こわ~い、こわ~い絵本

『ねこのおんせん』
作/別役 実 絵/佐野洋子

こんなに、こわ~いおはなしはひさしぶりです。

アーバン村に住んでるナガールさん。
長年いっしょにくらしているねこのタガールが元気がないから、

「ねこを元気にしてあげたい」

 

愛情いっぱいのナガールさん。
「ねこのカラダによくきく」と評判のおんせんにつれていってあげようと思っただけなんです。

岩だらけの山道をのぼって、ゆらゆらゆれるつりばしをわたって・・・。森はふかいふかい緑色、タガールさんがねこをだっこして、根元で休んだ、その木は白く、美しい。

 

それなのに。


ナガールさんとねこのタガール。
どうなっちゃうと思う?


★絵を描いた佐野洋子さんは、『100万回生きたねこ』をつくった人。佐野さんの描くねこはどこかとぼけてて、いいですね、やっぱり。ねこをせおって、山道をのぼるときの景色は、タガールさんのねこへの愛情を感じます。作者の別役実さんは劇作家でもあります。

 

 

 

 

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チェコの歴史は作家の人生そのもの

『かべー鉄のカーテンのむこうに育ってー』

作:ピーター・シス

訳:福本友美子

BL出版(初版2010年)

 

この本をめくりながら、プラハを旅した時のことを思い出しました。

心に浮かぶのは、菩提樹が立ちならぶ美しい小道、

プラハ城の見える公園でさんぽした菩提樹の森。

菩提樹の白い花の甘い香りが街中にただよっていたこと・・・。

 

あの美しい国チェコで何があったのか?

作家ピーター・シスが生まれた国チェコの歴史を「できるだけ忠実に」描いた大型絵本です。

 

ピーター・シスは物心つく頃にはもう絵を描いていました。

1949年、チェコスロバキアの時代に生まれ、プラハで育った彼の人生はチェコが歩んだ過酷な歴史とともにありました。

シスは、自分の国の変遷を「心の声」と「歴史上の事実」とを並行して描いていきます。

 

冷戦時代の絵の下には

「家では、なんでもすきなものをかいたが、学校では、かきなさい、といわれたものをかいた。」

 

1968年、プラハの春。

「なんでもできそうな気がした・・・」

この絵本の中でいちばん色が多い、カラフルなページ。

 

しかし、ソ連軍の侵攻。

「夢をかいた・・・悪夢もかいた。夢はないしょにしておけばいい。」

 

1989年11月9日、ベルリンのかべ崩壊。

「時には夢がかなうこともある。」

 

ピーター・シスならではの細密な絵で進められるチェコの歴史。その地で生きてきた人々の思いを知ることができます。チェコのガイドブックを眺める前に読みたい1冊です。

 

★ピーター・シス(1949-)

絵本作家。本作でコールデコット・オーナーブック受賞。『生命の樹』(徳間書店)でボローニャ国際児童図書展ノンフィクション大賞受賞。アメリカ在住。

 

 

 

 

 

 

 

 


大きな木のてっぺんに住んでいる!?
『カングル・ワングルのぼうし』
文:エドワード・リア
絵:ヘレン・オクセンバリー
訳:にいくら としかず
ほるぷ出版(初版1975年)

「カングル・ワングル」って、人の名まえ!
どんな人なのかは、絵本を読んでのお楽しみにするとして、

注目したいのは、「クランペティ」の木。

小高い丘の上に、どっしりと根をはって、幹は太くて、葉がもくもく、空いっぱい。
カングル・ワングルはこの木のてっぺんに住んでいるのです。
クランペティの木の特ちょうは
ホットケーキにそっくりの、おいしいおかしの葉をつけていること。
どんな木なのかしら。
葉は甘いのかしら。

絵本の始まり、カングル・ワングルはひとりぼっちだったけど、やがて・・・。

読み進めているうちに、あなたも、木のてっぺんに登りたくなると思います。

 

★エドワード・リア(1812-1888)
絵本作家。ロンドン生まれ。正規の教育は受けていませんが、絵の才能にすぐれ、ヴィクトリア女王に絵の手ほどきをするほどでした。イタリア、ギリシャ、アルバニアなどに旅行しながら、詩をつくり、絵を描き、1888年1月イタリアのサン・レモで亡くなりました。(絵本のプロフィールより)

★ヘレン・オクセンバリー
絵本作家。本作でケイト・グリーナウエイ賞受賞。夫は絵本作家のジョン・バーニンガム。

 


 



 




 

 

 

 

 

 

 

10匹のこどもたちが、もぉかわいい!

『ハリネズミかあさんのふゆじたく』

作・絵:エヴァ・ビロウ

訳:佐伯愛子

 

ハリネズミの家族が、大きな大きな木のうろの中に住んでいます。

「うろ」というのは、木の幹にあいた穴のことです。

その中で、ハリネズミ一家が暮らしているんですよ。

 

おかあさんと、おとうさんと、ちいさな男の子のハリネズミが10匹も!

 

ものがたりは冬になる少し前から始まります。

おかあさん、いつもハダシでいる子どもたちのために、寒くなる前に、くつを用意してあげようと、思い立つのですが・・・。

どうも、うまくいかないみたいなんです。

10匹のハリネズミの分ですから、20足が必要です。

そんなにたくさんっ!くつをつくれるのかしら?

