椋鳩十「犬塚」を読む。 | 水羊亭随筆 Classics

椋鳩十「犬塚」を読む。

水羊亭随筆 Classics-inuduka  椋鳩十の動物童話は、新美南吉やディック・キング=スミスのように、ファンタジー色の強いものではなく、『シートン動物記』のような、動物学や伝聞に基づく、リアル志向の強い作品と云えそうです。

『椋鳩十動物童話集(全15巻)』(小峰書店)には、巻末に動物学者の解説がついていて、勉強になります。その解説によると、椋鳩十の動物童話は、動物学的に誤っている記述もままあるようです。

 物語に登場する猟師が「狩猟法」を違反しているコトまであるらしく(云わぬが花、と云う気もしますが)、椋鳩十の動物童話を「実話(または動物学)に基づく物語」と信じてしまうのは、いささかアブナイようです。

 その上、椋鳩十は文章がうまくありません。日本語(文章)の教材としてオススメはできません。

 このように、いろいろと問題のある(?)椋鳩十の動物童話ですが「犬塚」と云う短編はオススメです(小峰書店版『椋鳩十動物童話集 第3巻 きえたキツネ』収録)。

  この短編も、人から伝え聞いた物語として書かれていますが、実話かどうか定かではありません。実話であれば感動も倍増ですが、創作だとしても、日本人好みの感傷が良い方へ働いている「隠れた名作」だと思います。

「犬塚」は、ある猟師と、その猟師に拾われ、育てられた猟犬アカとの強い絆を描いた物語です。私は「犬塚」を読んで、少しばかり、忠犬ハチ公の物語を想起しました。忠犬と云う言葉は、ハチ公よりも、猟犬アカにふさわしいと思うほどです。

 蛇足ですが「犬塚」に登場する猟犬アカとハチ公とでは、片耳が垂れていると云う共通点もあります(上野科学博物館で剥製として保存されているハチ公の耳は、両方とも立ち耳にされています)。

 しかし「犬塚」の最後は、忠犬ハチ公の物語よりも深い愛と哀しみに満ちています。子供から大人まで、涙なくしては読めない感動作です。犬好きの人はさらなり。

〈おわり〉