Do you wonder? | love tablet -ノート-

Do you wonder?

僕は迷っていた。
時計がないから、どのくらいの時間迷ったかかはわからない、けれども自分の感覚では、半日くらいたったのではないかと思う。
右を見ると僕の背よりも高い木でできた、垣根。
左を見ると僕の背よりも高い木でできた、垣根。
同じように後ろを見ると、少し離れた所に僕の背よりも高い木でできた、垣根。
前ははるか向こうに垣根が見える。
葉は青々と生い茂り、覗き込んでも、垣根の裏に何があるかわからない。
まるで、迷路だ。
いや、まるでじゃない、実際迷路なのだ。
垣根は、まっすぐ立ってはおらず、時折直角に曲ったり、途中で切れてたりする。
何度目かわからない溜息を吐きながら、僕は再び歩き出した。
沢山歩いたけれども、思ったより足は疲れていなかった。
踏みしめる足裏の感触はふわふわしている。
2色の芝生が地面を覆っていて、それは市松模様になっている。凝った造りだ。

しばらく歩くと、垣根が途切れており、どうやら、右に進めるらしい。
右が真っ直ぐか。
心なしか、右の道から甘い匂いが漂って来た。
右に行く事に、決めた。

甘い香りの招待は、紅茶であった。
しばらく右に歩くと、また、右に折れ、更に右に折れたところが行き止まりで、そこには、長く白いテーブルクロスがかかったテーブル。
その上には、白いティーポットと、温かい紅茶の入った、ティーカップがいくつも置いてあった。
ティーカップからは、豊かな香りが立ち込める。上質な紅茶だ。
傍らには、バスケットに入ったお茶菓子の数々。
色とりどりの包装紙が、私を食べてと、言ってるようだ。

僕は一通りその紅茶の香りを楽しんだ後に、無人のお茶会の場を去った。
このご時世に、道端にある物を口にする、などという馬鹿な真似はしない。
そういうのは、本の中や、空想だけだ。
実際、目の前に美味しそうな紅茶、お茶菓子があったからと言って、食べようなんて気にはならない。

結局さっき誤った選択をした道まで戻り、真っ直ぐの道を進み始めた。
しばらく歩くと、薔薇の花々が咲き乱れる、薔薇園に迷い込んだみたいだ。
真っ赤な薔薇が美しい。
しばらくこの、薔薇園は続くらしい。
先を見ると、見える位置までは薔薇が咲き乱れ、華やかな道となっていた。
薔薇を眺めながら、歩く。
薔薇のいい香りが鼻をくすぐった。
こんな風に、景色が変わり、飽きないのが、この迷路の救いだった。
さすがに、ずっと緑色の垣根だけだったら、気が滅入ってしまっていただろう。
ここまで、来るのにも、様様な花の花壇や、垣根じゃなくて、高い塀になっているところもあった。
その塀の上にひとつの大きな卵がおいてあるのには笑ったけれども。

薔薇園を抜けたところに、ちょうどいい大きさの腰掛けがあった。
もちろん椅子などではなく、それは大きなキノコの置物である。
赤い傘に水玉の模様。
典型的とも呼べるキノコである。
僕はそこで休憩することにした。
なにかあるかな、と水色のワンピースのポケットを探すと、瓶に入ったジュースと、一枚のクッキーが出てきた。
少しお腹もすいたし、のども乾いた。

瓶の蓋をあけると、何とも言えない甘酸っぱい匂いがした。
クッキーを食べて、パサパサになった口内に流し込む。
そして、またクッキーを頬張ろうとした時だ、
一匹のうさぎが通りかかる。
(遅れてしまう)
頭の中で声が反芻した。
何か、引っかかる。
前にも一度、こんなことがあったような。
妙な既視感を僕は感じていた。
食べかけのクッキーの最後の一口を食べ、ジュースの瓶を傾ける。
すると、思い付いた。
この既視感の理由と、この迷路の抜け方を。
今までにもヒントはあったはずなのに、気づくのが遅すぎる。
自分に呆れ、苦笑い。
そして、ゆっくりと目を閉じた。



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不思議の国の迷路
とい、安易なタイトルを考えたのですが、
最初からネタばれやとおもって変えました。