香川大学解体新書-経済本館2
香川大学経済学部(昨年改築直後)


前稿ではバブル崩壊直後の1993年春卒業生の国・私立大学の就職実績について比較してみた。では、その後の「就職氷河期」本番と言われた最悪の時期ではどうだろうか。


下の表は、1999年(平成11年)春の香川大学経済学部卒業生の就職実績である。ただし、大学側の公式集計ではなく翌年2000年に刊行された同窓会名簿からの筆者の手集計である。編集された1999年秋時点での各卒業生からの自己申告に基づくものであるため、全員について就職先を網羅したものではないし、春に卒業して半年後の調査時点ではすでに退職したような場合には下の集計に入れていない。当然集計数字に漏れがあるため、その分割り引かれた控えめな数字である。あくまでトレンドを見るために使ってもらいたい。

1999年といえば、その直前に山一證券、日本長期信用銀行といった有力金融機関が次々経営破たんしている。バブル絶頂期からの日経平均株価はすでに4分の一に落ち込み、企業の採用マインドが極端に冷え込んだ時期である。このため企業の大卒求人倍率は1.25倍に低下した、まさに「就職氷河期」本番の頃である。



香川大学解体新書-日経平均


さて、それでは下の実績数字を、前掲した1993年春当時の就職実績 と比較していただきたい。経済の実態と雇用情勢はこの6年間に大幅に下降している。(大卒求人倍率 1993年春1.91倍→1999年春1.25倍)にもかかわらず、この間に本学経済学部の就職実績には基本的に大きな変化は見られない。就職先の上位3社は6年前と変わらず卒業生の多い中国銀行、百十四銀行、香川銀行の地元岡山・香川の地方銀行3行であり、そのあとに在京の大手生保・損保などが続く。あくまで地元でのUターンにこだわる層がいるため、就職先上位には地銀志望から流れてきた地元信用金庫も顔を出しているが、別掲した1名枠、2名枠には「将来の保障」を求めてか、東京の有力企業が目立つ。そこには日本銀行や三菱重工など日本を代表する名門企業が並んでおり、出身県へのUターンにこだわらない成績上位者については深刻な不況下でもそれなりに遇されている。他の地方国公立や都会の私立の大学生が軒並み「土砂降り」の状況で苦しむなか、少なくとも入試偏差値よりもはるかに好調だと言える。旧官立高商以来培ってきた伝統の底力であろう。



香川大学解体新書-daisotsu




《1999年春 香川大経済卒業生の就職実績》 就職氷河期

※その後の商号変更に対応して、各社の商号は2009年1月28日現在のものに読み替えている。また、その後に経営統合を行った企業は合算した数字で集計している。

                      (名)

01位  中国銀行------------ 8〈上場企業〉

02位  百十四銀行 ----------7〈上場企業〉

03位  香川銀行 ------------7〈上場企業〉

04位  明治安田生命 -------- 5(非上場=相互会社、従業員39,820名、保有契約高227兆円)

05位  イオン ---------------5〈上場企業〉

06位  SFCG ---------------5〈上場企業〉

07位  積水ハウス ----------4〈上場企業〉

08位  高松信用金庫---------4(非上場、従業員426名、預金残高3,557億円)

09位  四国銀行  -----------3〈上場企業〉

10位  損保ジャパン----------3〈上場企業〉

11位  NTT-----------------3〈上場企業〉

12位  徳島銀行-------------3〈上場企業〉


(採用人数2名の有名企業、官公庁)

日本政策金融公庫、西日本高速道路、四国郵政局、岡山市役所、

三菱信託銀行、日本通運、三越、伊予銀行、阿波銀行、愛媛銀行、広島総合銀行


(採用人数1名の有名企業、官公庁)

日本銀行、四国経済産業局、四国地方建設局、大阪府警、兵庫県警、香川県警、岡山県警、姫路市役所、高知市役所、今治市役所、平戸市役所、

三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井中央信託銀行、商工中金、三菱重工、JR西日本、JR四国、JTB、日本生命、日本ハム、加ト吉、大和ハウス、大成建設、東洋建設、新光証券、岡三証券、三菱田辺製薬、ダイエー、大日本印刷、凸版印刷、良品計画、USEN、ウィルコム、タカラスタンダード、セコム、レオパレス21、ファーストリティリング、プロミス、オービック、TKC、JDL、パナソニック四国エレクトロニクス、旭食品、山陰合同銀行、沖縄銀行



