前回はサウジアラビア・ビザのうち宗教ビザと商用ビザについてふれた。今回は最も取得が難しいと言われる就労ビザの取得方法について書いておきたい。なお、就労ビザから派生する居住許可証(Iqama)と出国の際に必要となるExit Re-entry Visa、Final Exit Visaについてもふれておく。

サウジアラビアのビザの中で最も取得するのが難しいのが就労ビザであろう。就労ビザは文字通り、サウジアラビア国内で就労するためのビザであり、商用ビザとは多くの点で異なる。

意外なことにサウジの就労ビザの期限はたったの90日であり、1回使いきりのビザである。実はサウジに入国してから90日以内に”Iqama”と呼ばれる居住許可証を取得して初めて就労することが認められる。就労ビザを取得するまでと、居住許可証を取得するまでには様々な手続が存在するが、順を追って説明しておきたい。

就労ビザ取得にあたっては商用ビザ同様、サウジアラビア国内のスポンサーが必要となる。このスポンサーからの招聘状を取得するまでがまず大変である。そもそもスポンサー企業内において、招聘する人間が本当に必要であるかどうかの審査から始まる。この際に学歴、職務経歴、専門知識などについて厳格に審査される。学歴は意外と重要であり、所定の学位を保有していない場合はその時点で「資格なし」と判断されることもある。事務職の場合、文学部出身者専攻に関わらずは嫌われ、入社後にどれだけ実務経験があったとしても難色を示される。そういう意味では、法学部や経済学部、商学部出身者の方がこの国のビザは取得しやすい。

理科系の場合、工業高校や高等専門学校、理学部卒業者は基本的に”Engineer”の職位に就くことができない。”Engineer”の職位は”Bachelor of Engineering”(工学士)の学位を保有していなければならない。工学部卒業以上の学歴がない場合は、居住許可証登録の前に必ず登録しなければならないSaudi Council of Engineersの認証を得ることができず、この機関の認証を得ることができなければ居住許可は絶対に認められない。

学歴、職務経歴、専門知識などについて審査された後、雇用契約の締結に移る。この雇用契約において主に賃金が規定されている。雇用契約の締結にあたっては、通常人事部門担当の副社長が決裁を行う。決裁後、この雇用契約書に対して商工会議所の公印を取得する。雇用契約が締結された後、招聘状(正確には駐日サウジ大使館に対する認証状)が発行されて、サウジ側で準備する書類が整う。サウジ側での手続が全て完了するのに概ね1~2か月程度を要する。(私の就労ビザ準備の際は3か月ほどを要した)。

一方で、ビザ発給申請を行う人は日本国内でビザ取得のための健康診断、犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)、最終学歴の卒業証明書を準備する。国内で準備する書類が全て整った後、外務省領事局に全ての書類を提出し、認証を受ける。この際、海外の学校を卒業している場合は、外務省領事局で認証を受けることが不可能である。外務省領事局の認証後、サウジ側で準備した書類とともに駐日サウジアラビア大使館領事部の事前認証を行う。事前認証が完了して初めてビザセンターへの申請予約ができるという段取りである。日本国内での資料準備から事前認証の完了までに要する時間は概ね1か月程度である。したがって、ビザ申請を行うまでに概ね3か月程度を要するといったところである。

ビザセンターでの申請からビザ発給までは問題がなければ概ね5日間程度である。ビザセンターに提出したとしても、サウジ側の手続などに不備がある場合は発給までに1か月ほどかかるということもある。以前私が経験した発給トラブルとしては、サウジ側での宛名記載の間違いや日付記載の間違い、商工会議所名の未記載といったものがある。小さな間違いであっても書類が受け付けられないため、担当者としては非常に苦労するところである。

さて、めでたく(?)就労ビザが発行され、サウジアラビアに入国できたとしても、今度は居住許可証を取るまでに再び時間を要する。サウジに到着し、まずは空港で指紋登録と入国管理番号の取得を行う。よくあるトラブルとしては、入国時に入国管理官が入国管理番号を記載するのを忘れたり、書き間違いをしたりするものである。入国管理番号がなかったり、間違っていたりするとその後の全ての手続を行えなくなる。

空港を出た後は、病院にて血液検査とレントゲン検査を行う。この検査で特に異常が見られない場合は、その後の手続を行うことができる。この検査で異常が見つかった場合(主に感染症など)、居住許可証申請の手続を行うことはできず、出国のためのビザ(後述)を取得して、就労ビザ期限内にサウジ国外に退去しなくてはならない。

居住許可証取得のための健康診断を無事終えると、社会保険と医療保険の手続を行う。居住許可証を取得する場合は必ずスポンサーが社会保険と医療保険を提供することが原則となっている。ちなみに医療保険に登録された場合、医療費の実費負担は無料である。非エンジニア・タイトルの就労ビザを保有している人の場合は、以上の手続を終えて初めて居住許可証の申請を行うことができる。非エンジニアの場合、サウジ入国から居住許可証申請までに要する期間は1週間程度である。

一方でエンジニア・タイトルの就労ビザを保有している人の場合は、先述のSaudi Council of Engineers (SCE)に登録を行わなければならない。この登録を完了するのに概ね1~2週間程度がかかるため、エンジニアの場合はサウジ入国から居住許可証申請までに2~3週間程度を要する。

居住許可証の申請から発行までは概ね1~2週間程度であり、サウジ入国から大体1か月程度で居住許可証の取得が完了する。ただし、ラマダンの時期などは作業効率が著しく低下するため、居住許可証取得まで1.5か月~2か月を要することもある。就労ビザ申請から居住許可証の発行まで、実に4か月ほどを要するわけである。

実は就労ビザ、居住許可証を取得している場合、サウジアラビアを出国するに際してはExit Re-entry Visaと呼ばれる出国のためのビザが必要となる。就労ビザの場合は1回使い切りのビザであるため、出国のためにはFinal Exit Visaというビザが必要となる。このビザがない場合、サウジから出国することができないのである。

Exit Re-entry Visaは1回使いきりのSingleタイプと、複数回出入国ができるMultipleタイプの2種類がある。Singleタイプは取得から3か月以内に行使をしなければならない。行使しない場合はキャンセル手続を取らねばならず、キャンセルを行わなかった場合は罰金が発生する。Multipleタイプは3か月以内に初回出国を行い、初回出国日から180日間有効となる。こちらも取得から3か月以内に出国を行わなければ、キャンセル手続を行わなければならない。

就労ビザあるいは居住許可証で最終出国を行う場合は、Final Exit Visaと呼ばれるビザが必要となる。サウジアラビア国内で犯罪履歴があったり、交通違反の罰金を支払っていなかったりという場合はFinal Exit Visaが発行されることはない。

Exit Re-entry VisaやFinal Exit Visaのような出国のためのビザが存在する背景には、サウジアラビアが外国人労働者によってその経済が支えられているという点と無関係ではないだろう。サウジにおいては外国人の不法就労も問題であるが、同じくらい外国人労働者不足に陥ることも問題なのである。このため、居住許可証の発行と同時にパスポートを会社側が預かり、スポンサーが認めた帰国の時のみパスポートを返却するというシステムを採用しているスポンサーも存在している。このため、人によっては居住許可証を奴隷証明書などと皮肉る人もいるくらいである。