「雪が降る」と「雪は降る」について | ボラとも先生のブログ

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このブログは日本語ボランティアを始めた人、やっている人が疑問に感じたこと(特に文法など)について説明するために作りました。

ボラQ96:今度フランス人の学習者とカラオケに行って、私が昔好きだった「雪降る」という歌を一緒に歌うつもりなんですが、日本語の訳を調べていたら、最初の出だしが「雪降る」でした。「雪降る」と「雪降る」の違いを聞かれたらどう説明したらいいか教えてください。

ボラとも先生A961960年代に流行ったフレンチポップスの曲ですね。原題は「雪降る(Tombe la neige)」で、日本語訳の出だしは次のようになっていました(原詩もカッコに入れて示します)。

雪は降る(Tombe la neige) 

あなたはこない(Tu ne viendras pas ce soir

雪は降る(Tombe la neige) 

重い心に(Et mon cœur s’habille de noir

実は、フランス語でも「雪降る」と「雪降る」は違う表現を使います。この歌の「Tombe la neige」は「雪降る」に当たり、「雪降る」に当たるフランス語は「Il neige」です。日本語では助詞が違うだけですが、フランス語では主語も動詞も違ってきます。

ですから、「雪降る」と「雪降る」の違いを説明するのでしたら、「雪降る」=「Il neige」、「雪降る」=「La neige tombe」(「Tombe la neige」は倒置形)と説明すればいいと思います。

では、この両者の意味の違いは何かというと、「雪降る」に対応するフランス語のla neigelaがヒントです。laはフランス語の定冠詞で、英語のtheに当たります。つまり、「その雪」が降っているという意味になり、「その雪」というのは「さっきから降っているその雪」ということで、私があなたを待っている間ずっとその雪が降っているということを暗示しているわけです。

それに対して、「雪降る」に対応するフランス語の il は自然現象を表す非人称代名詞と呼ばれ、英語のit に当たるものなので、文法書などでは天候を表すなどと説明されることが多いのですが、漠然とした状況や文脈を表すものです。

英語やドイツ語でもやはり同じで、「雪降る」と「雪降る」の違いを表す表現があり、次のようになっています(ただし、英語の場合、動詞は現在形よりも現在進行形のほうが普通かもしれません)。

【日本語】  ⇒【フランス語】⇒【英語】 ⇒【ドイツ語】

・「雪降る」⇒「Il neige」⇒「It snows」⇒「Es schneit

・「雪降る」⇒「La neige tombe」⇒「The snow falls」⇒「Der Schnee fällt

この歌についてはもう一つ問題があります。上で述べたような状況であれば、題名も「雪降る」にすべきではないかという問題です。ネットで調べてみましたが、題名が「雪降る」になっているものはありませんでした。ただ、出だしが「雪降る」になっているものはありました(歌:尾崎紀世彦)。

日本語の助詞「が」と「は」の違いについては以前の記事(No.1No.8)で簡単に説明しましたが、「AはBです。」と「AがBです。」というAもBも名詞の場合だけで、「AはBします。」や「AがBします。」のようにBが動詞の場合は説明しませんでした。

「AがBします。」のようにBが動詞の場合は、「A+が」となっていれば「AがBする」という動作や出来事全体が話し手と聞き手にとって新しい情報であることを表しています。

それに対して、「AはBします。」のように「「A+は」となっていれば、話し手と聞き手が以前から知っている「A」が「B」という動作を行ったり、「B」という出来事が起きることを表すことになります。

①「雪が降っている。」

②「雪は降っている。」

①では「雪が降っている」ことに初めて気が付いて、それを報告しているような状況が考えられますが、②では「(あの)雪は(まだ)降っている」のようなニュアンスが出てきます。日常的に多い状況は①で、②のような状況は少ないかもしれませんが、歌や詩ではときどき見られます。

以下は「雪」ではなく、「雨」の場合ですが、「降る降る」と繰り返すことで降り続く雨の状況をよく表しています。

③「城ケ島の雨」(唱歌)

雨は降る降る、城ケ島の磯に利休鼠の雨が降る


④「田原坂」(民謡)

雨は降る降る、人馬は濡れる、越すに越されぬ田原坂

『はなちゃんのいる風景』p.41

96『はなちゃんがいる風景』p.41