※この稿をアップした直後の2009年1月26日、香川県の第二地銀香川銀行と徳島県の第二地銀徳島銀行の経営統合 が発表された。初めて拠点が四国の二県にまたがる銀行グループが誕生することになる。まだ実現前のため本稿では別に集計したままとするが、上表では両行をあわせた就職者数は10名で1位となる。片や大卒行員の二割以上が香川大卒、片や現職の頭取が香川大経済卒 であり、持ち株会社の本店所在地は高松、徳島どちらになるかまだ未定だということだが、いずれにしても香大色の強い銀行グループの誕生となりそうである。


【2009年1月下旬版『ウィキペディア』の「就職氷河期」の解説】

1990年1月より株価の暴落が始まり、その後、地価やゴルフ会員権価格等も暴落しバブル崩壊と呼ばれた。翌1991年2月を境に景気が後退するなか、バブル期の大規模な投資によって生じた「3つの過剰」(設備、雇用、債務)が企業業績にとって大きな重しとなり、このなかでもとりわけ過剰な雇用による人件費を圧縮する為に、企業は軒並み新規採用の抑制を始めた。これによって、1993年から2005年に就職する新卒者が、困難な就職活動を強いられ、非正規雇用に泣き寝入りする者が大量に現れた。

(中略)

1992年から1993年にかけては、企業の急速な業績悪化で、学生が内定を取り消される事例が相次ぎ、問題になった。

1993年を谷とする一時的な景気回復で、1997年新卒の就職状況は多少持ち直したものの、1997年から1998年に亘る大手金融機関の破綻(→アジア通貨危機)などで景気が急激に悪化した為に、1999年以後の新規採用は大幅に削減された。1999年以後の就職難を、それ以前のものと区別する意味で「超就職氷河期」と呼ぶこともある。



〔参考〕

2009/03/30 17:29四国新聞webの記事より


>氷河期の再来といわれる現在の就職活動について、2000年前後に入社した氷河期世代の先輩社員のうち「今の方が大変」と考える人が31・6%に上り、「自分のときの方が大変」とした17・0%を大きく上回っていることが30日、産業能率大のアンケートで分かった。
 産業能率大では、前回の氷河期では徐々に採用が減少したが、今回は08年4月入社までの「売り手市場」から一転して情勢が変化したことが要因とみている。「同じぐらい大変」との回答は45・5%だった。


〔参考〕
2009/06/20 16;08 読売新聞webの記事より


> 昨年まで売り手市場だった有名大の学生の就職状況が今年は一転し、6月に入っても内定がない学生が大勢いる

(中略)

各大学では例年、5月中に複数の企業から内々定をもらう学生もおり、7月には就職希望者の8割が内々定を獲得。8月以降は、公務員試験に失敗して民間志望に変えた学生などから個別相談に応じていた。

 ところが、今年は不況の影響で企業の採用数が激減。リクルートによると、来春卒業予定の大学生・院生の就職求人倍率の推計(2月9日~3月12日)は前年同期比0・52ポイント悪化の1・62倍で、7年ぶりの前年割れ。大企業に限ると、求人総数は約16万人で前年比23・5%減り、求人倍率は0・55倍。6月に入っても内定ゼロの学生が目立つという。

 明治大では就職希望者の5月末の内々定保有率が40%と、昨年より10ポイント減。女子だと保有率は約30%に落ち込んでいる。他校でも100社以上申し込んだのに全滅の学生がいるほか、「何度も最終面接で落とされる」(中央大)、「『迷ったら採用』が方針だった企業から、今年は『迷ったら落とす、に変えた』と言われた」(法政大)、「就職をあきらめかけている学生もいる」(日本女子大)と悲鳴を上げている。


(2009.01.25)


(2009.01.27補足)


(2009.01.28訂正)


(2009.03.30補足)


(2009.06.21補足)