推理小説作家ダン・ブラウンの著書『ダヴィンチ・コード』は,あのレオナルド・ダヴィンチの名画『最後の晩餐』に隠された謎を解き明かそうとした作品です。映画化もされ,世界中で大ヒットしました。
元々レオナルド・ダヴィンチの『最後の晩餐』は,キリスト教の開祖であるイエス・キリストが,敵対者によって十字架にかけられることを予見し,十二人の弟子たちと行った最後の食事の席で,「この中の一人が自分を裏切る」と述べたシーンを描いたものです。
その『最後の晩餐』について,ダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』では,実はそこに描かれている12人の人物の内,イエス・キリストの左隣にいる人物は弟子(ヨハネ)ではないのではないか,そこに描かれているのは弟子ではない女性なのではないか,というとても興味深い推理が展開されていました。
元々宗教絵は,文字が読めない人達のために,宗教の教えを絵として表現することで発展した側面があります。
でもそれは,描かれた絵に描かれた世界について,人々が自由に想像を広げていける対象であったことを意味しています。
レオナルド・ダヴィンチの『最後の晩餐』も,世代を超えて,世界中の人々に愛されている作品です。それを見た人々は,自分だけの『最後の晩餐』への意味を得ることになります。ダン・ブラウンの『ダビンチ・コード』も,その意味の与え方の1つということでしょう。
実は最近,レオナルド・ダヴィンチの『最後の晩餐』に対して,とても興味深い意味の与え方をしている方がいらっしゃいます。2007年,イタリアの音楽家であるジョヴァンニ・マリア・バーラさんが,レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』には,音符による秘密の暗号が隠されている,という説を唱えたのです(『世界の名画謎解きガイド』(PHP文庫,2015年)14頁)。
実は,万能のレオナルド・ダヴィンチは音楽家としての才能もお持ちでした。そのため,『最後の晩餐』には,音楽,特に楽譜に関する暗号が秘められているのではないか,という指摘は,以前からあったのです。
音楽家であるバーラさんは,コンピューターを使い,『最後の晩餐』の上に五線譜を重ねたのです。すると,そこに楽譜が浮かび上がったのです。
バーラさんによると,『最後の晩餐』に描かれている人々の手やパンの位置が,五線譜の上で音符として位置づけられ,その音符を演奏してみると,約40秒の賛美歌が奏でられたそうです。
バーラさんの推理はレオナルド・ダヴィンチが『最後の晩餐』に与えた意味を見抜いたのでしょうか。それともレオナルド・ダヴィンチは『最後の晩餐』に,さらに別な意味を込めているのでしょうか。
この世は謎に満ちあふれています。私達は永遠に,その謎を解くことはないのかもしれません。『最後の晩餐』の謎と魅力は,きっと永遠に続くのだと思います。