持ってくれた。途上国の食糧事情を知っていただくよい機会になった」と振り返る。

 ユニークなアイデアにより、一定の成果を上げたラブケーキプロジェクト。寄付金額は大きくないものの、単なる募金よりも社会への訴求効果は大きい。今後第2弾、第3弾とプロジェクトを続ける場合は、いかに参加店を増やして寄付金額や啓蒙規模を拡大するかが、課題となるだろう。

 前出の奥田氏は、「プロジェクトが大きくなると問題も出てくると思うが、『これでお金儲けをしよう』という間違った方向に進まない限り、世の中をよくするために参加し続けていきたい」と語っている。

(大来 俊)