田舎から出てきた。わたしはかぼちゃのかぼえ。
横綱・かぼちゃ山とは同じ茨城の出身。ついでに言うと、幼なじみだ。
今横綱のかぼちゃ山は、甘みと舌触りのいい稲敷市の「えびすかぼちゃ」。
わたしはほくほくあま~い古河市の「みやこかぼちゃ」。
かぼちゃっつってもいろいろあるんだよ。
そんでも、町は広いなあ。電車に乗ったら間違いなく来れるからって
横綱は言うけど、電車を降りた後は、どうしろって言うんだろか。
おろおろしてたら、急いでる人に背中がぶつかっちちまって、転んでしまった。
ああっ、わたしがとろいもんで、申しわけねえ!
すると、通りすがりの人が親切に声をかけてくれた。
なあんて、きれいな人なんだぁ。これが噂の、紫キャベツか。
わたしは、見とれちまった。
美しいだけでなく、心もやさしい人だなあ。
「だいじょうぶです。どうもありがとうございます。田舎から出て来たんだども、
あんまり駅が広いんでまよっちまったんです」
「どちらに行くの?ご案内しましょうか?」
「わたし、野菜相撲国技館に行きたいんです」
「あら!それでしたら、ちょうどここからバスが出てますよ。こちらにどうぞ」
「ああ、ありがてえ。ありがてえ」
わたしたちはうちとけて、バスまでの短い距離をおしゃべりしながら歩いた。
まるで、以前から知り合いの友達みたいに。
「ああ、ここだ!」
わたし(紫キャベツ)はその日のことを一生忘れないと思う。
その人は、何度もお礼を言って、オレンジ色のバスに乗り込んだ。
こぼれるような笑顔の、かわいい人。
それは、横綱・かぼちゃ山のお嫁さんになる人だった。
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