森山大輔「ワールドエンブリオ」(1) | マンガ坂

森山大輔「ワールドエンブリオ」(1)

森山 大輔
ワールドエンブリオ 1 (1)
前作「クロノクルセイド」は、絶望的な状況下にあっても決して「前へ進む事」を止めない若者達の物語だったが、本作もそういった方向性の作品になりそうな気配を感じる。

さて、「人知れず静かに世界が侵食されていく」類の話は、それほど珍しい物ではなく、近年の漫画やライトノベル作品にも類似した設定がよく見られる。特に、竹下堅次朗「カケル」や高橋弥七郎「灼眼のシャナ」等は、『ある特定のシチュエーション下で死亡した人間は、その存在を「なかった」事にされてしまう』という点で、本作のそれに近いと言えるだろう。
アイディア自体があまり目新しいものではない場合、その作品の価値を決めるのは、物語の展開や構成力、作者独自のカラーであるわけだが、序盤ともいえる今巻収録分を読んだだけでも、本作はそれら要素が高いレベルで詰め込まれているように感じた。


「死んだ」はずの従姉妹からのメール、人の成れの果てである怪物「棺守」、未だ詳細不明だが圧倒的な能力を持つ「刃旗」使い、繭状の卵から生まれた謎の女の子……。使い方を誤ると、一気にチープテイストな作品に仕上がってしまう所だが、本作はそれらを実に絶妙に組み合わせている。


惜しむらくは、森山氏がじっくりと話を進めていくロースターターである事を知らない読者にとっては、この第一巻が「序盤の序盤」位に感じてしまわれるほどに、世界観と作品の方向性を示す要素が少なすぎたと思しき所か。
「クロノクルセイド」が、まず作品の方向性を強く打ち出し、然る後に世界観を固めていった事を考えると、森山氏のファン以外には掴みが弱かったのではなかろうか、と一ファンとして無駄な心配をしてしまった。



竹下 堅次朗
カケル 1 (1)
高橋 弥七郎
灼眼のシャナ 1~9+0 10冊セット[ポストカード付き]