 

スウェーデンの絵本作家エヴァ・ビロウさんの絵があたたかくて、

ちいさなハリネズミくんたちがやんちゃで、かわいくて、

ページをめくるたびに、ハラハラしながら一生懸命、

おかあさんを応援している自分と出あいました。

早く、くつをつくらないと、寒い寒い冬が来て、森には雪がつもっちゃう!足、冷たいっ。

 

あなたも、ハリネズミのおかあさんを応援してあげてくださいネ🦔

 

 

 

 

 

 

 

版画のぬくもりを感じる1冊

『きたきつねのゆめ』

作・絵 :手島圭三郎

 

うさぎを追いかけて、走っていくと、

「そこは、いままで みたことのない、

ふしぎなもりの いりぐちでした。

きがこおりついて、つきのひかりに かがやいて」

 

きたきつねの目に、どんなふうに映ったと思います?

 

シカ?ウマ? 美しいたてがみをなびかせて、森を駆けていく。

こっちの樹冠では、渡り鳥がとんでゆく。森の鳥、氷の鳥。

 

あ、おかあさん。

きたきつねのおかあさんと兄弟たちが、木の上に、、、。

 

森がこんなふうに、命あるものたちの姿にみえたら、

どんなにうれしいでしょう。

凍った森なんですよ。

きっと、白くて、透きとおってて、本当に美しいんでしょうね。

 

もしも、私がこんな凍った森の入口に立ったとき、

私は、見ることができるでしょうか。

 

駆けるシカや、飛ぶ鳥や、遠い思い出の、命のひとときが。

 

 

 

 

 

 

 

 

あるあさ あるあさ
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「ありがとう」のラズベリーに胸きゅん
『ある あさ』

作・絵:イジニ
訳  :チョンミヘ

表紙をひらくとすぐ、ことばがあらわれます。

「ある ところに うつくしい つのを もった シカが いました」

本文が始まる前の、かたい表紙の裏のよこに。
ここから始まるんだ・・・と感動しながらページをめくっていくと
鏡をのぞく、白いシカさん。


目がさめると、つのが片方なくなっていました。
そうだ、つのをさがしにいこう。

よろよろと森をさまようシカさん。
いろんなどうぶつと出会うとちゅうの
花や木々の絵がとてもすてきです。
 

行く道のまわりに、やさしい野の花。
最初に出会うアリクイさんの通り道にも、花。
お月さまとおはなししていると、木々の影。
ライオンさんがハリネズミさんに贈る、小さな花。

そして、ナキウサギさんがくれたラズベリー。
「ありがとう」のことばをそえて。
どうしてシカさんにお礼をいったのかな。

それは読んでのお楽しみ。

鳥のような
花のような
葉のような
森の奥からのぞく、シカさんの瞳がわすれらない。

なんて、心の澄んだ作者さんなんでしょう。
たいせつに、たいせつに 
本棚にとっておきたくなる絵本です。


 

 

 

すてきな花の絵が出てくる絵本です

おひめさまはねむりたくないけれど』

作:メアリー・ルージュ(詩人)

絵:パメラ・ザガレンスキー

訳:浜崎絵梨(そうえん社)

 

「ねえ、せかいじゅうのみんながねるの?」

なかなかねむれない、おひめさまが王さまとお妃さまにたずねます。おひめさまのパパとママですね。2人はいろいろな動物のねむりについて教えます。その中にかたつむりが出てきます。

 

小さな、小さな、かたつむりもぐーぐーぐー。

どんなところでねむっていたと思います?  それは、ひなげしの花の下でした。真っ赤なひなげしの花が少し下を向いて、ねむるかたつむりを見守っていました。かたつむりにとっては、とても背の高い、起きているときは、首をうーんとのばさないと見えないほど、花は遠くにありました。

 

自然のなかで、せかいじゅうのどうぶつたちは、どんなふうにねむるのかな?

美しく、幻想的な絵をながめているうちに、なんだか、ねむくなっちゃう絵本です。

 

 

 

ステキな絵本を見つけました。
「ポンバストゥス博士の世にも不思議な植物図鑑」
イバン・バレネチュア作、宇野和美訳(西村書店)

 

19世紀の植物学者ポンバストゥス博士がつくりだした、不思議な、不思議な、植物たちが載っているおはなしです。
この本がステキなのは、1ページをめくってすぐ、ポンバストゥス博士が語りかけてくれることです。物語の世界じゃなくて、本当にこの世に私はいるよ!と信じさせてくれることです。
博士が紹介してくれる植物たち、なんて楽しくて、なんて神秘的で、なんて自由で! 私も何か植物やお花を考え出して、ポンバストゥス博士のもとへ、送ろうかしら・・・と、わくわく、ドキドキしてきます。
音感のするどい「音楽フランスギク」、ぐんぐん空にのびる「階段りんご」の木、「宝箱クルミ」「鏡スイセン」「気球洋ナシ」などなどなど。

スペインの絵本作家イバンさんが書いたこの本が、たくさんの人のもとに届きますように。想像する心をもった子供たちの手元に!

そうそう、訳者さん、あなたのあとがきは不必要ですよぅ。あなたの文章で、せっかくのポンバストゥス博士の世界から、せちがらい現実の日本に引き戻されてしまうではありませんか。目に見えるものしか信じられない、人々の多いこの世に・・・。

ポケット詩集/童話屋
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【木のことば 21

ぱさぱさに乾いてゆく心を

ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

「自分の感受性くらい」茨木のり子の詩、冒頭。『ポケット詩集』童話屋