存命のまま、月途中で議員に就任したりを退任した場合は月額報酬を日割りで支給するにもかかわらず、死亡したときだけは満額で払うという杉並区の議員報酬条例は、「役務に対する反対給付」だとする地方法自治法に反するとして、死亡時の報酬一部支給差し止めを求める住民訴訟を、きょう東京地裁に起こした。

 担当部は民事51部、事件番号は東京地裁平成27年(行ウ)739号と決まった。

 死亡時の満額支給条項とは、明治政府ゆずりの特権階級意識を象徴する遺物のような代物だが、これをいまだに残している自治体は多い。気分は明治時代という議員が少なくないことを表している。法廷で違法性をはっきりさせ、条項撤廃に持ち込みたいと原告である筆者は考えている。

 訴状の内容は以下のとおり。

訴  状
東京地方裁判所御中
                 2015年12月28日

                 原告 三宅勝久             
                 被告 杉並区長
               
議員報酬支給差止請求事件(住民訴訟)

請求の趣旨

1 被告は、杉並区議会議員に支給される月額報酬のうち、議員が死亡した場合に限り、死亡日までの日割り額を超える金員の支出をしてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。


請求の理由

第1 死亡時満額支給規定は違法である
 地方自治法203条4項は議員報酬について次のとおり定めている。

【地方自治法】
203条4項 議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。


 また、杉並区議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例(以下本件報酬条例という)第3条1項および2項は、以下のとおり定めている。

【杉並区議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例】
第3条 議員報酬は、議長及び副議長にあつてはその選挙された日から、委員長及び副委員長にあつてはその選任された日から、議員にあつてはその職に就いた日から、それぞれ支給する。
2 議員報酬は、議長等が、任期満了、辞職、失職、除名又は議会の解散によりその職を離れたときはその日まで、死亡したときはその日の属する月の末日まで、それぞれ支給する。

(下線は請求人において付記した)

 すなわち、議員報酬の支給額および支給方法について、法は議会に一定の裁量権を付与している。しかしながらこの裁量権は無限大ではない。『新版 逐条地方自治法』(第8次改定版、甲1)の解説によれば、議員報酬とは「一定の役務の対価として与えられる反対給付」である。つまり、いわゆる「生活給」や「弔慰金」の類の趣旨はいささかも含んでいない。よって条例で支給方法を定める際には、職務内容や活動内容、地方公共団体の規模ないし財政状況といった諸事情を総合勘案し、法の濫用・逸脱にあたらない範囲でなければならない。
 こうした立法趣旨に照らせば、本件条例第3条の2項の「死亡したときはその日の属する月の末日まで」支給するという規定は、死亡日のいかんにかかわらず月額を満額支給するものであり、違法性は明らかである。死亡日以降という絶対的に職務をなしえない期間においても報酬を支給することを意味する。月額報酬のうち、死亡日までの日割り分を超す部分は「役務の対価」とは言えない。
 月途中の就任や月途中に存命のまま退任した場合には月額報酬を日割りで支給するという規定と比べても、死亡時の月額満額支給がすべて役務の対価とはいえないことは明白である。
 以上の理由から、本件報酬条例の死亡時満額支給に関する規定は、法203条が議会に付与した裁量権を逸脱あるいは濫用しており、違法・無効というべきである。この違法な規定に基づく違法な支出がなされる蓋然性が高いため、支給がなされないようあらかじめ差し止める必要がある。

第2 本件住民監査請求は適法である。
 なお、杉並区議会議員の死亡は常に起こりうる事態である。監査可能な程度に、相当の確実さをもって違法な支出が予想されることは明らかである。よって本件住民監査請求は適法である。
 
監査請求前置

 上記の違法な公金支出について、原告は2015年12月7日、住民監査請求を杉並区監査委員に申し立てた(甲2)。これに対して同監査委員は、要件不備を理由に同年12月24日付で請求を却下し、同26日、原告に通知した(甲3)。この監査結果は違法であるので本訴訟を提起する。