救命医療の完璧な流れでは、急患はまず救急科に運び込まれ、一命を取り留めます。そしてその後は集中治療室(ICU)にて治療を受け、病状が安定したのちに一般病棟に移っていくことでしょう。
なぜ体外受精が行われるようになってから40数年ものあいだ、「着床期救命救急」と「生殖医療ICU」という考えがなかったのでしょうか。


どのようなママに「着床期救命理論」が適用されるのでしょうか?IVF3.0+で「浅い着床」になった方にこそ適用されるべきなのです。


実際のケース(カルテ番号822*2 )についてご紹介します。
この患者さまは他院で3回の移植を行い、当院では3回目の移植7日目から救命にあたりました。



仮説:一般的な妊娠判定

正しい時間(ERA108時間)に移植を行った後、何も行わなかったら、14日目の妊娠判定では浅い着床となるしょう!



仮説:2021年のコウノトリだったら

1週間早めに妊娠判定を行いました。しかし14日目の正式な妊娠判定では「悲しい」ものとなりました。なぜなら7日目の判定の後、「何もサポートを行わないまま」1週間を過ごしてしまったからです。



実際の状況1:2022年のコウノトリ

2日ごとに妊娠指数のフォローを行ったところ、数値の上昇速度が低下、助け出すことはできるのでしょうか?翌日再検査を行うと、「数値は更に低下」、流産しかけているともいえる状況で、救い出すことができるのでしょうか?



実際の状況2:着床期救命を実施

彼女は助け出すことを決意し、直ちに「バイオ薬品」と「抗血栓薬」を投与しました。



実際の状況3:生殖医療ICU

経過観察を続け、胚盤胞が生きていることを確認しました。
本当の挑戦はここからです。3週間後に心拍の確認ができて、ようやく「救いだすことに成功した!」と言えるのです。



実際の状況4:ふたたび救命!

胎嚢の確認ができたのは、妊娠判定から1週間後のこと。2週間目には卵黄嚢と胎芽が確認でき、3週間目には心拍が確認できました。しかしその心拍数は少し低めの数値を示していました。この大切な時期にどのようなサポートをすべきでしょうか。



実際の状況5:瀕死からの復活

ここで免疫グロブリン(IVIG)の登場です!このタイミングではIVIGが最も効果が高い薬剤と考えられます。

彼女の体重であれば15本の投与を行うことで効果が望めます。22日目の朝、まず8本を投与しました。翌日、残りの7本の投与前に心拍数の確認を行ったところ、159回/分まで上昇しており、救い出すことに成功したのでした。



本ケースから学んだこと(1)

正しい時間に正常な胚盤胞を移植したにも関わらず、成功に至らない場合、免疫反応や血栓が原因であると考えられます。



本ケースから学んだこと(2)

移植前にあらかじめ「バイオ薬品」と「抗血栓薬」を使用することで、着床環境が整い、妊娠のサポートにつながります。



本ケースから学んだこと(3)

移植前に薬剤を使用しない場合、移植後7日目に妊娠判定を行います。そして1~2日ごとに経過観察を行い、もしbHCGの上昇速度に遅れがみられる場合は、「24~27時間」以内に胚盤胞を瀕死の状態から救い出す必要があります。こうした状況の多くは血栓もしくは腫瘍壊死因子によるものであると考えられます。





本ケースから学んだこと(4)

正式な妊娠判定から3週間後、心拍数が低い場合、IVIGを使用することで効果がみられます。しかし同時に「エストロゲンとプロゲステロン」値の低下に注意する必要があり、1~2週間は「大量のエストロゲンとプロゲステロン」の補充をするのが望ましいと考えています。



反復着床不全特別診察では、皆さまに寄り添い「正しい治療」を探していきます!