夜想曲 | love tablet -ノート-

夜想曲



遮光カーテン越しの柔らかな光
響くバイブ音
乱れた白いシーツ
ガラス製のサイドテーブルの上にはグラスに入ったミネラルウォーター
私はそれを手に取り、飲み干す。
ミネラルウォーターはひどくぬるい。
再びシーツの中に埋もれた。
バイブ音は鳴り続けている。

携帯で時間を確認すると、2時間ほど経過していた。
少々寝すぎてしまった。
今にもずれ落ちそうなバスローブをかろうじて引っ掛けてバスルームに向かう。
その途中で眠りにつく前に携帯が着信していたことを思い出して、ベットルームに戻った。
ディスプレイに浮かぶ文字は”クロ”からの着信があったことを表していた。
またと呆れ気味に呟く。
それが嬉しさを隠す為のものとは着信を見たときに思えず微笑んでしまったことで自分でも自覚している。
バカだなと思いながらバスローブを脱ぎ捨てた。

PCに向かい仕事をこなし、晩御飯の材料を買いに、百貨店に行って、帰ってきたら、夕方まで、再びPCで仕事をこなす。
ひどく肩が凝ってしまっていた。
早くお風呂に入り凝りをほぐしたいが、晩御飯を作る前に入っても汗をかくだけなので、先に晩御飯の支度をする事にした。
ほどなくして、オニオンスープ、ハンバーグ、そして、付け合わせの野菜が完成。
満足気にため息を吐き出すと、エプロンを外してスーツを脱ぎ、バスルームに向かった。

一日の疲れを落とし、バスタブに浸かる。暖かいお湯の中で幸せを感じていると、インターホンの音がなった。
お風呂についている画面で人物を確認して、ロックを外すと、タオルをまとって出た。

「早かったね」
ちょうど二重になった玄関の扉を空けて入ってきた彼に言った。
彼は少し間を空けて、
「バスタイムでしたか、それは失礼」
と微笑んだ。
「濡れてる」
鎖骨に触れる。
髪から滴った水、タオルを剥ぎ取られ、体を拭かれる。
「こっちも?」
「…ん」
そう言った声がたまらなくセクシーだった。
「クロ、ご飯、できて、」
私に触れる彼を止めようとそんな事を言ってみる。
「先に甘いものを食べてから」
口付け
私も止める気はないから、さっきの言葉は、なすがままでいたくないというただの意地だ。
軽々しく彼に抱き上げられると、暗いベットの上に降ろされた。
そして、暗転。
白い天井が視界に広がり、すぐ、彼の意地の悪い微笑みが目に入った。
スーツを1枚、1枚と脱がされながら、ぼんやりと、窓から月を見ていた。
彼はそんな私を咎めるように、内股に吸い付き
「余所見しないの」
と口付けた。

「さっき、すぐに食べれば、出来たてだったのに」
冷えたご飯とおかずを再び暖めたものを食べながらそんな会話をする。
「ごめんごめん」
「もう」
心がこもってない、そう呟くと
「ハンバーグ、美味しいよ」
と彼は言った。
彼はクロ、本当の名前ではないし、本当の名前は知らない。
何処に住んでいるのかもわからない。
たまに、というか、ほぼ毎日、私の家に来て、ご飯と、私を食べにくる。
彼が誰だとか、どこに住んでるのかとか、普段は何をやっているのだとかは関係ない。
彼がここに来なくなったら私は寂しい、それだけだ。
「ごちそうさまでした」
彼は満足そうに言うと、食器をシンクに運ぶ。
運び終わると、私の分も持っていってくれた、そして、鼻歌を歌いながら洗い物を始める。
彼はたまにこうして洗いものをしてくれた、私はやることがないので、音楽を流し、雑誌を広げる。
耳に心地よく響く、ピアノの曲。
夜に聞くのにぴったりな少しロマンチックな曲。
曲が1曲終わるかというところで、首筋に冷たいものが触れる。
「クロ?」
彼の指だ、私の問いかけに彼は構わず手を増やし、両の首から頬にかけてを包むと後ろに向けさせられる。逆向きに彼と向き合う形。
ソファーに座る私と、ソファーの後ろに立つ彼。
彼の少し眺めの黒髪が、私の顔に触れてくすぐったい。
冷たい色の瞳に釘付けになる。
どこまでも、透き通った色、きれい。
じっと見つめてると、彼の顔が段々と近づいてきて、
また口付け。
「どうしたの」
喉を鳴らした猫がやるみたいに、顔を彼にすり寄せる。
「メインディッシュを食べた後は、やっぱり、デザートだよね」
「さっき、食べたんじゃなかった?」
意地の悪い笑顔。そんな笑顔にも見蕩れる。
再び軽々しくベットルームに運ばれる。

ふと、目を覚ますと彼がいない。
サイドテーブルにはミネラルウォーター
それを手に取って飲むとまだ冷たかった。
少し前に彼が用意してくれたんだろう。
喉が渇いていたので、全部飲み干す、と
「全部飲んじゃったの?」
彼がベットルームの扉に寄りかかっていた。
私は、こくりと頷く。
「しょうがない人だな」
彼は微笑むと、またミネラルウォーターを注いだグラスを持ってきた。
グラスが二つ。一つは空で、一つは並々と水が入っている。
はい、と言って彼は注がれた水を、半分、空のグラスに移した。
水で満たされたグラス。
「まだいいの?」
「今日はもうちょっとゆっくりしてく」
一口グラスの水を飲むと、布団に潜り込んで、私の腰に抱きついた。
「そっか」
嬉しいけど、そっけない反応をしてしまった。
思えばちゃんと二人で寝るのは初めてだ、私も一口グラスの水を飲むとベットに潜り込んだ。
二つ並ぶグラス、二人で眠るベット。
なんだか、明日は特別な日なんじゃないかと、今からわくわくした。

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とある曲を聴いて思いついた小説なんだけど、最初思ってたのと全然別物になってしまったもの。
だから曲のイメージとも全然違う。
目標はちょっとセクシーな文章だったのだけれども、まあ、うん。
本人に色気も何もないからしょうがないのかな(笑)