２回目：刺身の上の乗ってる菊さん

前回オープンには、
たくさんのお客様に来てもらったわ。

スナックベランダ２回目もこの調子で行くわよ。

意外と私服はジーパンが多い

ママの東美（アズミ）よ。今回もよろしくね。

さあ、今日もさっそく悩める
「もの」達が私のところに
癒しを求めてやって来たわよ。

花なのにまったく華のないお飾りで、名脇役。

刺身の上に乗っている菊さんがご来店よ。


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東：東美ママ　刺：刺身の上に乗っている菊さん
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刺：ママ！酒だ！酒持ってきてくれ！！

東：あらあら、いらっしゃい。
　　嫌だわ１回目のおしるこ缶さんと同じ展開ね。
　　早くも２回目でもうマンネリかしら。

刺：俺も飲まなきゃやってられねえんだよ。

東：一体どうしたって言うんだい？刺身の上に乗っている菊さん。

刺：おお！ママ！聞いてくれよ！

　俺は、一体何のために
　生まれてきたんだよ！
　　

　今日も俺だけ食べ残されて、
　ゴミ箱行きだよ！

東：あら、まあ。

刺：しかも食べられないだけならまだしも、
　　みんな刺身に夢中で、
　　
　どうせ俺の事なんか
　誰も覚えちゃいないんだよ！
　　
東：そんな事無いわよ。
　　いつも縁の下の力持ちで、主役を盛り立ててるじゃない。

刺：確かに俺は主役じゃないよ。主役はあくまでも刺身さ。

　　でも、みんな俺の頑張りを分かっちゃいねえんだよ！
　　俺がどんだけ刺身をキレイに魅せてるかなんて！

　　所詮、お飾りなんだよ俺なんか！

　　それに、刺身も刺身だよ。
　　今日も中トロの野郎、いい気になりやがって。

　　
　また、遅刻だぜ。
　ちょっと人気あって、
　脂乗ってるからって、
　調子にも乗りやがって。

東：まあ、本当に鬱憤がたまってるのね。

刺：だってよお。
　　
　　俺だって菊に生まれたからには、
　　キレイだとか、ちやほやされてえんだよ。

　　ああ、俺も菊人形になりたかったよ。
　　
　　本当は、刺身の上に乗ってるような
　　器じゃねんだけどなあ。

東：まったく！いい加減にしなさい！
　　いつまでもウジウジとみっともないわよ。

刺：そんなこと言うけど、
　　ママは俺の本当の役目知ってるのかい？

東：もちろん、知ってるわよ。
　　あなたの花びらをバラして、
　　刺身醤油に入れて一緒にお刺身をいただくと
　　香り豊かでよりおいしくいただけるんじゃなくて。

刺：さすがママ。通だねえ。
　　そうだよ、そんな通な食べ方知ってる奴が
　　どれだけいるんだよ。
　　
　　みんな俺のこと無視しやがって。

　　あまりに誰も手つけないから、
　　
　最近俺に似たプラスチックが
　増えてるって言うじゃねえか、
　全く。

東：はああ、

　　ちょっと聞きなさい、
　　刺身の上に乗ってる菊さん。

　この店に時々
　パセリさんが来るのよ。
　　
　　パセリさんもあなたと同じお飾りよ。
　　ほとんどの人が食べないわ。

　　でも彼はいつも愚痴は言わず、
　　自分の仕事に誇りを持っていたわよ。

　　自分はあくまでも名脇役として
　　主役を盛り立てるだけ。

　　
　　自分がゴミ箱に行く事より、
　　メインの料理が食べ残されている方が、
　　よっぽど悔しいと言っていたわ。

　　分かる？
　　
　あなたにも刺身の上に
　乗っている菊だけにしか、
　出来ない役割があるんじゃなくて？

刺：……。

東：まあ、いいわ。
　　今日はいっぱい愚痴を言ってすっきりしたらいいわ。

　　さ、飲んで飲んで。

刺：俺にしか出来ない事か…。
　　もうちょっと俺頑張ってみるよ。
　　ありがとう、ママ。

東：やっと分かってくれたようね。さあ、飲んで。

刺：ああ、よ～し！今日は飲むぞ！ママ、ボトル入れてくれ！

東：はいはい。分かりましたよ！

--カランコロ～ン

東：あら？いらっしゃい、これはこれは。

　　刺身の大トロさんじゃない？

大トロ（以下ト）：どうも、どうも。
　　最近評判の店だからって来てみたんだよ。
　　ママ、とりあえずボトル入れてくれ。


東：はい。かしこまりました。どうぞ。


ト：ありがとう。今日はゆっくりさせてもらうよ。

東：どうぞ、ごゆっくり。それにしても、
　　あいかわらずおいしそうね、大トロさんは。

刺：………。

　　あのう？ママ？

　　ボクのボトルの方は？

東：あら？ごめんなさい。

　すっかり刺身の上に乗っている
　菊さんの事忘れてたわ。

刺：……。


こうして、またスナックベランダの夜は、
また更けていくのであった。

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