岡田有希子がレコード大賞最優秀新人賞に輝いたのが昭和59年12月31日のこと。

同賞は昭和55年から4年連続でジャニーズ事務所所属の男性歌手•グループが受賞し続けていたが、昭和54年の桑江知子以来、5年ぶりに非ジャニーズ系歌手、そして女性歌手の受賞であった。


明けて昭和60年、新年早々、何度も流される印象的なテレビコマーシャルがあった。

西洋人の少女がじっとこっちを見ている。カメラが次第に近づいていくと、少女は目を閉じて、最後はくちづけを待つように唇を突き出す。画面が変わって、ナレーションとともに、キャッチコピーが赤い明朝体の文字で映し出される。それはこういうものだ。

きみの、つぎにあったかい。カップヌードル

背後に流れるのは大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」のサビの部分だった。


もうすぐ雨のハイウェイ 
輝いた季節は
君の瞳に何を うつすのか
そして僕は途方に暮れる


とても心に沁みる歌で、私は年明けからこの曲をしばしば口ずさんだものだ。CMでは流れなかったが、「そして僕は途方に暮れる」の冒頭は次のような一節だ。


見慣れない服を着た
君が今 出ていった
髪型を整え 
テーブルの上もそのままに


それに続くCMで流れたのと同じサビの部分は1番はこのような歌詞になる。


ひとつのこらず君を
悲しませないものを
君の世界のすべてにするがいい
そして僕は途方に暮れる


私はまもなく大学4年になろうとしていた。

そして、「そのひと」のことをよく考えながら「そして僕は途方に暮れる」を口ずさんだ。そうすると、「そのひと」が、いつか、「見慣れない服を」着て、「髪型を整え」て、私の元を去っていくような予感にとらわれるのだった。

若かった私は、不安でいっぱいになりながら、この歌の1番のサビの部分と同じような気持ちを抱いて、どうにか持ちこたえようとしていた。

昭和60年は、こんなふうに、前途になにか暗い出来事が待ち構えているような予感に満たされながらスタートした感じが私にはあったのである。