数年前のこと。

ボーナスが出た直後に父に聞いた。

「ボーナスが入ったけど、何か欲しいものある?」




以下はその後携帯メールで行われた父とのやり取り。

父: 最近、電気釜のホーローと、私の頭が禿げてきました。
私: それは最近ではないのでは?
父: 最近です。
私: つまり、カツラか電子ジャーが欲しいと、そういうことですね?
父: 頭は前にもらった帽子をかぶって対応しているので大丈夫です。
私: それでは電子ジャーを差し上げます。


その二週間後、弟を含め3人でヨドバシに向かった。


最近の電子ジャーというのは、
おかまの部分が土鍋風になっているのが流行らしく
自宅にいながら、釜で炊いたような美味しいお米を炊くことができるという。
見た目も黒くて厚みがあり、とても本格的だ。


値段は一番安くて2万円台。第四位とかいてある。
人気商品第3位になると値段は2万円アップ。5万円近くする。
その後、順位が上がるごとに2万円ずつお値段は跳ね上がる。


ボーナスもしっかり出たし、一応育ててもらった親だし、
毎日食べる白米だし、ここでちょっとケチってしまったがために
家賃が払えなくなるわけでもない。

あのオヤジじゃそれこそ天国へ旅立つ間際に
「Mちゃんがあの時安い電子ジャーしか買ってくれなかったことが心残りだ」
とかいいそうだし、こちらもそれじゃあ後味が悪いし、ということで弟と相談。

「姉ちゃん、どうせ高いもの買うなら、第一位まで行っちゃえよ」

などとも言われたがそれは豚に真珠というものだ、と即座に却下。


そもそもこいつには、自分も出資しようなどという考えは無い。
結局その土鍋風の第3位の電子ジャーを購入することに。

安いのでいい、などと一応言っていた父が
別のエリアにフラフラと歩いていった間に

私は腹をくくって第三位の電子ジャーを購入。

戻ってきた父に
「これは土鍋風で、おこげとかも美味しくできちゃう優れものなんだよ」
と説明すると、父曰く
「おこげは戦後の貧しい時代を思い出すんだよなぁ。
あの頃は、焦がしたくないのに焦げちゃったんだよなぁ」

と何やら遠い目でブツブツと。

むむむむむーー!!!


その後、疲れたので3人でお茶をした。
入ったコーヒー屋で何故か熟睡し始めた父の動画を撮影、
コメントを付けずに母親に送りつけたりして弟と楽しんだあと、
無事に帰宅した。


そして今年も何とか無事にボーナスが支給されたので
父の日に何が欲しいか聞いてみた。

「ボーナスが入ったけど、何か欲しいものある?」



返ってきた答えはテレビ。






テレビテレビテレビテレビテレビ・・・




父よ。
アナタの辞書に「遠慮」という単語はあるのか。